You are an artist!






「幸村ー」

「んー?」



彼は現在大きなキャンパスに絵の具で着色している作業の最中だ。
返事はするけど私は全く相手にされてない。

それもしょうがない。彼は文化祭のための作品を仕上げている最中なのだから。
私は幸村の邪魔にならない位置にパイプ椅子を出して座ってる。


私が彼を待っているのは一緒に帰る約束をしたからだ。
幸村はとにかく忙しい。テニス部でも忙しいし、テニス部がオフの日はこうやって 大好きな絵画を描いたり、幸村に合わせなくちゃ一緒に帰る時間も見つからない。 だから私は待っているというわけだ。



でもずっと黙っているわけにはいかなくて、私だって退屈しちゃう。
「幸村、なんか手伝う事ある?」って聞いてみても「ヌードになってくれるかい?」と 冗談を飛ばしてくる。相手にしてくれるだけ優しいんだけど、ヒマはヒマ。

絵を描いてる真剣な幸村の横顔を見れるのは良いんだけど・・・・・・・・・



と、その時だった。



幸村が絵具と絵具を混ぜて色を作って、その色を試し塗りするのに 自分の爪に塗った。まるでマニキュアを塗るように。




「幸村、ネイル塗ってるみたいだね」




私が楽しそうにそう言うと、幸村はこちらを見てニコリと笑った。
「色気のないネイルさ」と言いながらキャンパスに色を足していく。


私は自分の手を広げて自分の爪を見た。
校則で禁止されているから、ネイルは出来ないけど周りの友達は透明なマニキュアなら 塗っていたりする。あ、あと体育祭のときなんかはチームカラーに合わせて 皆でマニキュア塗ったりしたっけ。




そこにあったアクリル絵の具を少しだけ指先に取って、左の小指の爪に塗った。
ふぅー、と息を吹きかけて乾かすと小指が彩られる。



「ふふっ、可愛い♪」



1人でなんちゃってネイルをして遊んでいるだけなのに、なぜか乙女心がくすぐられる。



「何が可愛いって?」

「あ、幸村」

「キリがいいから今日はここまでにしとく。・・・で、何してたの?」


「ネイルして遊んでたの。ホラ、可愛いでしょ?」




私は小指の爪を幸村に見せた。すると幸村はクスッと笑って「可愛いなぁ」と言ってくれた。
幸村の指先はいつのまにか綺麗になっていた。・・・落としてきたのかな。




「幸村、手先器用なんだし絵も描けるセンスがあるんだし、ネイルさせたら巧そうだね」

「・・・うーん、どうだろう?」

「私は不器用だし雑だから向いてないなぁ」

「塗ってあげようか」

「え?」



幸村はそれだけ言うと美術室の奥に行ってしまった。
何か棚を開ける音が聞こえたと思ったら幸村は何かを持って私の元に戻ってきた。

美術部が現代アートみたいなものを書くときに使うグリッターの粉が入った小瓶と、 絵具を追加して持ってきたみたいだ。細い筆やピンセットまで持ってきてる辺り、 意外にノリノリじゃん幸村!?

幸村は「どんな色にしようかな」って意外にも楽しそうに色を混ぜる。
彼の事だ。私をイメージしたモノを作ってくれてるのだろう。


幸村は私の隣に座って私の手を取り、細めの筆で色を取り、指先を彩っていく。

彼の作った色は私の好きな色。
ひんやりとした筆先の感触が爪に伝わる。




「・・・・うーん、塗りにくいな」

「え?」

「もうちょっと手が固定されてるとやりやすいんだけど」

「手かぁ・・・」

「あ。ちょっとココに座って、ココ」

「え!?」



ココ、と言いながら幸村が指をさしたのは幸村の足の間。
幸村は足を大きく開いて、同じ椅子に座れと言っているようだ。



「いやっ・・・ちょっと恥ずかしいんだけど・・・・・!!!!」

「はーやーく。」

「・・・・・おじゃまします」



私は恐る恐る幸村の足の間に座った。
こんなに密着するなんて恥ずかしすぎる・・・!

幸村は後ろから抱き着くように手を伸ばし、私の手を取る。
後ろから幸村に操られているような感覚。
私の耳元辺りから顔を覗かせて、「うん、これなら塗りやすい」と満足そうに笑う幸村。
笑った瞬間、少しだけ耳元にかかる幸村の吐息にドキッとする。




幸村は集中しているのか黙って指先を彩る。
私はなんだかさっきより落ち着かなかった。
静かな分幸村の呼吸する音が耳元で聞こえる。目線を横にずらすと、 幸村の真剣な表情が良く見える。・・・さっきよりずっと。



「・・・・・できた」


「・・・・!す、すごーい!!!!!!何これ!芸術品!」




幸村が本気を出すとこうなるのか、と思うほど素敵なネイルアート。
グリッターや細かい彩りで、1つ1つ指先ごとに違うデザインなのに統一感がある。
右手も左手も自分の指じゃないみたいに可愛くておしゃれ。

嬉しくて私は指を天井に翳してニコニコと指先を見る。

可愛いし、なにより幸村がやってくれたってことに価値がある!



「気に入ってくれた?」

「とっても!!!!!!!幸村、こんなしょーもない事なのに本気出してくれてありがとう」

「でもマニキュアと違ってあまり肌にはよくないから早く落とさないとね」

「えー・・・勿体ない・・・」



私がそう言うと幸村は道具を全部置いて私の事を後ろからぎゅっと抱きしめる。
顔が近づいて、私は幸村とキスをした。

幸村に抱きかかえられて今度は幸村の膝の上に乗せられた。
幸村の向いてる方向とクロスするように座り、私と幸村はまたキスをした。
彼の舌が私の中に入ってきた。 私は彩られた指先で彼の頬に手を当てる。



ネクタイに手をかけ緩めて、シュルリという音を立ててネクタイが床に落ちる。
微かに彼の主張を感じたので、幸村に向き合うように座り直してまたキスをする。

彼の手がめくりあがったスカートの隙間から侵入してきて太ももをなぞる。




「・・・・・・あっ・・・・・・・・・・」


「ここかな?」


「・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・」




私が声を漏らすのを見て嬉しそうに笑って、いじわるな触り方をしてくる。
耐えられなくて幸村の首に回す手に力が入った。
ふと目に入った自分の爪を見て、なんだか彼色に染まったようで嬉しくなる。






「落としちゃうの勿体ないね」

「また塗るよ、のために」





彼は私を彩るのが上手い。

彼のせいで声も顔も紅潮してしまう。




(17.11.25)