彼にとっての私は何なんだろうと考えれば考えるほど、答えは出ない気がした。

なぜならば自分も彼に振り回されたいだけのような気がしたからだ。
一瞬でも興味をひいた、ただそれだけ。それだけで抱きしめあう理由になった、それだけ。

美しい見た目と意外とずるがしこいその中身、
そして紡がれる無駄のない言葉とつきつける正論。
彼の魅力に引き付けられたといえばきっとそうに違いない。
私は、彼に興味がないフリをして彼にとても興味があったのだ。

彼には彼女がいて私はただの第3者。
そんな部外者でも彼の心に入れることができるのか、証明したかったのだ。



「幸村、起きてる?」




背中合わせで寝ている彼に小さな声でつぶやくと、「どうしたの?」と返事が返ってきた。




「寝てるかと思った」

「俺もそう思ったよ」




先ほどまで触れていた肌。なのに今は怖くて触れることができない。
ベッドに少しだけの隙間をつくって、背中合わせのまま私は続けた。




「良かった?」

「・・・・・それは今日の感想を聞いてるのかな?」

「ちっ違うし。」



少し楽しそうな声色で彼は答えた。私はあわてて訂正した。



「私といてってこと」

「そうだね。キミがいるから俺は寂しくないし、凄く満足してるよ。ありがとう」

「そう・・・」

「キミがいて良かった」



本当にそう言っているのか、それとも 「都合が」 良かったのか。
問いただしてもどのみち傷つくだけだ。答えは分かりきっている。



「私が好きになっちゃったって言ったらどうする?」



私は冗談っぽく言った。
割り切るのは慣れている。いつも学校では幸村と接点のないフリをしているから、 演技力に関しては誰にも負けないと思ってる。むなしいけれど。



「嬉しいね。ありがとう」

「・・・・・」



交わし方が上手いのね・・・・



「じゃあ俺が好きになったと言ったらどうする?」

「え」

「・・・・・・なんて、こんな状況じゃ嘘っぽく思えるね。フフ」



順序がおかしいしね、と彼は笑った。



「じゃあそれに私も好きって答えたら一体どうなるの」

「はは、それは驚いちゃうね」

「・・・」

「キミは・・・・・・優しいから。こんな順序を守らない俺とじゃなくて、ちゃんとキミを大切にするような人と 付き合わなくちゃだめだよ」

「・・・・・・・」




そういうと幸村は起き上がって私の額にキスをした。



額にスイッチがあったのか、私の目には唇が触れた瞬間涙が浮かんできた。




目を閉じればアイラインのように涙がにじむ。

ああ、彼にこの涙を見せつけてやりたい。
そしてどうしたの、泣かないでと 私の事を思いやってなだめればいい。困らせてやって私の存在を私の心を、 彼の心に繋ぎとめておきたい。

きっとあなたはすぐ変化に気づくでしょう、とてもよく気づく人だから。



ぎゅっと瞳を閉じて、背中合わせになっている彼に私は精一杯念じた。




(16.1.18)