大好きなおしゃれよりもお花たちが大事なあなたに。











「幸村くん」



後ろから声が聞こえたので俺は手を止めた。
振り返るとそこにはがいた。



「幸村くんが色々してくれるから園芸部の間では、やることがないっていう 専らの噂だよ」

「ふふっ、ごめんね」



此処は屋上庭園。
立海の屋上には庭園があって、たくさんの花や植物が楽しめる場所だ。

俺が入学したころはそうでもなかったけど今では凄く立派な緑が生い茂ってる。
夏場は木陰ができていたりして、本当にここの雰囲気が俺はお気に入りだ。



「幸村くん、仕事が丁寧だもんね」



笑いながら別の植物の手入れを始めた彼女は、園芸部在籍中のだ。

園芸部と聞くと地味に聞こえるが、学校中のお花の世話をしている彼女たちは 俺からすれば尊敬に値する存在だ。は同じクラスで、今現在隣の席にいる子で 最近よく話すようになった。それまでも親交はあったけど今ほどではなかった。


周りには俺の好きな花の話をする人がなかなかいないから、
俺の話を楽しそうに聞いてくれて、から花の話を聞くのが最近の俺の楽しみ。



こうして昼休憩に俺は屋上庭園の花の面倒を見ている。
園芸部の人からすれば「勝手にしてる」と思われるかもしれないが、 運のいいことに俺は逆に感謝されているらしい。

・・・というのも、俺の入学した当初は園芸部はそこまで活動していなかった。
さっきも言った通り、屋上庭園もこんな立派なものではなかった。
だけど俺が好きで屋上庭園の花の手入れを始めたところ、徐々に 庭園が活気づいてきた。そこから園芸部の人たちが花の手入れの重要さに気づき、 今のようなまめな活動につながったらしい。(から聞いた話だけど)



「幸村くんがこうして行動してくれるから、園芸部は幸村くんに頭が上がらないんだよね」

「そんなことないよ。俺も好きでやってるし」

「幸村くんが育てた花は皆綺麗に咲くよね」

「そう言ってもらえると嬉しいな。やりがいあるよね」



は笑った。



、さっきから何の世話してるの?」

「私は園芸部の中でも菜園担当だから、さつまいも育ててるの♪」

「さつまいも!」

「そう♪」



雑草を抜いている彼女は嬉しそうに此方を向いた。



「秋の学園祭になったらさつまいもチップスにして売るんだよ♪」

「へぇ・・・」

「他にも学校の裏の畑で、いろいろ根菜育ててるからそれも合わせて 根菜チップスを作って売るのが私の目的なの」

「それは楽しみだね」

「幸村くんにも絶対食べてもらうから楽しみにしててね!」



こんな会話をしている事が何よりの幸せだ。
テニス部とはまた違った楽しさがここにはあるよね。

はしゃがみこんで一生懸命、雑草を抜いていた。

自分の手が汚れることもいとわず、さつまいもの事大事にしてるんだね。
その一生懸命な表情と楽しそうにしている姿には、見入るものがあった。



、いつも友達とおしゃれの話して楽しそうにしてるのにそんなに土を いじって大丈夫なの?」

「えっ」

「この前友達と皆でマニキュアの話をしてたでしょ?爪を伸ばすって」

「ああ!あははっ、そんなの絶対伸ばさないよ〜!おしゃれの話もおしゃれするのも大好きだけど、 こうやって雑草抜くとき邪魔だもん。指輪もネックレスもブレスレットも時計も、 可愛いからしてみたいけど土いじるとき全部邪魔なんだもん」

「・・・!」




は笑いながらそういった。
見た目は学校でも割と明るいグループにいるようないわゆる「今時の子」なのに、 おしゃれをいとわず植物のことを考えているその姿勢は意外というか・・・・・




・・・・そうだ。





そこから数分、お互いに作業に没頭する時間が流れた。





「幸村くん、そろそろ教室戻らない??」

「あっ、うん」

「・・・・・・・?」



の声を聴き、あわてて俺は仕上げに入る。



「幸村くーん??」

「・・・・できた」

「えっ?」




俺はの頭に花かんむりを乗せた。

その花はもちろん俺が育てた花たち。綺麗に咲いていたからに似合うと思って。


いつもおしゃれよりも植物を優先している、
そんな彼女にぴったりのアクセサリーだと思ったんだ。




「・・・・!!!!これっ・・・・」

「ちょうど今たくさん花が咲いているから」

「うそ!!!!!えっこれもらっていいの!?本当に!?」



俺がそういって笑うと、は興奮気味に嬉しそうに声を上げた。




彼女の頭に乗った花かんむりも嬉しそうに咲き誇っているようだ。





La coronne de fleursとはフランス語で、意味は「花のかんむり」(14.3.5)