「蓮二、ちょっといいかな」

「??どうした精市」



3時間目と4時間目の間の休憩時間。
柳のクラスに幸村がやってきた。にっこりと笑って「やあ」と手を挙げる幸村。



「ごめん、何かしてた?」

「部活のスケジュールをまとめていたところだ。大したことじゃない。
それより珍しいな、俺のクラスに精市が来るなんて」

「蓮二にも予想がつかないことかな?フフ、それはなんか嬉しいね」

「全くだ。用件を聞こう」

「恥ずかしいんだけど古典の辞書を家に忘れてしまってね。
もし次の授業が古典でなければ借りたいんだけどいいかな」



それを聞いた柳は一瞬呆気にとられたが「そんなことか。フ、勿論大丈夫だ」と言い 席に戻り古典の辞書を幸村に渡した。

次の授業は数学だからいつでも大丈夫だ、と付け加えて。



「ありがとう蓮二。助かるよ」

「しかし精市珍しいな。」

「ふふっ、うっかりしてたよ。」

「精市にもそんな時があるんだな」

「じゃあ昼休憩に返しに来るから。借りていくね」








そういうと幸村は自分のクラスに戻った。
まもなくして授業が始まる。早速授業で辞書が必要な場面が発生したため 借りることが出来て良かった、と幸村は安堵のため息をつく。

その時だった。



(・・・・・・・ん?)




パラパラ、と古典の辞書を開こうとした瞬間自動的に開いたページがあった。



(蓮二のメモかな、落としてしまった)



すぐに拾い上げて椅子に座り直し、紙きれを不意に見てしまう。
見るつもりはなく目に入ったと言った方がいいだろうか。
紙切れは2枚。1枚は懐紙に書かれたメモ書き。
そしてもう1枚は・・・



(・・・・・!)



幸村がひそかに思いを寄せる、の写真だった。

幸村は驚いた。なぜなら自分が彼女に好意がある事は誰にも言っていないのだから。
自分の知る限りと柳の接点もなかったハズだ。



(・・・・・・・もしかして蓮二、の事好き・・・・・とか?)




こうなったらメモ書きも覗き見して見てしまう。
どうやらに関するプロフィールなどのデータのようだ。

幸村とは普通に話せる間柄のため、多少は把握している事だが
さすがは柳といったところか。幸村ですら知らない細かいデータも書いてある。少し得をした気分だ。・・・・じゃなくて。



(・・・気になるなぁ。なんで蓮二がこれを?・・・俺に揺さぶりかけてるのかな)



こうなったら辞書を借りた意味はあるのかないのか。
古典の授業中はの事が気になってしょうがなくて集中できなかった。

もしかして蓮二はのことが好きで データをとっていて、このままだと蓮二に取られてしまうのだろうか。 取られてしまったら自分は応援できるのだろうか?すごく悲しい気分になるんだろうな、 でも蓮二はすごく良い奴だしマメだし几帳面だし頭が良いし優しいし、 データとるぐらいだから人の事をよく見ていてよく気が付く。付き合っても文句のつけようがないな・・・だとか。
考え始めたら妙に焦りが出てくる。





「蓮二」

「精市か」



結局辞書を借りた意味はなく古典の授業は終わり、幸村は辞書を返しに来た。



「・・・・・・・蓮二、あのさ」

「?どうした精市」


「・・・・ごめん、古典の辞書に挟まってて見てしまった」

「?」

「・・・・・・・・その、コレ。ごめんね、見るつもりはなかったんだけど」




幸村は蓮二に例の2枚を渡した。
受け取った柳は「・・・ああ、これか」と呟いた。




「・・・気になるか精市」

「えっ」

「そういう顔をしている」

「参ったなぁ・・・。キミの前では隠し事できないね」



幸村は観念したように笑った。



「俺、の事好きなんだよね」



幸村は少しだけ恥ずかしそうに小声でそういった。



「もしかして蓮二も好きなのかと思って・・・今すこしビックリしてる」

「・・・!驚いたな、精市がさんのことを好きだったとは」

「蓮二も?」


「・・・・・・・いや違う。」


「えっ」





柳のあっさりとした返事に幸村は肩透かしをくらった気分になる。
一体どういうことなのか。



「じゃあ何故写真を?」

「赤也がつい先日彼女の事をカワイイと言っていてな。
どんな子なのか気になったから調べていたんだ。写真が曲がってはいけないと思い、 古典の辞書に挟んでいたのをすっかり忘れていたよ」

「・・・・なーんだ・・・そういうことか・・・・」

「しかし、結果的にいいデータが取れたよ。まさか精市が彼女に好意を持っていたとは」

「・・・もう、言うんじゃなかった」

「こちらとしては大収穫だ」



幸村は安心したような変な気分になった。
柳はいいデータがとれたのでとてもうれしそうだ。



「で、赤也が可愛いって言ってたって本当?」

「ああ。だからいつでも彼女を使って赤也の弱みを握ろうと下調べしていただけだ。安心しろ、取ったりなどしない。 むしろ応援するよ精市」

「ありがとう蓮二。・・・・しかし、赤也がねぇ・・・。」

「?」


「蓮二になら取られてもしょうがないと思ってたけど赤也なら話は別だね!
よそ見しないように部活のメニューを一層強化しないとな。赤也に恋愛してるヒマなんてないからね」

「・・・!」



「ありがとう蓮二、それから写真俺がもらってもいいかな」

「・・・いいデータをくれたお礼だ。持って行ってくれ」

「あと赤也にもの事勧めないでね」




そう言い残して去って行った幸村。


柳は「赤也よりも精市の弱みを握った方が何倍も面白い事になりそうだ」と笑った。




(17.12.4)