「知ってる?」

「ん?何を?」


「女の子って男の2倍まばたきするらしいよ」




隣の席に座る幸村くんが、授業中にぽつりとそう呟いた。

幸村くんはたまにこうやって何か呟いてる。
隣の席の私にしか聞こえない大きさの声で。
あの女の子みたいな、でも少し鼻にかかった掠れ気味の声でそっと。


幸村くんは立海のあのテニス部の部長だから厳しいって噂を聞いた事がある。 私も友達に連れられて何度か試合を見に行った事があるけど、 素人なりに幸村くんが鬼才って言われる意味がハッキリ分かるくらいの人だった。

だけどテニス以外の彼は至って普通の中学生だと実感することが多い。
私は隣の席っていう関係性で、そこまで仲良しとも言えないかもしれないけれど
隣の席で見ている限り、意外と普通の生徒と変わらない。
(コートでは鬼だから、真田くんみたいにいつも怖いのかと思ってたけど)

ちょっと天然入ってるのかなーなんて思ったけど、芯はしっかりしてる。
おっとりしてて、よく笑ってるところを見る。




そんな幸村くんは、授業もテニス部の規律があるように真面目なのかと思えば
今みたいにふいに話しかけてくる事がある。

今なんて、数学の時間なのに膝の上には明らかに違う本が乗ってる。(おいおい・・・)

今の発言からして何かの本を読んでいるみたいだ。




「女の子ってそんなにまばたきしてるの?」

「この本によるとだけどね。医学的には違うかもしれない」

「へぇー・・・」

「確かに女の子がぱちぱちまばたきすると可愛いもんね」




幸村くんの不意打ちの発言から始まる会話は、もう何度も経験したことがあるから言わせてもらうけど、 ハッキリ言ってこの人の会話に乗ると、100%の確率で先生に怒られる。なぜか、私が。

ロクなことないけど、でも幸村くんとは喋ってしまう。

(なんか返事したくなっちゃうんだよね)



ひょっとしたら、あんなすごい神の子って呼ばれる幸村くんと少しでも繋がりがあるっていう 優越感に浸りたいだけなのかもしれないけどね。でもなんか話しかけられるってこと自体は そんなに嫌じゃない。むしろ、ちょっと嬉しい。





はどうかな?」



幸村くんが視線を本から私に向けた。
なんか目を向けられると恥ずかしくなって私は「やだよ!」と言って顔をそむけた。
けど幸村くんは私のことを覗き込んでくる。



「フフ、そんなに意識してたら分からないじゃないか」

「別にいいじゃん!本には女の子が多いって書いてあるんだから、それでいいじゃん!」

「そうだね。でもさ、」

「?」


「そう考えると男って得だよね」

「・・・・・・なんで?」

「だって・・・好きな子を見れる時間が長いってことだろ?」







幸村くんってそんなロマンチックなことも言えちゃうんだ・・・!
(普通の子ならイチコロだよね)(綺麗に笑ってサラッというし!)


私は「幸村くんでもそんなこと言うんだね」って突っ込もうと思って幸村くんの方を見た。


幸村くんは頬杖をついて、こっちを見ていた。
少し悪戯を含んだ目。でも楽しそうで何か意味深な微笑み。

思わずその変化に発言を止めてしまった。




は損してるね。」

「そうかな?仮にそうだとしても、損とは思わないけど」

「へぇ・・・。その返事は興味深いね。なんでそう思うの?」

「だって、まばたきって物体のピントを合わせる役割もあるんだよ。 だから、好きな人を必死に見ようとしてるって事じゃない?」

「ああ、なるほどね。確かにそうかもしれないね」




幸村くんはなんかに納得して本に視線を戻した。
口の立つ幸村くんを納得させたってことは結構すごいことなのかな?



「じゃあさっきからのまばたきが多いのは、俺の事をじっと見たいからかな?」

「・・・・・はい?」

「そうなんだろ?」




幸村くんはにやっと笑ってまたこっちに視線をうつした。




「いや、それは幸村くんに話しかけられて、いつ先生に怒られるか緊張してるからだよ!」

「遠慮しないでよ」

「遠慮しなかったら、私が幸村くんのこと好きってことじゃん!」

「そうだね。違うの?」



いやっ・・・・違うっていったらそれは違うし、かと言って・・・・ええええ!?
幸村くん何言い出すの!?何考えてるの!?これは本気なの!?

私は混乱した。「まばたき多いよ」と幸村くんが笑う。

だってそんなっ・・・・ええええええ!?好き!?




「俺はのことずっと見ていたいって思うんだけどね」

「!?」

「好きだよ」

「!!!???」




ななななななななななーーーーー!?
何を言い出すのこの人は!!!
さてはまた私を先生の説教にハメようと新手のいたずらを・・・!!!




「俺は赤也みたいにずっと寝ていないから、のこと長い間見てられるし、」


幸村くんは足を組み直した。


「真田みたいに早寝しないから、長い間見てられるし、」


幸村くんは本を閉じた。


「蓮二みたいに目が細くないからしっかり見ていられるし」


幸村くんはこっちを見て優しく微笑んだ。


「柳生みたいにレンズ越しでもないし、ブン太みたいにお菓子をくれる人を探してキョロキョロしない。 仁王みたいに何も企まないし、ジャッカルみたいに見守ってるだけじゃない。 今までだってちゃんとを見てるつもりなんだけど」




・・・・・・・・・!






「どうかな?」






私は状況が飲み込めなくてポカーンとしていた。
その顔を見て幸村くんがプッと笑ってこういった。




「さすが。かわいいね」





私はまた目をパチパチさせて驚いた。




まばたきは実は男の人の方が多い説もあるみたいです。 うそがばれそうなとき瞬きするからだとか。男の人は嘘をつくのが下手なのでその分 まばたきも多くなるみたいです。いろんな説があるみたいですね! ブリンクとは「無意識なまばたき」、ウインクは「意図的なまばたき」って意味らしいです。(12.6.6)