恋をすると、汚くなる。











「ねぇ蓮二。やっぱり精市ってA組の西村さんのこと好きなのかなぁ・・・」



私がぽつり、とそう言うと蓮二は黙った。



「その答えを例えば俺が知っていたとして、答えてもいいのか?」




蓮二の的確な返答に私はくすっと笑った。
私だって気付いてる。精市のことを好きだからこそ、気付いている事がある。


彼は、一途な人間だ。
だから好きな人ができると、きっとその人を分かりやすいくらい大切にする。
その子の事をじっと見つめて、精市自身から逃さないように相手を見続ける。


私はつい最近まで精市のなかで「一番仲の良い女の子」だと思ってた。

部活が一緒だし、私には冗談も言ってくるし、
が一番頼みやすいからね」と言ってくれた事もある。
もちろん私はそんな精市の言動や行動に対して、少しずつ好きになったわけだ。
精市だって私のこと好きだって思ってくれてると思ってた。


なのに。



最近の精市は私より西村さんの事を優先するようになった。

なんていうのかな、前までは私をちゃんと見てくれて喋っていてくれたのに
急に精市はそっけなくなった。ううん、精市は今まで通り優しいんだけど、 何言えばいいのかな。私に向いていたベクトルがなくなったっていうか(女の勘ってやつ?)。 ただのお友達になった気がする。


私に対してそっけなくなった代わりに、精市は西村さんに優しくなった。

委員会が一緒なのか、西村さんと楽しそうに話す精市。
辞書を忘れたんだ、と言い西村さんに借りに行く精市。 精市が忘れ物をするなんて事なかったのに・・・。もしかして、西村さんに 借りたいがためにわざと忘れたのかな、なんて思ってしまう。

そう、分かりやすいくらい彼は彼女を大切にしはじめた。



ううん、精市からすれば私に対して友情以上の感情は元々なかったんだと思う。
なのに舞い上がってる私がばかみたいだ。
精市が本当に恋をしたら、私に接していた時以上に精市は優しくなるんだ。




は、分かっているのだろう?」

「なにが??」

「俺から答えを聞かなくても、もう分かっているはずだ」

「・・・うん・・・」




「昨日は部活がオフだったから花の苗を見に行ったんだよ」と楽しそうに話す精市。

あえて誰と行ったのか、精市は言ってなかったけどきっと西村さんを 誘ったんだと思う。私は花の苗を一緒に見に行くようなキャラじゃないし、 誘われなくて当然なんだけど。

仲良しの蓮二も誘われなかったんだから、と必死に自分を説得してみる。
だけどどうしても納得できないよ・・・


どう推理しても答えはシンプル。

精市は西村さんの事が好きで、西村さんも精市が好き。



精市の行動も、西村さんの顔も、全てこの答えで繋がる。

蓮二に聞かなくても分かってた。


精市はあの性格だから、一度決めた事は最後までやり抜くと思う。
だから必ず精市は精市の恋を成就させるハズだ。

彼は有言実行、だから。


精市に彼女ができるのは時間の問題。でも、もう止めることなんてできない。
今更私が思いを告げてたって、精市が止まるはずもない。
きっと精市は「ありがとう」と言う、だけ。




「恋をすると人は綺麗になるっていうよね」

「・・・・・」

「最近、西村さん可愛くなった。きっと西村さんも精市のこと好きだよ。」

「そうか」

「私も恋してるよ。でも、綺麗になれたかな」

「・・・」



どんどん汚くなっている気がする、よ



「このまま、精市が幸せにしてるところを見て耐えられる自信がないなぁ」

「そうだな」



精市、西村さんのことなんか好きにならないでよ

誰か誰でもいいから、西村さんのことを攫って行ってよ


精市が楽しいなら私も楽しい
つい先日まではそう思えていたのに、今は精市の不幸を願ってる

精市のためならどんなことでも耐えられるって思ってた
精市が幸せになれるなら何でもしてあげたいって思ってた
だけど私は自分のこと以外考えていなくて、結局は 精市の幸せというよりかは自分の幸せを祈っているんだ。 ああ、こんなんだから汚いのよ。恋は私を汚くする。 こんな汚い心を持つ私を、精市が好きになるわけないよね。




「・・・精市は、私の気持ちに気づいているかな」

「どうだろう。それは俺にも分からない。精市のみ知ることだ」

「そうだよね」



ねぇ精市。私の気持ちを知っててこんなことしてる?


これ以上見せつけないでよ。
精市が恋焦がれてるところを見たくない。

汚いね、汚いよね



「私、精市以上に好きになれる人なんていないと思う。 あんな人いないよ、どこにも」

・・・」

「でも精市にとって私はそう思える人じゃなかったんだよね。 これって仕方ないことだよね」



自分に言い聞かせる。
仕方のないことだった。精市には精市の気持ちがあるからって、言い聞かせた。

蓮二がいてくれてよかった。
蓮二に言う事で自分を納得させられる気がしたから。


心の中で精市への思いを殺すには、一人じゃ無理だった。
それにこの思いが孤独に死んでいくのが悔しかった。
誰かに、こんな小さな気持ちもあったんだよってことを知ってて欲しかった。




「それでも」

「・・・!」

「精市が好きだ、とお前はいう。違うか?」

「・・・・・・っ」




蓮二は冷静にそういった。

・・・そうだね。私は、結局そうなのかもしれない。




「ありがとう、蓮二。なんかちょっとスッキリしたかも」

「そうか。なら良かったんだが」

「まだ完全に振られたわけじゃないけど、振られる前の予防線ってことで。 これで精市が西村さんと付き合う事になったとき、少しはダメージ少ないと思う」

「あまり思い詰めるなよ、

「ふふっ、ごめんね」




「じゃあまた放課後の部活でね」と告げ、私は蓮二の前から去った。










「・・・・・そろそろ出てきたらどうだ?精市」





が去り、誰もいなくなったところで蓮二はそう言った。すると。



「フフ、バレてたか」



腕を組み壁にすがって、先ほどの会話を全て聞いていた幸村が蓮二の前に現れた。 フフ、と笑いながら幸村は蓮二の隣に移動した。



は気づいてなかったみたいだがな」

「さすがだね、蓮二」

が気になるか」



フ・・・と笑いながら蓮二は幸村に言った。すると幸村もくすくすと笑いながら、 「じゃなくちゃ立ち聞きなんてしないよ」と答えた。



「悪趣味だね、俺も」

「気になるなら仕方ないと思うが?」

「・・・がまさか俺の事をそんな風に思っていてくれたとはね」



切なく笑い、幸村は言葉を綴った。



「知っていたのだろう?」

「そうだね。気づいていたし、確信もあった。」

「ならば何故を苦しめるようなマネをする? 敵わない思いだと知ったんなら、そこで切るのも優しさだと思うが・・・」

「綺麗なんだよ」

「・・・・・??」



の悲しすぎるほど痛い気持ちを知っているため、蓮二がのために 反論をした。しかし幸村はそんな蓮二の言葉を一言で返した。 さすがの蓮二も予想外すぎる一言に戸惑ってしまう。



「俺は西村が好きだよ。近々告白しようと思ってる」

「・・・!」

「きっと西村もOKくれるだろうね。そうだろ?」

「そうだな。俺もそう予測している」

「付き合う事になったら、俺は敢えてにも報告しようと思う」

「?何故・・・」

「フフ、蓮二にはわからないだろうね。俺がに西村の話をするとね、 は凄く切なく笑うんだ」

「・・・!」

「その顔が綺麗だから、俺はわざと西村の話をする」

「精市・・・。」

「おかしいかな。でもね、これからもやめるつもりはないよ。 は俺だけ見て俺のために切なく笑えばいい。」




だって、



俺を思って俺の事で切なく笑うきみは 誰よりも何よりも美しいからね



そんなは俺だけのもの。
キミにはこれからも優しく接して、俺から離れないようにしてやる
絶対に嫌いになれないように してやるさ

少しずつ好きになったんだ 簡単に忘れることなんて出来ないだろう?


何も考えるな 俺だけ見てればいいんだよ





I wanted to fall in love with you and to become beautiful.
(あなたに恋して私も綺麗になりたかった)



(これが俺のやり方、)


(10.9.24)