1 . 右 も 左 も



「俺は右!仁王は?」

「左じゃな」

「えーっ!仁王先輩左っスか!?絶対右っしょ!」



何やら討論を交わしている様子のブン太・仁王・赤也。
いつになくその顔と発言の熱は真剣だった。



「皆さっきから何喋ってんの??」



右だとか左だとか、よく分からない熱い討論を繰り広げている3人を不思議に思ったのか が3人に問う。



「右と左どっちが良いって話??」

「まぁそういうことになるのぅ」

「いやー!幸村部長についてる2人のナースいるじゃないですか。 どっちが好みのタイプかって話してたんス!」

「ええ!?・・・あんたたちホント・・・そういうの好きよね・・・」

「だって学校に看護師だぜ!?テンション上がるだろぃ!」



年頃の男はそういう目で女を見てるのか・・・。
は少し落胆した。わざわざ病院を離れて学校に来てまで仕事を全うする 素晴らしい看護師さんが、このアホな3人に完全にやらしい目で見られていたのだ。 男って本当ばかな生き物ね、とはため息をついた。

それと同時に「幸村もどっちがタイプとかあるのかな」と思った。
幸村も年頃の男の子。やはりそういう話をするのだろうか。



はどっちが可愛いと思う?右と左」

「ええ!?ど、どっちって・・・どっちがどっちか分かんないし」

「向かって右がボブの人で、左がメガネかけてる人!どっち?」

「えー・・・どっちも可愛い人だと思うけど・・・」



彼氏の幸村がまだ万全ではないために看護師をつれて登校しているのは学校中が知っていること。 今までは「看護師さん連れなくちゃいけないくらい、幸村はまだ安心できない状況なんだ」 と思っているだけであったが、今の3人の話を聞くと違う思いが浮かんでくる。

幸村もやっぱり、看護師さんに萌えたりするのかな。と。

確かに看護師の人は可愛い人が多かった。
それだけに少し心配になってくる。


職務を全うしている看護師さんに対してこんな嫉妬を向けるのは、 彼女たちを完全に女の目線で見ている。ああ、あたしもこいつらと同じ ばかな生き物なんだ、とはまたため息をついた。



「でも俺は先週来てた左の人が今んトコ一番っスね!!ドストライク」

「そうかぁ〜??ありゃ完全に自分の武器分かってるって顔だぜ。やめとけやめとけ!」

「俺は先々週の左じゃな。あれは結構来た」

「俺は今週の右!ナチュラルで可愛いと思う」

「え・・・。毎週チェックしてんの?」

「「「当たり前(だろぃ)(っス)(ぜよ)」」」



すると、その時だった。



「皆、早いね」

「あ、幸村!」



もう看護師の人は帰る時間のようだ。
幸村は左腕を抑えながら部室に入ってきた。(注射を打ったきたようだ)
は開けにくそうな幸村を手伝って、部室のドアを代わりに開けた。
すると幸村は「ありがとう」と微笑んだ。



「そうだ!幸村部長にも聞いてみましょうよ!」

「俺?」

「やっぱこういう話題は皆で共有しねぇとなぁ〜!」

「フフ、何の話だろう」

「幸村に毎日看護師が2人ついとるじゃろ?」

「そうだね」

「毎週右の人がいいか、左の人がいいかで盛り上がっとんじゃ」

「そんなことで盛り上がってるのか」



幸村は笑いながら突っ込んだ。
しかし「えー・・・」と引かないということは、幸村も3人の気持ちが分かるのだろう。 幸村もやはり男なんだとは思った。



「で、幸村はどっち??」

「え?」

「右と左、どっちがいい!?」



3人に聞かれて「あー・・・。うーん・・・」と悩み始める幸村。
は思い出せるほど毎週の看護師の顔なんて覚えてはいない。
記憶を探れる、ということは意識して幸村も顔を見ていたんだろうか?

「幸村のばか・・・」と嫉妬心丸出しで幸村の回答を待つ。



「・・・そうだな、どの人も凄く優しくて良い人だけど、」

「良い人だけど??」

(ワクワク)




「・・・・・うん、やっぱり俺はどの人よりもが可愛いと思うかな」




(・・・・え?)




が幸村の方を目を丸くして見る。




「俺はが一番良い」




幸村のやたら真剣なまなざしが、言葉に信憑性を持たせた。
は「ええー!!」と言いつつも顔を緩ませた。



(でもま、確かには可愛いけどな)(俺もがナース服着たら 絶対派じゃのう)(え!?先輩アリなら俺も先輩が良いっス!) (ばか赤也!声がでけぇ!幸村に聞こえたら殺されるぞ!)










2 . 上 も



「あっ、OBの先輩だ!ほらあそこ」

「本当だね。俺達みたいに部活帰りなのかな?」



部活帰りに幸村と2人で帰っていたら、街中でOBの先輩を見かけた。
この距離じゃあっちは気づかないだろうなぁ・・・。



「・・・私、そういえばあの先輩に1年のとき告白されたなぁ・・・」

「え・・・?」



幸村が私の顔を見る。あれ、言ってなかったっけ・・・。



「告白されたって・・・。はその告白を受けたのか?」

「まさか!」

「そうか。それならちょっと安心」

「でもね、今だからぶっちゃけるけど無理矢理キスされそうになった事があるの」

「・・・は?」

「その年の卒業式のときだったかな。私呼び出されて・・・。思い出しただけでゾッとするよね。 もちろん拒絶したけど・・・やっぱりキスは好きな人じゃないと・・・」

「・・・」

「幸村?」

「フフ。いい度胸してるよね。先輩も」

「え?(あ、やばい先輩が危ない)」



すると幸村は立ち止まった。そしてさっきまでは繋いでいなかったのに、 急に私の手をぎゅっと握ると胸のあたりまで手を挙げた。ゆ、幸村?



「今から挨拶しに行こう」

「へ?」

は今も昔も俺のだって見せつけなくちゃな」



幸村は私をひっぱるように先輩の方へと向かって行った。
あの先輩に会うのは私としては気まずかったけど、でも幸村がそういうなら 満更でもないなぁーって思った。


(・・・先輩、顔ひきつってたね)(そうだね) (でもあれから2年経つし、先輩も新しい彼女いるだろうにね)(男は前に好きだった子が自分以外の男と親しそうに一緒にいると、 一番嫌な気分になるからね)(そ、そうなの?) (うん。だから見せつけてやったんだよ)(そ、そう・・・)









3 . 下 も



「赤也って、本当からかい甲斐もあるし憎めなくて可愛いよねー」

「フフ、そうだな。入学したときから変わらず面白い子だよ」

「私も思った!入部初日から幸村に勝負申し込んだときはヒヤッとしたもん」

「懐かしいよね」



いい天気なので、昼休憩に私と幸村は屋上でお弁当を広げ談笑を楽しんでいる最中です。

こんなにいい天気なのに、なぜか他の生徒がいないから貸し切り状態。
もしかしたら給水塔の上に仁王が寝てるかもしんないから3人かもしんないけどね!


話題の中心はやっぱりテニス部。
今日はなぜか後輩について2人で話していた。



「でも最近はしぃ太くんが可愛いかな。なつっこくて可愛いの!」

「しぃ太・・・。1年の浦山か。確かになつっこいね」

「この前学校帰りにソフトクリーム屋さんでたまたま会ったの。 その時ソフトクリーム食べてる姿がめちゃくちゃ可愛くて、萌えーだったよ」

「・・・・・ふぅん」



不敵な笑みを浮かべる幸村。
あれ!?私変なこと言った!?



「幸村、どしたの?」

は無邪気な子が好きなんだね」

「え?いや、そういうわけじゃないけど・・・。でもまぁ部活であの2人を見てると 飽きないよね!」

「へぇ、赤也と浦山くんを見るんだ」



なんか幸村の微笑みが怖くなってきた・・・!(威圧感がある!)



「俺のことは見てくれないのかな」

「なっ、幸村のことはそりゃ彼氏・・・だし、目で追って・・・」

「でも赤也と浦山くん見てる方が楽しいんだよね。俺よりも」



幸村はどうやら私があまりに楽しそうに後輩の事を話すから、嫉妬してるみたい。
う・・・。幸村って普段は大人だし、私の話を笑って聞いてくれるからついつい 忘れてたけど・・・そうだった。

部員の話はある程度は許してくれるけど、あんまり話しこむと機嫌損ねちゃうの、忘れてた。



「・・・

「・・・・・・・ハイ」

は俺の事好きなの?」

「すっ、好きだよ!当たり前!」

「どのくらい?」

「すっごく!」

「・・・・・もっと具体的に言ってくれないと伝わらないな」



出た・・・!幸村の得意技、嫉妬からのドSモード・・・!
(でもこうなったら機嫌を直すには言う事を聞くしか方法はないからね・・・!)

私は幸村に近づいて、幸村を見上げて、恥ずかしさを堪え答えた。



「誰よりも好きだよ、幸村」

「精市。」

「・・・。誰よりも精市が好き」

「どの規模の誰か全然伝わらないよ」

「〜〜〜!」



なんかいつもより無理難題を押し付けてくるなぁ・・・!
私、絶対顔真っ赤だ。



「立海の・・・」

「へぇ、その程度なんだ」

「・・・せ、世界の誰よりも」

「誰が?」

「精市が好きだよ・・・」

「フフ、ありがとう。俺も世界でが一番好きだよ」



(幸村って、嫉妬心とか独占欲が強いっていうよりも、支配欲が強いってかんじだよね) (あれ?だめかな?)(そんな綺麗な顔してよく言うよ)(フフ、嬉しいだろ?) (・・・うん)



短編にもならない短い話を3つパックしてみました! タイトルはお気づきの方も多いと思いますが幸村くんのミュの持ち歌からです (10.6.28)