午後の練習が終わった。

終わった時は皆今にも倒れそうなくらいの疲労顔だった。
おつかれ・・・皆。でも私もさすがに今日はキツかった。


あの幸村ですら顔に余裕がないくらい疲れてるっぽいし
これは寄り道もなにもせず帰っちゃうパターンだよね。







「丸井先輩ーーーーー!!!この後勿論行きますよね!?祭り!!」

「ったりめーだろぃ☆俺はそのために練習頑張った!」

「・・・ったくお前ら本当に元気だな・・・」

「え?ジャッカル先輩も行きますよね??」

「えっ!俺もかよ!」

「よーっし決定!!今から行くぜーーー!!!」

「ジャッカル!丸井!赤也!!!!寄り道するとはたるんどる!!」

「げーっ!真田副部長・・・!」




部活の片付けや着替えが終わり、皆揃って帰路についていた時だ。

どうやら私が思っていた以上に皆は体力があるみたい・・・。
赤也とブン太とジャッカルはお祭りに行く気満々だし。
(元気すぎ!!)(あんなに動き回ってたのに!)


皆で校門を抜けて歩いていると昼間見た時よりたくさんの浴衣姿の人たちが、 こぞって同じ方向へと歩いていた。浴衣を着た小さな子どもはピョンピョン 跳ねながら楽しそうに走ってる。

手をつないで浴衣デートをしているカップルもたくさん歩いてる。
浴衣姿の女の子、やっぱり結構いるなぁ。
みんな・・・・・可愛いなぁ・・・。

はぁ、私はため息をついた。




「お疲れ、

「幸村!」



さりげなく隣に並んできた幸村。
私は浴衣姿の人から視線を外し、幸村の方を見た。



「おつかれ幸村。今日の練習はさすがにきつかったでしょ?」

「そうだね。俺が考えといて何だけど、物凄くキツかったな」

「あんな練習の後なのに・・・赤也もブン太もジャッカルも真田も元気だよねぇ・・・」



私は走っていく彼らを見ながらそう言った。
すると幸村はクスクスと笑って「本当だよね」と答えた。



「私も今日はさすがに疲れちゃったよ・・・。あんな元気欲しいな」

にはそんな元気がないのかな?」

「あったらこんな顔してないって」

「それは残念だな。この後、お祭りに行こうと思ったんだけど」

「・・・え?」



突然の幸村の言葉に私は思わず幸村の顔を見てしまう。
今なんて・・・



とデート、したいんだけど」

「幸村・・・??」

「普段はあまりこういうの連れて行ってやれないし、 かといって部活がオフの日は滅多にないし。こういうチャンスがないとデートできないだろ?」



ゆ、ゆきむら・・・??(え!)(超嬉しい!!)

幸村のお誘いの言葉で私の疲れは一気に吹き飛んだ。
え、だって幸村ってそういうノリに乗ってくれるとは思ってなかったし・・・!!
幸村が誘ってくれるなんて意外過ぎて凄く嬉しい!!


・・・けど・・・




「・・・どうしたの?嬉しそうじゃないね」

「え・・・。ううん!そんなこと・・・」



私は今の自分の格好をもう一度見た。


目の前で浴衣を着ている女の子はキラキラ輝いて可愛いのに、私といったら 髪はボサボサだし汗かいてるし、いつもと何ら変わりない格好だし。

シンデレラがお城のパーティに行きたい時の気持ちが痛いくらい分かる。
憧れの場所、行きたいと思う場所。でもそれに見合う格好じゃない。
たまには着飾った格好で、そういう場所に行きたいじゃない。


幸村にだって可愛いって思われたいの!




「・・・・・。」

「・・・」




幸村と一緒にどこかに行くのは嬉しい。本当に嬉しい。
でもね幸村。周りの友達が着飾ってる中にこんな格好で飛び込むのは恥ずかしいよ。

私が何も言わず黙り込んでいた、その時だった。
急に手首を凄い力で握られた。え!?幸村・・・???




「ちょっと来て」

「ゆ、幸村?一体どこに・・・っ」

「いいから」



幸村に引っ張られて歩きだす自分。幸村・・・!?
幸村はお祭りとは反対の方向へと歩き始めた。








「・・・ええと、此処は・・・」



連れてこられた場所は見覚えのある場所だった。
だって此処って・・・!



「フフ、そうだよ。蓮二の家だね」

「なんで柳の家に・・・」



私がそう言いかけたとき大きな家の門が少しだけ開いて、中から柳が出てきてくれた。



「そろそろ到着するころだとは思っていた」

「やあ蓮二」

「柳・・・??」

「まぁ中に入れ、精市・。もう準備は出来ている」

「準備!?何の・・・」

「フフ、さすがだな蓮二。じゃあお邪魔させてもらうよ」



何が何だか分からない状態の私は、幸村と柳に連れられて 柳の家にお邪魔することになった。門を入ると 広々とした和風の庭園が私たちを迎えた。 想像以上の柳の家の凄さに圧倒されているけど、今はそれどころじゃない。
一体幸村と柳はどういうつもりなんだろう・・・!?


柳に押されるままに、家に強制的に上がらされた。
広い家の廊下を進んでいき「入れ」とふすまを開けて言われた部屋は、 20畳ぐらいの広い和室。天井が高くて、とても綺麗な部屋。
・・・ってそんなこと言ってる場合じゃなくて・・・




「何!?何なの!?」

「そんな驚かないでよだってきっと喜ぶから」

「喜ぶ・・・??」


「いらっしゃい、精市くんにさん」

「!?」




驚いてふすまの方を見ると、そこには柳のお母さんがいた。
お母さんは「よいしょ」と言いながら浅くて大きな箱を室内に持ち込んだ。
柳も同じように浅くて大きな箱を持って入った。



「こんにちは・・・。あ、あの・・・」

「嬉しいわ、このサイズの浴衣がまた誰かに着せれるなんて」

「え!?浴衣って!?」

「話は後でゆっくりするよ。だから、着替えておいで」

「???」








何がなんだか分からないまま、私はシャワーを浴びて柳のお母さんに浴衣を 着せつけてもらった。着せつけてもらった浴衣は、私好みの色柄で凄く気にいった。

髪も可愛く結ってくれて、さっきまでの自分とは大違いの姿だ。
鏡で後ろ姿や横からの姿を何度も確認するくらい可愛い。
柳のお母さんの着せつけ方はとても丁寧で、全然帯もキツくなかった。


でも何でこんな事に・・・




「お待たせ」

「ゆきむ・・・・ら!?」



後ろから声がしたと思って振り返ると、そこには浴衣姿の幸村が立っていた。
浴衣姿の幸村は初めて見るしとても新鮮でかっこいい、と思ってしまった。

思わず言葉を失ってしまう。



「・・・・・・!!!!!」

「ハハ、そんなに驚くくらい似合わないか?」

「その逆!すっごくかっこいい!!」

も凄く可愛いよ。浴衣姿、似合ってる」

「!!!」



幸村の発言はとてもお世辞とは思えないくらい気持ちが籠もっていて嬉しかった。
幸村がかっこよすぎて視線を外す私に対して、幸村はずっと私の事を見ていた。

そして目の前に立って、私の頬をそっと片手で触り「綺麗だ」と優しい顔で言ってくれた。




「さ、時間も勿体ないし行こうか。早速」

「行くって・・・?」

「さっき言っただろ?・・・お祭りだよ」

「えっ・・・・・えええ!?お祭り!?」

「うん。ほら、行こ?」



幸村が手を伸ばすから、私はその手を取った。
幸村はすぐに私の手と自分の手を絡めて、いわゆる「カップル繋ぎ」をしてくれた。



「・・・実はね、正直言うと今日お祭りだったなんて知らなかったんだ」

「!」

が昼休憩にコンビニに行ったときに赤也が教えてくれてね。
が祭りに行きたがってることをそこで知ったんだ」

「・・・」



幸村・・・・・??



「でもコンビニから帰ってきたは、浮かない顔をしてた。 ブン太と一緒に出て行ったって事は確実にコンビニついでに屋台に寄ったはずなのに。 ・・・赤也が言うほど行きたがってないなって思った」

「え・・・。じゃあ何で・・・」

「うん。だからブン太に聞いたんだよ。は祭りに行きたがってるのか、ってね。
そしたら浴衣姿の女の子をずっと羨ましそうに見てたって教えてくれた」



ぶ、ブン太め・・・!!!
(ていうか私どんだけ羨ましそうに浴衣姿の子見てたの・・・!!)



「そこで蓮二に相談したら、蓮二のお母さんが浴衣の着せつけをしたがってるって 教えてくれた。何でも、蓮二のお姉さん用に取り寄せた可愛い色柄の浴衣が、 あまりお姉さんが好きじゃない感じの色柄だったみたいでね。

でもお母さんはその色柄が気に行っていたからどうしても誰かに着せたかったみたい」


「・・・!それで私に・・・??」

「うん。でも驚いたよ。・・・本当に可愛いから」

「なっ!!何言ってんの、浴衣が可愛いだけだよっ・・・」

「ううん。凄く似合ってるよ。」

「〜〜〜!!ずるいよ幸村、幸村だってかっこいいのに、そんなこと言わないで・・・」

「照れてるのか?」

「当たり前じゃん!幸村が・・・かっこよすぎてもう・・・っ」

「フフフ」

「ありがとう幸村・・・!!ほんっっっとに嬉しい!!」

「その笑顔は何より」




出店が立ち並ぶ通りに差し掛かると、立海の生徒をはじめ私の友達もたくさんいた。
皆浴衣姿ですごく可愛い。・・・けどさっきとは違う感覚で「可愛い」と思える。

さっきまでは羨ましいだとかいいなぁ、とか妬みも込めた見方をしていたけれど、
今は「私だって可愛いでしょ?」っていう余裕の見方が出来る。


少しの優越感を感じているのはきっと・・・



「・・・ん?どしたの??」

「ふふふっ!何でもない☆」



隣に幸村がいるからかな。


・・・皆が「幸村とが浴衣でデートしてるーっっっ」って騒ぐのが楽しい。
幸村のファンが幸村の浴衣姿に騒いでいるのが嬉しい。
そのかっこいい人は、私の彼氏なんだよって思っちゃう。

性格、悪いかな。

でも、たまにはこんな日があっても・・・・・いいよね!




「・・・っあーーーー!!!!幸村部長と先輩発見!!!」

「・・・!?この声は」

「やあ、赤也。それにブン太・ジャッカル」



人ごみの中で例の3人に出会った。
3人は両手に食べ物を持ち切れないくらい持っていて、満喫しているみたいだった。



「う、わぁ・・・!先輩、かわいいっスね・・・!!!」

「本当!?ありがとう、赤也!」

「へーっ。の浴衣姿、いいな」

可愛いじゃん!!ふぅ〜っ!天才的☆」

「あははっ!ありがとう!!」



私は隣にいる幸村を見上げた。
すると幸村は「良かったな」といわんばかりの微笑みを私に向けてきた。









(10.6.20)