「おはようございまーっす!!先輩!」

「あ、赤也。おはよう☆」



本日はとてもよく晴れた土曜日。
土曜日といえば学校は休み。面倒で眠たい授業がない一日だ。

ほとんどの生徒は土曜日を思い思いの過ごし方で過ごすのが一般的だけど、 残念ながら王者・立海大付属のテニス部にそんな言葉は存在しない。


休日といえども関係ない。毎日練習、だ。



全国連覇を繰り返す、日本一のテニス部なのだからそれは当たり前。
私もテニス部の練習を支えるのは好きだし、このマネージャー業も 厳しい中楽しくやっているし全く気にならない。(皆といるのが一番楽しいし!) 何よりそれが当たり前だと思って今までやってきた。




「いやぁ〜!しっかし今日も朝から暑いっスね〜。練習前なのに 汗だくっす」

「ねー!ほんっと暑いね。もう夏なんだね」



この前進級したと思ったのに、季節は夏になっているみたい。
ふと空を見上げてみると夏空が広がっていた。
うん、いい天気。絶好の練習日和!

そんなかんじで赤也と談笑しながら学校へ向かっていたちょうどその時だった。




「・・・ん?先輩!!あれ見てくださいよアレ!!」

「え?何何?」



赤也が何かを発見したみたいだ。
私の肩をばしばし叩いて、何かを必死に指さす。何だろう??

赤也の指さす方向に顔を向けるとそこには。



「あ! お祭りの屋台だー!!」



今日は縁日でもあるのか、とある道筋に入るとお祭りによくでる屋台がズラリと並んでいた。 勿論今はまだ準備中みたいだけどね。 赤也は「ああそっか、そういえばそんな時期ですよね」と納得していた。 言われてみれば・・・毎年この時期はお祭りがあった気がする・・・!!

そっか。今日は土曜日かぁ・・・。




「いーっスね!!!今日はお祭りなんすね!!」

「そうだねー!」

「屋台出てるだけでなんかテンション上がりません!?」

「分かる分かる!いいなぁ〜。今日はお祭りなんだね〜・・・。」




お祭りかぁ、いいなぁー!
そういえば今週、友達も騒いでた気がする。「彼氏と浴衣で行くんだ♪」とか 「手繋ぐチャンスだ」とか「お祭りなんて去年以来だし楽しみ!!」とか。 そっか、みんなわくわくしてたのは・・・特に意識もしていなかったけどこのお祭りのせいなのね。



「よーっし!!俺も練習帰りに丸井先輩とジャッカル先輩と行こっと!!先輩も行くんスか!?」

「え?」

「だからー!幸村部長と」

「あー・・・」



幸村部長こと幸村精市。
彼は私の彼氏であり、テニス部部長キャプテンを務めている男である。

夏祭りについてクラスで少し騒がれていたのは気づいていたけど まだ先の話だと思っていたし、幸村と行くことなんて考えてなかった。 というか幸村と夏祭りの話なんてしていないし!



「あれ??行かないんスか!?」

「うん、全然そんな話出てなかったからねー」

「帰り道に行ったらいいのに!!」

「うーん。でも今日の練習はいつもよりメニューが鬼だし、 丸一日練習があるし・・・帰り道にそんな体力残ってるかなぁとか思ったり」

「ええ!?今日キツいんすか!?」

「うん。昨日幸村と真田と柳が考えたメニューをもらって確認したから間違いないよ。 先週の2倍ぐらい」

「げーっ・・・!!!マジかよ・・・」

「そんな練習をこなした後じゃ、幸村も疲れてるだろうし多分行かないよ。 ああ見えて一応病み上がりだし」

「そっか・・・」

「もちろん誘われたら嬉しいけどね!」

「だったら行きましょうよ!誘いましょうよ!」

「うーん・・・。でもやっぱり幸村次第、かな。」

「・・・!」













想像以上に今日の練習はキツかった。


この絶好の天気が憎らしく思えるほど、汗だくで皆練習に励んでいる。
あまりの暑さで集中力が途絶えそうだけど、そこで切らさないのが 王者な彼らだ。いつもどんな状況でも涼しい顔をしている幸村でさえ、 汗を滝のように流してしんどそうな顔を浮かべている。



「皆集合して!」



幸村がそういうと、部員全員が幸村の前に集合する。



「この前の遠征試合に勝ったとはいえ、皆動きが悪すぎるよ!
午後の練習ではそんな姿勢が見えないことを期待する」

「「「「「 はい!!! 」」」」」

「じゃあここで昼休憩を取ろう!」

「「「「「 イエッサー!!! 」」」」」




午前の練習が全て終わり、昼休憩の合図が幸村から入る。



「あー!!!つっかれたー!!!」

「ええ。今日の練習は・・・一段と・・・!!」

「今日のメニュー鬼だな!!あーしんど・・・!!!」

「汗が止まらないぜ」



皆の背中を見ると、ユニフォームが汗で濡れていて背中にくっついてるのが分かる。
午後からは今よりも太陽が照るだろうし、辛いだろうなぁ・・・。



「よーっし!!メシ買いに行こうぜいっ!!誰か行く人ー!?」

「あ、私行こうかな!」



ブン太がコンビニにご飯買いに行くみたい。
私は手を挙げて財布片手にブン太についていった。すると。



、コンビニに行くのか?」

「うん、今日お弁当作ってなくて」



幸村が私を呼びとめる。



「そうか」

「あっ、先に食べてていいよ!気にしないでね」

「いや。が戻るまで待ってるさ。皆で

(((俺らも!?)))



今まさにお弁当に手をつけようとしていた赤也やジャッカルが 顔をひきつらせた。



「ブン太がお菓子ばかり買わないよう見張りを頼むよ。フフ」

「ひっでーな幸村!!」



私は幸村に見送られながらブン太とコンビニへ向かった。








「さーって何食おうかなぁー」



ブン太と財布片手に校門を出る。
一番近くのコンビニまで向かっているわけだけど、近いとはいえこの炎天下の中では 凄く遠く感じる。デザート買うと傷んじゃうかな、なんて考えながら ブン太の話に相槌を打った。

・・・と、私たちが歩いていると。



「・・・ん??浴衣?」

「あ。」



私とブン太の前を、浴衣姿の女の子が2人横切った。

髪をアップにしていて涼しそう。浴衣の柄も夏らしく清楚な模様。
思わず2人で浴衣姿の子たちに視線を奪われてしまった。



「おい、見たか?浴衣だったぜぃ」

「そうだね。今日は夏祭りがあるみたいだし、もう屋台とか出始めているのかもね」

「マジ!?あーもうそんな季節なのか」



その後コンビニにたどり着くまでに、浴衣姿の子と何組かすれ違った。
私とブン太の会話の話題はやはりお祭りのことになる。



「いいねー祭り。クレープにたこ焼きにアンズ飴!うまいモンいっぱいあるな!!」

「あははっ!食べ物ばっかじゃん、ブン太」

「だって彼女とか別にいねーし。食い物くらいしか楽しみねーだろぃ」

「赤也もブン太とジャッカルと帰り道に寄りたいって言ってたよ」

「赤也が?・・・しゃあねぇな。行ってやるか☆」



・・・しゃあねぇとか言いながら、楽しそうじゃん。ブン太。



も幸村と行くのか?」

「・・・あー・・・。うん、別に約束とかはしてない、かな」

「行けばいいのに」

「・・・んー」

「なんだよノリ悪ぃなぁ。誘われたら行くだろ??」

「・・・うん、今朝まではそう思ってたんだけど・・・・・」

「だけど?」


「・・・・・・さっき浴衣姿の子を見たら、行きたくなくなった」

「はぁ!?」




だってそうじゃん・・・。

皆はあんなに着飾って、可愛い浴衣を着て、彼氏や男の子にアピールできるのに
私の格好なんてジャージだし、帰り道なんて今より汗かいてるし。


コンビニの店内から外を見ると、やはり外には浴衣姿の女の子がちらほら。
コンビニを待ち合わせ場所にしてるのかな。凄く楽しそう。
お互いの浴衣を褒めあってお互いに可愛い格好を見せあいっこ。

浴衣姿の子と自分の格好を見比べて、私はため息をついた。



・・・あたし、休日になにやってんだろう。って

今まで一度も思ったことがないのに、そんな言葉が頭によぎるよ。


コンビニのガラスの壁に映る自分がみじめに思える。

試合会場に行くとどこの学校の生徒も私たちのユニフォームを見て 息を飲む。それが誇らしくて私は立海のジャージが大好きだ。 もちろん立海が大好きだから大好きなんだけど。・・・だけど。


今日は・・・今は・・・このジャージがどんなに誇らしい学校のものでも。




「浴衣・・・・・着てみたかったなぁ・・・・・」

「!」




浴衣には敵わない。









一方。
ブン太とがコンビニにいる頃、2人の帰りを待つ立海のメンバーは。



先輩と丸井先輩遅すぎ!!あ〜・・・腹減った・・・!!」

さんも苦労しているのですよ。丸井くんがお菓子を選ぶのを待っていて」

「たるんどる」



まだかまだかと2人の帰りを待っていた。
赤也はお弁当を目の前にして、完全にバテていた。



「丸井のことだ。コンビニへ立ち寄った帰り道、夏祭りの屋台の食べ物にでも 目を奪われているんだろう。それで遅れている確率95%。」

「へぇ。今日は祭りなのか。全然気付かなかったぜ」

「あ!!!そういえば今朝俺も見たっス!!」

「ふむ、確かに今朝俺も登校途中に祭りの屋台が出ているのを見たな」



話題がお祭りの話になった。
皆が祭りのことについて話す中、ただ一人その話をキョトンと聞いている人が一人。 そう、幸村だった。幸村はお祭りの方向とは逆の方向から学校へくるため、 今日がお祭りなどと知らなかったのだ。




「知らなかったな、今日は祭りだったのか」

「精市知らなかったのか。俺はてっきり部活帰りにと行くと予想していたが・・・」

「ああ知らなかった。そっか、お祭りなんだね」

「あ!そーいえば今朝先輩言ってましたよ!幸村部長が誘ってくれたら嬉しいって」

が?」

「でも練習後は疲れてるから、部長は病み上がりだし行かなくても良いとも言ってましたけどね。 でもあの顔は行きたそうだったなぁ〜」

「!」




練習のことしか頭になかったため、知らなかった。
毎日朝早くから夜遅くまで部活で顔を合わせているから、気付かなかった。


はあまり自分から何かをしたい!とかあそこに行きたい!とか言わない。
毎日部活に参加するし、休日の練習にも文句を言わず楽しそうに参加してくれる。
そのが赤也に「祭りに行きたい」と漏らしていたのは、幸村にとって衝撃だった。




「精市、帰り道にを誘ってみてはどうだ?」

「・・・そうだな、そうしてみようか」

さん、きっと喜びますよ!!」

「フフ、そうだといいんだけど」


続きます(10.6.20)