「幸村ー??調子どう?」



まだ退院して間もない幸村は、学校生活の大半を保健室で過ごしている。

あの難病から再び立ち上がったとはいえ、まだ油断の出来ない状況。
とはいえ日常生活の感覚を取り戻したり人ごみに慣れるために学校にはきてる。
例えば6時間目まで授業があったとしたら、幸村が出るのはそのうちの 半分くらい。まだたくさんの人がいる状況では疲れが顕著に出ちゃうみたい。




「幸村?」

「・・・・・・・ン、・・・?・・・?」

「・・・あっ!ごめん、寝てた?」

「いや、いいよ」



保健室のベッドに横たわる幸村。
私の声で目が覚めたのか、半分寝ぼけながら寝返りをうった。
声・・・掠れてる・・・。



「・・・悪いけど、このまま話をさせてもらってもいいかな」

「全然いいよ。幸村が楽な格好でいて」



幸村は起き上がらず、ベッドに寝たまま私の方に顔を向けた。
私はベッドの横に椅子をもってきて「よっこいしょ」と座った。

幸村が横を向いて寝転がってる。
ゆるいパーマのかかった前髪が幸村の顔に少しだけ乱れてかかってる。
本当に寝ていたんだろうな、後ろの方の髪がボサボサだ。
彼らしくなくて、少し可愛いなって思ってしまった。

幸村は軽く前髪を横に分けると、私の目をじっと見つめた。



「おはよ、幸村」

「おはよう」

「学校はどう?慣れた?」

「割とね。・・・でもやっぱりまだ疲れやすいな」

「そっか。私いないほうがいい?邪魔?」



すると幸村は手を伸ばしてきて、私の手を握った。



「邪魔なわけないだろ?」

「幸村・・・」

「もっと近くにきてよ」



幸村はとろけそうな瞳で私を見る。
幸村がどうして欲しいのかよく分かんないけど、「近く」というヒントを頼りに 私は幸村の横たわるベッドの脇に腰かけた。すると幸村は 「おいで」って言って私を呼んだ。

だから私は幸村の方へ体重を預けた。


ベッドは幸村の温もりが残ってて、それだけで気持ち良かった。
幸村の匂いがする。すっごく落ち着くんだ、この匂い。
顔が近づくと幸村の綺麗さが凄く分かる。



「幸村、まつげ長いね」

「そう?」



幸村の顔はブン太とは違って意味で女っぽくて、仁王とは違った意味で綺麗な顔。 赤也のようにパチッとした目ではないけれど、でも そのまつげはとても長い。凄く、綺麗な目元をしているんだ。 幸村は私の手をひっぱり、もっと自分の方に引き寄せる。
幸村の体に密着する体勢になってドキドキする。



「緊張してる?」

「へ・・・へっ?何が?」

「フフ。、久しぶりに俺と触れ合ってドキドキしてるのかなと思ってさ」

「そ、そりゃそうだよ・・・!幸村がいない間に誰かにこんなこと、 されてるわけがないから・・・!久しぶりで緊張くらいするよ」

「そっか。フフッ!そういう俺も緊張してる」



幸村は私の事をすっぽりと包みこんだ。
見かけの割に力強く抱きしめるところも、か細い繊細な声からは想像できないくらいの 男らしい言葉も、全てが愛しいと思う。
(私も幸村に弱いなぁ・・・)(理不尽だけど、結局従っちゃうもんね)



、」

「ん?」

「・・・キス、していい?」

「うん・・・」



そういうと彼は、むくりと起き上がり体勢を変えた。

さっきまでは私が幸村の上に乗っかってる感じだったけれど、今度は私がベッドに寝かされ 幸村が上に覆いかぶさっている体勢だ。

天井と一緒に見える幸村の顔は、なんだか凄く色っぽく見えた。
見上げた時に見える彼の喉仏が無性に男らしくて、私を見下ろすその瞳が 切なくて綺麗で。
何より片腕で体重を支えているところにドキッとした。
私の顔の横で手をついているのだけれど、テニスから離れているのに も関わらず筋肉質な腕を持つ幸村に思わず男を感じる。


幸村は顔を近づけようとする。

だけどその時、幸村の横髪がサラリと落ちてきて。


幸村は空いている方の手で横髪を耳にかけた。



その仕草にまたドキッとしてしまう。






「ん・・・」




久しぶりの幸村のキスは、とても柔らかかった。

一度唇を離したので、私は目を開けた。
一瞬だけ幸村と見つめ合う。幸村は角度を変えてもう一度キスをした。



「・・・・ッ、」




なんだかベッドが小さくきしむ音やふとんの擦れる音が耳を熱くする。

キスの合間に漏れるリップの音、彼が微かに漏らす吐息。
きっと私だけじゃない。幸村だって感じているはずだ。
なんだか気分がどうしようもなく上がってるってことに。



「・・・・・っん・・・」



幸村の顔が遠ざかる。すると幸村はにこっと微笑んでいた。

可愛い笑顔なんだけどかっこいい。そう思う私は幸村の事がどうしようもなく好きなんだと思う。




「この先は悪いけどする元気がないんだ。まだ、ね」

「・・・!」



そう言うと、幸村はばふっとベッドに倒れ込んだ。
あ・・・そうだよね。病み上がりでだるいって言ってたもんね・・・!



「情けないな。自分の体ひとつ支えるのに、こんなにしんどい」

「幸村・・・」

「少し動いただけで、疲れちゃうんだ。自分の思うように体が動かない」

「無理しないで幸村」



私はパッとベッドから退き、ベッド脇に腰かけなおした。
幸村が「ごめんね」と言いながら無気力にベッドに横になる。

本当にしんどそう・・・。



「そんな残念そうな顔しないで?」

「し、してないよっ!ただ、幸村しんどそうだなって思ってただけでっ・・・」

「本当かな」

「ほ、本当だよっ」



幸村はクスクスと笑った。



の顔はそうでもないよーっと言ってるけど」

「えっ!そんなことないよ!私今のキスで結構満足しちゃったし」

「ホントに?」

「・・・・・。・・・ちょっとウソ」

「ふふっ!エッチだね、は」

「ななっ何でそうなるの!」



すると彼は私の耳元に口を近づけて、「俺を求めてるなんて困った子だ」と囁いた。



その声にぞくっとしてしまい、背筋にピリリと電流が走った。
ああ、彼は、 なんで私にそんな素敵な呪文を唱えるの!










(10.8.29)