いじわるも此処までくると、性格が悪いとしか思えない。









、ちょっといいか?」




部活が終わって、さあ帰ろうと更衣室から出たら部長の幸村が私を呼んでいた。


幸村が呼び止めなくても、私はいつも合流して皆と一緒に帰ってるんだけどなぁ〜・・・。
(他の皆とは校門で待ち合わせしてるし)(幸村もいつもは校門にいるのに)
幸村が改まって話すことなんか何もなかったと思うんだけど・・・。
伝達漏れかな?それとも今度の試合の打ち上げのこととか?


様々な疑問を抱えながらも、私は私を呼ぶ幸村に近づいた。



「どしたの?幸村」



私が不思議そうな顔を浮かべながら幸村の目の前に立つ。
幸村はハードな練習後とは思えないくらい涼しそうな顔をしている。



、実は話があるんだ」

「え?話??」

「そう。大事な話」

「大事?」

「・・・此処ならだれもいないな。フフ」

「幸村・・・・・??」




「は、ハイ・・・」

「・・・・・・俺と付き合ってくれないか?」




・・・・・え?

今なんて・・・???




「な・・・何言ってるの幸村??ちょっと、冗談やめてよ」

「酷いなぁ。冗談なんかじゃないさ、の事が好きなんだよ」

「なっ・・・!」

「日頃から俺がアピールしてた事に気がついていなかったのかな」

「あ、アピール?」

、俺はマジメだよ。・・・付き合ってほしい」



幸村は真剣な顔でそう言い切った。

そんな私は特に断る理由もなかったし(むしろ、幸村が私の事を好きって 思ってくれてるのが嬉しかったし)その場でコクン、と頷いて 幸村の告白を受けた。
幸村は凄く嬉しそうな顔をして笑った。「ありがとう」と言いながらちゃっかり私のことを 抱きしめてくれた。


幸村の腕の中は思った以上に男らしくて、ドキッとしてしまった。

別に幸村のことが好きだったわけじゃない。
だけど今幸せに感じるのは・・・

やっぱり私も無意識に幸村のことを男として意識していたからなのかなぁ。






翌日。

昨日は寝る前に、幸村のことをずっと考えていた。
考えれば考えるほど幸村ってかっこいいなって思った。 テニス部には幸村以外にもかっこいい人はたくさんいるけれど、 それでもやっぱり一番は?って考えると幸村の顔が浮かんでくるし。

部長としての責任、病気からの復帰、部活に対する姿勢。
これをマネージャーとして一番傍で見ていたからかな。


・・・今日からそんな幸村の彼女、になるのね。私・・・

そう考えたら今からドキドキするし、幸村のこと意識しちゃうじゃない・・・!!



今まで幸村のことは「幸村」としか思ってなかったから緊張!!




私はドキドキする胸の辺りを両手で押さえながら、朝練が始まる前のテニスコートに入った。


・・・まだ幸村は来てないみたい。(着替え中かな)
彼女になったとはいえ、変に意識しちゃだめだよね!落ち着け私・・・


と、そのときだった。



「「おはようございます!!」」
「おはようございます!」「おはようございますっ!!」



コートの外で、部員達が挨拶する声がたくさん聞こえてきた。
部員の声の張り方が違うから分かる。少し緊張感のあるこの挨拶の仕方は、 BIG3の誰か相手、だもん。でもBIG3のうち2人は今すでにコートにいるから・・・。 必然と挨拶の相手が誰だったのか分かる。



「フフ、おはよう」



やっぱり、幸村だ。
朝にぴったりの爽やかな笑顔であいさつをする幸村。
こんなにも柔らかく穏やかな表情を持ちながらも、独特の緊張感とピリッとした空気を纏う幸村は やっぱりこの立海を束ねる部長なんだなと思った。


・・・どうしよう、あれ?昨日までは普通に幸村のこと友達として仲間として接してたのに、 急に意識しちゃう・・・!えっと、そうだ、とりあえず挨拶しなくちゃ!




「幸村、おはよう・・・!」




私はドキドキしながら、でも平常心を抑えながら幸村に挨拶をした。
ゆ、幸村はどう答えてくれるのかな・・・!
幸村のリアクションを期待しながら私は幸村の返答を待った。

が、しかし。




「よし。練習始めるよ!皆整列して」

「「「はい!!!」」」




・・・・・・あれ?

なんか無視された・・・!!??


も、もしかして聞こえてなかったのかな!?(緊張しすぎて声小さかったかな!?)
な・・・なーんかちょっと凹むかも・・・!
まぁいっか。また後で幸村に話しかければいいんだし。







が、しかし。


この時だけじゃない。朝練中も、朝練後に教室へ上がるときも、休憩中すれ違った時も、


なぜか幸村は私のことを無視した。



・・・えー!なんでーー!?

わ、私何か悪いことした!?


ていうか、そもそも私と幸村付き合ってるよね!?
昨日付けで恋人同士になったよね!?なのに何で無視するの幸村〜!!

幸村、もしかして私のこと重く感じたとか・・・?
抱きしめられた時、私練習直後で汗くさかったから引いちゃったのかな・・・!
(もしそうだったら清汗スプレーの会社を訴えてやるわ)

でも幸村はそんなことで引く人間じゃないはず・・・。なんで・・・?




「どーしたんだよっ!ンな暗ぇ顔して!!」

「ブン太・・・。ちょっといろいろね」

「はぁー?この俺に話してみろ。天才的に解決してやるって☆」



クラスメイトのブン太が肩を落とす私に気づき話しかけてきた。
そうだ・・・。ブン太なら、幸村と友達同士だし私の知らないこと何か知ってるかも! 此処はちょっと聞いてみようかな・・・。



「ねぇブン太、幸村から私のこと何か聞いてる?」

「幸村??・・・さぁ?別に特に何も聞いてねぇけど?」

「そっか・・・。ならいいや」

「なんだよ?幸村がどうかしたのかよ?」

「え・・・!いや、そのー実は・・・私・・・昨日から幸村と付き合うことになったんだよね・・・」

「ええええ!?幸村とお前付き合ってんの!?」


「それは聞き捨てならん話じゃのう。、詳しく聞かせんしゃい」

「仁王!!??」

、そういう重要事項はなるべく早めの報告を頼む」

「いつの間に柳も!!??柳違うクラスじゃん!!」

に来週の練習試合の連絡をしにきたところだ。しかし、いい時にやってきたようだ」



ブン太だけに相談したつもりが、仁王と柳まで入ってきちゃった。
・・・まぁいいや。

私は3人に昨日のことを話した。
幸村の突然の告白、私はそれにハイと返事した事、抱きしめてくれたこと。
昨日まで意識してなかったけど、私はどうやら幸村が好きだということ。




「・・・というわけで私と幸村は確かに付き合っているハズなんだけど・・・」

「なんだけど?」

「朝練のときから私・・・幸村にずーっと無視されてるのよねー・・・」

「なるほど」

「私、幸村の癇に障るようなことしちゃったかな」



・・・これ以上幸村に無視されると辛いよ。
せっかく此処まで意識して、幸村の色に交わりそうなところまで気持ちが来てるのに。



「幸村の考えてることは俺らもよく分かんねーから、何とも言えねぇけど・・・。 幸村は理由なしに行動するやつじゃねーから何かしら理由があるんだと思うぜ」

「ブン太・・・」

「気にしんしゃんな。大丈夫じゃ」



そうなの・・・かな・・・。
もし今日の放課後の練習でも喋ってくれなかったらどうしよう。

ああ、私にとって幸村って無意識とはいえこんなに重要な存在だったんだ。
普段からさりげなく幸村のことを意識してたんだね。
ねぇ幸村、私・・・昨日の返事は・・・ノリでもなんでもなかったみたい。
幸村のことが本当に好き、みたい。



「ほら!!元気出せよ!幸村とお前が喋れるように俺らも協力してやっから!」

「そうじゃ。お前さんが元気ないと始まらんぜよ」

、諦めるのはらしくないな」

「うん・・・。そうだよね。ありがと・・・」



そうだよね!午後練で幸村と喋れるように頑張らなくちゃだめだよね!



「よーし!そうと決まれば部活行こうぜぃ!!」

「うん!!」



ブン太と仁王の協力があれば幸村と話せるかもしれないし・・・!
それに柳もいれば、百人力だしね!(幸村と仲良しだし!)(同じビッグ3だし!)

私がブン太と仁王についていくように席を立った時だった。





「え・・・?どうしたの?柳・・・」



柳が私を呼びとめる。どうしたんだろう・・・。



「・・・精市のことだが」

「!」

「俺に心当たりがある」

「えっ」

「精市はデータの取りにくい人間ではあるが、やってみるに越したことはないだろう。 無論100%の自信は持てないが・・・」

「え!何何!?柳教えてよ!」

「・・・分かった。なら知恵を貸そう」



柳は私に耳打ちをした。



「・・・・え!?そんなんでいいの!?」

「奥の手として使ってみるといい」










そして午後練の時間となった。


私は午後練前の空き時間、コート内でブン太・仁王の2人を始めとする レギュラー陣の皆と談笑をしていた。けど内心では幸村がコートに入るのを ドキドキ待っていたりする。

はー・・・。幸村まだかなぁ・・・
と、そのときだった。



「「お疲れ様です!!」」



朝と同様、部員達が緊張感を持った声で挨拶する声がコート外で聞こえてきた。
どうやら、幸村が来たみたい・・・。




「まだ練習20分前なのに皆早いね」

「「「お疲れ様です!!!」」」



幸村がコートの入った瞬間、コートで打ち合いをしていた部員までもが手を止めて 幸村に向かってあいさつをする。幸村の後に入ってきた真田・柳にも部員は挨拶をする。 やっぱりビッグ3がコートに入ると、空気が締まる。



「幸村ぶちょー!!今日打ち合いの相手になってくれません?」

「フフ、赤也は可愛いな」

「答えになってないっスよー!!」



幸村、楽しそうに笑ってる・・・!!今ならいけるかも!



「幸村、そんなこと言わずに赤也の相手、いい加減してあげなよー」



私がそういうと、幸村はチラリと此方を向いた。
でも何の言葉も発さず赤也の方を向いた。
・・・なんで幸村・・・!なんで無視、するの。



「そーっスよ部長!!先輩の言う通りっス!なんでダメなんすか!」

「赤也が15歳になったら教えてあげるよ」

「その時には部長卒業していないし!」

「フフ、そうだっけ?」



ブン太と仁王と柳が私と幸村を交互に見てるのが分かる。
うう、此処でくじけちゃだめだよね!
そうだっ、今日のメニューまだ聞いてなかったしそれを幸村に聞こう!



「ゆ、幸村今日のメニューまだ聞いてないんだけど・・・!」



恐る恐るだけど、確実に声の聞こえる距離で私は幸村に言った。
これなら幸村も無視できないでしょ!・・・・・だけど。



「・・・赤也の元気も有り余っているみたいだし、少し早いけど部活を始めようか」



また・・・無視された・・・!!!!!(やばい、泣きそう)




「皆整列しようか」



幸村の一言で遠くの部員も整列するため集まってくる。
また幸村とちゃんと喋れなかった・・・!






「今日もおつかれ。解散!」

「「「「ありがとうございましたーっ!!!!」」」」



部活が終わって皆がコートから出ていく中、私は流れに逆らって 幸村の事を追いかけた。幸村は部長の仕事があるため部員と正反対の方向へ向かっている。


「幸村!」



全力疾走で彼を追いかけ、私は話を聞け!と言わんばかりに幸村の腕を掴んだ。
幸村は立ち止まった。けど、こっちを振り向こうとはしなかった。
なんで・・・なんで無視するの幸村。




「・・・。」

「幸村、」

「・・・・・。」

「ねぇ幸村」

「・・・」

「幸村ってば」

「・・・・・」



もう泣きそう。なんで無視するの幸村!!!



「・・・・・・・・・・・・・精市!」





私は柳に教えてもらった作戦通り、幸村の名前を呼んでみた。
こんなんで幸村が本当に無視をやめてくれるのか分かんないけど・・・!

でもそのときだった。





「なんだい?

「!?」




・・・・!?

幸村はとても優しく微笑みながら私の方を振り向いた。
そして愛しそうな瞳で私と目を合わせてくれた。その仕草に私は思わず キュンっとしてしまった。



「フフ、何で今振り向いたのかって顔してるね」

「・・・なんで・・・!?」

が名前、呼んでくれないから」

「え!?」


「付き合ってるのに名前呼んでくれないから、少し意地悪したんだよ。ごめんね」




なっ・・・・・!!!!!!


たったそれだけのことでーーーーー!!!???



名前呼ばなかっただけで一日中フル無視なんて・・・!

どこが「少し」なの!!??めちゃくちゃ意地悪じゃん!!

でも・・・


嬉しい・・・!!!幸村とちゃんと喋れる・・・!!!




「ねぇ幸村、私ちゃんと彼女だよね!?」

「そうだね。違うかい?」

「ううん・・・違わないけど・・・。でも、無視されたから違うのかと思ってた」

「フフ。悪いな、好きな子はいじめたくなるんだよ」

「そっそれにしては意地・・・悪すぎ!」

「困惑する、可愛かったよ」




・・・もう・・・!!!!幸村のばか・・・!!!




「そういうわけだから、今後俺のことは名前で呼ぶように」

「・・・は、はい・・・」

「大丈夫すぐ慣れるよ」

「そうかなぁ。だって私もう何年も幸村って呼んでたしなぁ・・・」

「じゃあ練習がてら俺の名前呼んでみようか」

「え?」

「でも普通に呼んだんじゃ面白くないから、昨日の告白の返事もちゃんと聞かせてよ」

「えー!」

は昨日頷いただけだからね。ちゃんと口から聞きたいんだよ」



こっ・・・この・・・ドSは・・・!!!




「ほら、ちゃんと聞かせて?」



「・・・・・精市・・・のことが・・・好きです・・・!」




私は自分で言うセリフが恥ずかしくてたまらなくて、自分の耳をふさぎながら言った。
しかし言った後に幸村に手をほどかれ、「もう一回」と言われてしまった。



「・・・精市」

「なに?」

「私を彼女にしてくださいっ・・・」

「よく出来ました」




精市は昨日と同様また抱きしめてくれた。ぎゅっと抱きしめてくれる精市はやっぱり 男だ。昨日よりドキドキする私は、一日足らずで完全に精市に 惚れているんだなぁと思った。








(うわぁ!部長が先輩抱きしめてますよーっ!!)(オイ赤也!お前の頭で見えねーだろうがよ!) (丸井くん、静かにしたまえ!)(ふむ、精市はやはりが好きだったのか) (幸村もSじゃのう・・・。)




(10.6.4)