むかつく。付き合っていたアイツが4組の子と二股かけてた。


それを問い詰めたら「問い詰める権利ないから。あっちが本命でお前の方が浮気やから。勘違いすんな」って 笑われた。「知ってたら付き合わなかったし・・・っ」って涙をこらえながら反論するのが精一杯で、 今思えばもっともっと文句を言ってやればよかった。
楽しんでた期間は本物なんやしええやんとアイツは言ったけど、 私にとってそれはもはや黒歴史。思い出したくもないし貴重な時間を汚された最悪の気分。

顔も見たくないし声も聴きたくない。早く、早く、忘れたい。



別れを告げた後は思いっきり泣いてしまいたかったけど
午後の授業があるから出来なかった。泣き止む自信もないし、目が腫れそうで。

グッと堪えて、気を引き締めて。
泣くのは帰ってからにしよう。悔しいけど。むかついてしょうがないけど。





とは言ったものの、自分で言い返しながら涙が自然とポロポロ出てたしなぁ・・・!
怒りがおさえきれないと人間って涙出てくるんだね、知らなかった。
思いっきり泣くのは我慢できるけど、とりあえずこの充血した目をどうにかしなければ・・・!
あと涙の筋がカサカサするから保湿できるクリームも欲しい。


私は保健室へ向かった。
この時間の保健室は昼下がりでちょうどいい感じに日差しがポカポカ気持ちいい。
さっきまで修羅場を体験していた私にとって、保健室は驚くほど平和だ。



「しつれいしまー・・・・す。」

「いらっしゃい」

「・・・あ」



保健室のドアを開けると、そこには学年一のイケメンで有名に白石くんがいた。
どうやら彼以外には誰もいないみたい。白石くんは本を読んでいるみたいだった。



「ケガ?体調不良?今先生が職員会議に行ってておらんのやけど・・・」

「あ、大丈夫・・・です。そこの保湿クリームと、あと目薬指したいだけ・・・なので。」

「1組のさんやんな?同い年なのに何で敬語なん?」



クスクスと笑いながら白石くんは立ち上がって、引き出しを開ける。
そして手際よく言われた2つのアイテムを手に取って私に渡してくれた。
「特別にクリームは先生が使ってる高いやつやで。先生最近シワ気にしてんねん。 さん可愛いからサービスや。でもヒミツな」とおどけながら。

保湿クリームと・・・目薬。



「・・・・・」

「・・・・・?あれ・・・どしたん?目的のものじゃなかった?」

「あ・・・・いや、ごめん・・・・・」



そんなつもりはないのに涙がポロッと落ちてきた。
きっと白石くんの何気ない冗談や優しさと、「かわいい」と言われてアイツに言われた時の事を 思い出したからだ。泣きたいつもりではなかったけど勝手に目からポロポロ落ちてきた。



「えっ、ごめん!俺なんかした!?」

「ちっ、ちがうの!勝手に私が・・・・・さっき・・・・・・・彼氏と別れたばっかで・・・・・・」

「・・・!」

「しっ白石くんは何も悪くなくて・・・・・・・・」

「・・・・・・・・良かったら話聞くで。座って」




私は白石くんに何があったのかを話してしまった。
話をすると頭の中で整理されて余計に悲しくて悔しくてむかついてきて。
気が付けば泣きながら喋ってしまってた。

ドン引きされるかな、と思いつつ白石くんの顔を見ると白石くんは 同じように怒っているような表情をして「うんうん」と聞いてくれていた。



「そっか・・・、そんな事が・・・・・辛いな、それは」

「・・・・・っ・・・・・・・・ご、ごめ・・・ん・・・・・」

「無理に泣くの辞めん方がええよ。思いっきり泣いたらスッキリするし」



ティッシュの箱をハイ、と渡してくれて白石くんは笑ってくれた。
「ありがとう・・・」と涙声で言いながらテッシュの箱を受け取ろうとしたとき、 パッと私の手首は白石くんの両手で握られてしまった。・・・・え?



さんみたいな良い子に・・・・・そんなひどい事できるヤツがおるんやな・・・」

「・・・・・・ありがとう」

「・・・」

「・・・・・・・・・・・悔しいよ。むかつく。殴ってやりたい。死んでしまえとも思う。 ちょっとの期間でもあんなヤツの事好きだった自分も殴ってやりたい・・・・・っ」

・・・」

「忘れたい・・・・・・・・・。あんなヤツと付き合ってた記憶も、今の悲しさと怒りも、何もかも・・・」



自分の履歴を消去できる機能があればいいのに。
今となってはアイツが触ったものもくれた小物も全てが気持ち悪い。



「・・・・」

「白石くん・・・・・?」

「あ・・・ごめん、泣いてるのにキレイやなぁ・・・と思って・・・・!」」

「!」



優しく握る白石くんの体温が手に伝わってくる。
きれいだと言われた事に動揺した私は少しだけ手を握ってしまった。
すると白石くんが握り返した。

「えっ?」と思って白石くんの方に視線を向けると白石くんが黙ってこちらを見ている。 きれいな顔で、私のことを心配そうな目で見ている。
気の利いたことを言いたかったけど白石くんの意外すぎる行動に動揺した私は何も言えなかった。 ひどい捨てられ方をして、誰かのぬくもりと優しさがこんなにも沁みるとは思わなかった。 悲しくて泣いているというよりも、誰かに優しくされて泣けてくる。



、」

「ん・・・?」



なんとなく白石くんが近い。自然と声が小さくなる。



「さっきより目、腫れてる・・・」



「えっ」



パッと手を目元に持って行こうと反射的に反応したその瞬間。




「―――――――!」




一瞬の不意をつかれて白石くんにキスをされた。
え・・・・・・・えっ・・・・・・・・???




唇が離れたと思ったら、艶っぽい目で白石くんに見つめられる。




「忘れ方なら、俺・・・知ってるかも」

「・・・!」

「・・・・・・」

(・・・・・・・・・・・あ、)




そのまま2回目のキスをされた。

いともたやすく舌を絡めとられ、私は自然と白石くんの腰に手を回した。
なにより驚いたのは自然とそれを受け入れてる自分だ。
だんだんと激しくなっていくキス。キスってこんなに気持ちいいの?とさえ思った。



「俺が忘れさせていい・・・・?」



耳元で囁かれて私はコクンと頷いた。
OKと受け取ってくれたのか白石くんは返事の代わりに私の耳に舌を這わした。


手を引かれて保健室のベッドに押し倒されると、白石くんは私の上に覆いかぶさった。
そのあとの事はあまり覚えていない。ただ覚えているのはあまりに気持ち良くて、白石くんを求めた事。
さっきまであんなやつにイライラしてた気持ちも、殴ってやりたいほど憎い気持ちも、 白石くんが与えてくれる気持ちよさで何もかもどうでもよくなった。

白石くんの白い肌と直に触れ合うと体温が全身に伝わる。
数分前までそんなに話す間柄じゃなかったのに変なの・・・。白石くんは何考えてるのかな・・・

乱れた息とガタガタと軋む保健室のベッドの音と首元に感じる白石くんの唇の感触。 白石くんを全身で感じる。1つに繋がってしまえば快楽以外は感じなくなる。
波打つ刺激にこらえきれなくなって熱い吐息が微かに漏れる。彼と見つめ合って お互いを求めあえば、言葉などいらない。陳腐な言葉ばかり無駄に並べていたアイツとは違って。 元カレの影なんてどこにもない。少なくとも今は。 付き合ってもないのにこんな事しちゃう女と軽蔑されたかな。でもそれでもいいかも・・・。



「・・・・・・考え事とは・・・・・余裕、やな・・・・・っ」

「・・・!」




肌を合わせれば、全身に毒が廻ったように白石くんに夢中になる。
私の失恋の傷口に荒々しく塗られた薬。








カラビナ スカ=サソリの毒。MOTHER2のスカラビ地方の砂漠の 時のBGMの曲名。白石くんのアルバム曲「毒の華」をイメージしました。(17.9.5)