「蔵ノ介、あんた起きんでもええん?」



・・・・・・・・・・



!!!!!!!!!!!!!!!



慌てて時計を見るととんでもない時間になっとった!!












時計を見たときすでに俺は朝練に遅刻しとる時間だった。

いや、朝練の心配なんかしとる場合ちゃう。むしろ学校自体に遅刻するかどうかの スレスレな時間やった。電車やバスやチャリを使うてもなんとか間に合うぐらいの時間。


朝ご飯も食べず、制服に着替えて急いで家を出た。
朝練は・・・なんとか小石川が仕切ってやってくれてるやろ。こっちは後で謝ろ!

とにかく俺は急いで学校へとチャリを飛ばした。




なんとか間に合って到着したのは、予鈴の鳴る5分前。

はぁはぁと息を切らし、チャリ置き場に自転車を停めたときには俺の足はガクガクやった。
それでも遅れたらアカンと思うて教室までは走って上がった。


教室に着くと、すでに朝練が終わって席に着いていると謙也が目についた。



「あーーーー!白石やん!おまえ今朝どないしてん!?」

「・・・あー。いや、寝坊してん・・・」

「寝坊!?白石が!?」

「蔵が寝坊なんて珍しいね・・・!」



はぁ、やっと着いたわと思いながら俺は自分の席に座った。



「起きたん、さっきやねん」

「マジでか!?てか白石お前、髪ぼっさぼさやん!」



朝、髪いじる暇もなかったからそらそうやろな・・・!!!
いつもワックスでいじっとる毛先はぺたんこで、物凄い髪もぼさぼさやと思うわ。



「ワックスしてへんお前っていつもと雰囲気ちゃうんやな」

「本当だ。蔵だけど蔵っぽくないね」

「いっつも完璧なお前が焦ってここに来たんがめっちゃ伝わってくるわ」



謙也がそういうとが俺の制服のシャツの襟を笑いながら直してくれた。
どうやら襟が片方めくり上がっとったらしい。



「白石ワックス貸したろか?はい」

「・・・・・何これめっちゃくさいやん

「・・・え、謙也いっつもこんなのつけてたの?ワックスくっさ!!

「連呼すな!やかましいわ!」



謙也が突っ込むとが笑った。

さっきまでは急ぎすぎとって全く気にしてへんかったけど
今冷静になってみて、彼女であるの前でこんなかっこわるい姿を 見られたことについてめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
はめちゃ笑うとるけどな)





俺がここまで外見にも内面にも余裕がない姿っちゅーのは皆にとっては珍しいらしく、 会う人会う人に、「どしたん!?」って話しかけられた。


授業の合間の休憩に小石川のクラスに行って、直接朝練のことを詫びていたときも、 小石川に話の最後に「それより白石、珍しいな」って軽く笑われた。
少しだけ跳ねている寝癖を指さして。

だんだん恥ずかしくなってきた俺は、休憩時間にワックスで髪型を整えた。
(謙也のくさくて嫌やったから、財前クンに借りに行った)(もちろん朝練の謝罪も)


こんなことしても、今日の出来事は消せへんけどな・・・・・・・。








「蔵、お昼もってきてないでしょ??一緒に購買部行こ」



昼休憩にがそう話しかけてくれた。
・・・言ってないのによう分かってはるわ・・・!!!
(朝、急ぎすぎてお弁当箱そのまま家に忘れて来てしもうたし)



はお弁当持ってきてるやろ?」

「それがお母さんが二段のお弁当箱の組み合わせを弟のと間違えてたみたいで」



が笑いながらお弁当の上下をそれぞれ俺に見せてきた。
・・・ホンマや。の方におかずが二段入っとるわ。

は「私はまだいいけど弟は悲惨だよねー!白ごはん二段とか!!!」と笑っていた。



「蔵と一緒でうちのお母さんも今日はうっかりしてたみたい。ふふっ」

「・・・!」

「おかず二段も食べれないし、蔵とおにぎり買って一緒に食べようと思って♪」









「んーっ!!!!!いい天気だね!!!!風も気持ちいい♪」

「ホンマやな」



俺とはお弁当に入ったおかず達と購買部で買ったおにぎりを食べながら、 屋上で一緒に昼ご飯。



「蔵がお弁当忘れてて私は良かったかも。一緒に食べれたしね」

「それはこっちのセリフやで。午後も部活あるしおかずあると元気出るし助かるわ」

「いやーそれにしても蔵が寝坊した上にお弁当忘れるっていうミスするなんてね。 珍しすぎて今日はいいもの見せてもらったよ」

「笑いすぎや。俺としては忘れて欲しいんやけど」

「一生覚えてる!」

「弱み握られた気分やわ」

「あははっ」



または笑った。朝からやたら笑顔を見てる気がする。

決してバカにする笑いではなくて、こっちのしたミスを帳消しにしてくれるような笑い。
無駄に責任感が重い俺はそれだけで気が楽になる。いつもそうや。
は大事なとこでいっつもフォローしてくれて俺は助かってる。

が笑顔になって面白がってくれるのなら。

・・・たまにはこういうんも悪くなかったかも、って思う俺は重症かな。




「蔵って可愛いよね」

「えっ」

「いつも完璧なのにたまーにうっかりミスで、普通の男子になるのが可愛い!」

「いや〜・・・可愛いんかソレ。ダサない?」

「母性本能くすぐられるやつだよ」

「俺としては不本意やで。かっこいいって思われたいから」

「それは普段から思ってるからいいの」

「思っとるんかい!!!はは、それは嬉しいなぁ」

「私は蔵がミスすると、同じ人間なんだなって安心するよ」



完璧じゃないと俺は落ち着かんけど、完璧じゃない事を否定されるのは やっぱりキツイよな。・・・引かれたらきっとそれは好きちゃうし。 俺の表面しか見てなかったんやなって思うかもな。

そう考えるとはちゃんと好きでいてくれてるし中身も含めて見てくれてる。
どんな俺でもちゃんと向き合ってくれるって、当たり前の事やけど嬉しいな。




「・・・・・え!?」

「ん?どしたん??」

「・・・見て蔵!!!!購買部で買った私の鮭おにぎり、中身の具入れ忘れられてる!!!」

「・・・・ぷっ」




嬉しそうに真っ白なおにぎりの断面を俺に見せて爆笑する。そして俺。



「今日は大阪でうっかり注意報が出てるのかもしれないね」










(17.7.29)