白石くんといえば、完璧でかっこよくて頭も良くて人柄も完璧な男子。

いわば「モテる要素しかない」男だ。


たいてい白石くんのことが好きだと言うと、それは本気と取られない。
みんな白石くんのことは好きだからだ。「あ、わかる」ってかんじだ。

もし彼氏がいる女の子でも、白石くんに告白されちゃったら白石くんに 行っちゃうんだろうな、どんなに彼氏が好きでも揺らいじゃうだろうな。 それくらい白石くんは魅力が詰まってるもん。



こうして第三者みたいな白石くんのかっこよさの分析をする私は、
皆と同様に白石くんのことが好きな1人だ。白石くんに夢見てる1人だ。

・・・・・いや、多分みんなよりばかなのかもしれない。

だって白石くんのこと、本気で好きなんだもん・・・!(絶対無理だけど)



実は今白石くんは私と同じクラス。
そして運のいいことに白石くんの隣の席で、今年に入って話せる距離になった。
話せると言っても白石くんは私のことをただのお友達にしか思ってないだろうけど。


前までは少し遠くでチラチラ見て、1人片思いをしていたわけだけど
最近になってこうやって本人と色々話せる関係になって、夢が変に現実味を帯びてきて

いつのまにか、引き返せないところまで気持ちがきてた。





そんな私がいつものように休憩時間を過ごしているとき、転機は訪れた。




この日の昼休憩は、白石くん(と謙也くん)が教室にいた。
いつも2人はクラスの男子に誘われて校庭に繰り出す人たちなのに珍しく教室にいた。

謙也くんは白石くんの前の席だから、椅子を逆さに座って白石くんと喋ってる。

・・・・ていうか、なんで外行かないのかな?




「ねぇねぇ、白石くんと謙也くんは今日外行かないの?いい天気なのに」

「いや、行きたいんやけどな!白石がほらコレ、締め切り近いからって」

「?」



白石くんは頭を抱えて何かを書いていた。
机を覗き込むと、そこには1枚の紙があった。



「?何これ?」

「新聞部主催の部活のキャプテンへのアンケート用紙やって」

「ああ!あれかぁ!来月は白石くんなんだね」



部活のキャプテンへのアンケートとは、新聞部の発行する新聞のコーナーだ。
毎月キャプテンに取材をするというコーナーなんだけど・・・
そっか、来月は白石くんなんだ!(見るの楽しみ・・・!)

だけどなんで白石くんはそんなに頭を悩ませているんだろう?



「でも白石くんならパパッとそんなの終わらせそうなのに」

「普通のアンケートならな」

「え?」

、見てみ。このアンケート」



謙也くんが指をさすのでアンケート用紙を覗き込んで見た。
するとそこには色々と設問が用意されていた。
ええっと何々?・・・「好きなタイプは?」「好きな女性のしぐさは?」 「好きな芸能人は誰ですか?」「学校の先生で付き合うなら誰ですか?」 ・・・・・・何これ!!!



「な?白石が悩む理由分かったやろ?」

「ええー!!!今までのキャプテンの取材は"チームへの思い"とか "部活全体のスローガン"とか"こんな面白いエピソードありました"みたいな 質問ばっかだったよね!?
これ女の子の雑誌の質問みたいじゃん!部活関係ないじゃん!!」

「新聞部の奴らに任したんが悪かったわ・・・!やられた」

「なんでも白石に食いつく女はたくさんおるからって理由で、 こういう設問ばっからしいで。リクエストもめっちゃ来とったらしいし」

「へー・・・・!(さすがモテモテ白石くん・・・!)」

「ほんっまこういう質問嫌なんやけどな・・・!!だって男子からしたらキモいやん! こういうんマジメに答えて!」

「ま、まぁ・・・。」



チラッと白石くんの回答を見てみた。

文句を言う割には律儀に何か書いてる。(恋愛系のとこははぐらかしてるけど)

白石くんには悪いけど・・・あたしも正直回答は気になるよ!!
白石くんの回答気になる・・・!!!!


私はある項目を探した。



(現在、好きな人or付き合っている人はいますか?)



あった・・・!!!!!!白石くんの回答は!?





(いません。)





あ・・・・・・・。いないんだ・・・・・・

別に何かを期待したわけじゃないけど、なぜかガッカリした。



「・・・・・・・。」

「・・・・・?」










あのアンケートの回答がその日一日私の頭から離れなかった。

いや、付き合ってる子がいなくて安心した!
ポジティブにそう思いたいけど・・・。


もしかしたら、探られたくないから嘘ついてるのかもしれない。


さっきから私の頭の中は白石くんに好きな人がいたとしてもいなかったとしてもショックで
彼女がいないと書かれても建前?いると書かれてても「やっぱり!」ってなるから
見なかったら良かったっていう後悔がものすごく押し寄せている。(はぁ・・・)


ガッカリするってことは、仲良くなれてる今の自分に自信があった・・・・のかな。
それはそれで自分にガッカリする。白石くんに好きになってもらえてるって思い込んでた。

好きな人がいると知っても、眼中ないのもガッカリする。
ワガママだ。結局白石くんの答えが「私のことが好き」じゃないと何も納得しない。










それから2日後の事だった。



「白石ぃ〜。締め切り今日やろ?ちゃんと埋めたか〜?」



ニヤニヤしながら謙也くんが白石くんにそう話しかけた。
白石くんはというとまた机の上で例のアンケートとにらめっこしていた。



「・・・一応・・・・・・できとるわ。締め切りやし」

「さっすがバイブル!!!でも締め切り3日前にはこういうの仕上げるお前にしては 時間かかったな!」

「やかしましな・・・!」

「で?完成したのに何を難しい顔しとんねん」

「・・・・・」

「提出前に俺にちょい見せてみ」




謙也くんが例のアンケート用紙を手に取った。
うっ・・・・・ちょっと見たい・・・・!!!!でもまだショック引きずってるから見たくないような!

謙也くんは嬉しそうにアンケートを読んでた。
だけどある項目のところで目を丸くさせた。


えっ・・・なになに!?気になる!
ああっ・・・でも見たくない!
けど見たい!

謙也くんは白石くんの顔をニヤニヤしながら見つめた。


それに気づいた白石くんがちょっとだけむっとしながら「・・・なんやねん」と呟いた。




「・・・なるほどなぁ。ええやん」

「返せアホ」



なぜか誇らしい顔をして白石くんを見る謙也くんと、意味深なやりとりをする白石くん。
・・・白石くんのことが好きだから知りたいことだらけなのに
でも白石くんの回答が読みたくないなんて、変なの。



「・・・」



今の私には「この会話に入らない」ということが精一杯。
他人事のように「何書いたの〜?」なんて聞けないし、本気なとこ見せるのも恥ずかしいし
どっちにしても着ずつくのが分かり切ってるから会話には入らない。

私は席を立って、その場から離れた。

不思議そうに謙也くんと白石くんが顔を合わせたのも気づかずに。









悶々と悩んでいる日が今日も続いた。
そして白石くんのアンケートの事で悩みすぎて、勝手に気まずくなってる。
これならまだいつも通り喋れた方が良かった。また1日を無駄にしてしまった。

アンケートを見たところで白石くんのことを好きなことに変わりはないはずなのに。


靴箱を開けながらはぁ、とため息をつく。
我ながらこんなに嫉妬深いとは思わなかった。
あんな紙切れ一枚でこんなにも考え込んでしまうとは・・・・・・!!!

想像以上に白石くんのことが好きみたい。


今までの私だったら、普通に話すだけで十分なはずだったのに。






!」

「・・・・」

「なぁ、

「っ!!!あっ、ハイ!!!!」



急に名前を呼ばれ振り返るとそこには悩みの種:白石くん本人がそこにいた。
こんなに悶々としていたのに白石くんが私のとこに来てくれたことが
なんだかすごく嬉しくて。ちょっとだけ許してしまった。

・・・って、彼は何も悪くないんだけど!!!



今から帰るん?」

「あ、うん・・・」

「なら途中まで一緒に帰ろ。ええかな」

「も、もちろん・・・」



改まって白石くんに帰ろうなんて言われたら断れないに決まってる。
でもなぜか私はまだ白石くんにイライラというか悶々というか変な気持ち。
一番ハッキリしないのは私の気持ちだというのに。



「アンケート、出してきたの?」

「まぁな。さっきポイッ!とな」



あーーーーもうだめ!
一番触れたくない話題を自分からふっちゃってる!!!
しかも開口一番!!!!もっと他に話題あったでしょ!「部活は?」とかさー!!

アンケートのことで頭いっぱいか私!



「恋愛の質問ばっかだったけど空欄で出したの・・・?」

「結局上手い事話逸らして提出したで。」

「そ・・・そっか」

「あんなの真面目に答えても誰も得せんしな」



白石くんはそう言うと笑った。
その答えは今の私に凄く突き刺さるよ・・・!!!!



「誰が俺の色恋沙汰に興味あんねんって話」

「・・・・・・・ある人もいるかもよ」

「!」



あー私ってば一体何言ってるんだろう!
やけくそになってるの???自分でも制御できないぐらい口が勝手に動く。
知りたくないけどやっぱり知りたい。知りたいけど知りたくない。

でもどうせ耳に入るなら白石くんの口から聞いた方がマシ・・・・!?



きっとこれはのんびり片思いしてた私へのツケだ。
急に「好きか?or諦める」という選択肢を突き付けられて焦ってるんだ。
いつまでもこのままなんて続くはずないのに。




「・・・・・アンケートの中に結構困る質問、たくさんあってな」

「・・・」

「"好きな人はいますか?"にいいえ、って答えても次が"それはなぜですか?"って質問で。 どうやっても逃げられんように質問が詰まってて大変やった」

「・・・。」

「女性の好みどんだけ細かく書けばええねんってくらい質問えぐかったで」




もう嫌。聞きたくないよ。




「・・・・・・そう・・・・・・・・」

「ホンマの事書いてもしゃあない質問やし、結局何書いても疑われるし損ばっか」

「・・・そっか」

「こんな質問、不特定多数が読むってやっぱおかしいで。
こういうことは俺が好きな人だけが知ってくれればええのに」

「・・・(キツイな・・・その一言。)」

「・・・あ〜。その、アンケートも良かったら読んでな。こんな文句言うてるけど、 一応新聞部のやつらが毎回楽しく一生懸命書いてはるから」

「・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・うん。」

「絶対読んでな」







読みたくないよ白石くんのアホ!!!!

とは思いつつも、やっぱり好きな人だし気になるわけで、結局新聞発行日に 手に持ってしまった。しかも保存用と読む用に2つももらってしまった。

なんだかんだ思う事はあるけど、結局私は白石くんの事が好きだからしょうがない。



気は進まないけど白石くんが「読んでな」って言ってくれたのも事実。
私は腹をくくってインタビュー記事のとこを一番に見た。
恋愛アンケートもばっちり載っている。

心なしか私達のクラスの教室にはいつもより多い人だかり。
無理はない。白石くんが新聞に載っていて見に来る下級生や他のクラスの子たちがいる。
・・・・・にしても多いような。

ガヤガヤして新聞に集中できないぐらい教室が騒がしい。

気にしないように、と思いながら私はもう一度インタビュー記事に目を落とす。
するとそこに例の質問があった。



「Q.好きな人or彼女はいますか?」



・・・ちらっと見ちゃったもん知ってるよ。
いないんだよね。


半ばあきらめの雰囲気で読み流していたけどその回答が変わっていたことにふと気が付き、 思わず二度見をしてしまった。



え!!!!!!



「・・・・・・・・回答が変わってる・・・!!!!!!」





そう、その質問の答えは「いません。」だったはずだ。
それが今、この記事にはしっかりと。







(・・・・・います。隣の席の人。)







そう印刷してあった。






隣の席が誰なのか見に来た人で教室の外(廊下)はいつもより騒がしくて
だけどそんな声が一切聞こえなくなるぐらい私は嬉しくて





(永久保存版にもう1部もらってこなくちゃ)





今は不在の隣人の席を愛おしく見つめた。






モテ男だからこそできるラブレター。(17.7.27)