私には付き合っている彼氏がいる。

蔵はすごく話をするのが上手い。特別おもしろいというわけではないけれど
話を振るのが上手いなぁって思うし、気の利く一言を言ったりもする。
だから私は話をしていて面白いなって思う。



ただそんな蔵と付き合っていても、たまーーーに訪れるものがある。

そう、それは「沈黙」。



いつもは学校であった楽しいことや、お互いの友達の話をして会話が途切れる事はないんだけど、 たまにネタが途切れた時に嫌な沈黙が訪れたりする。

この沈黙のときは明らかに蔵にも私にも「どっどうしよう・・・!」という空気が流れてるし、 かといって話せるようなネタもない。それでもその沈黙はほんの数秒間だし、 いつもどちらかが何気なく破ってるけど、私としては「気まずいなぁ」と思ったりもする。




「ほんでな、その後謙也がな・・・」



そして今現在、私は蔵の家に遊びにきてる。
蔵の部屋に上がって、飲み物が出されて、2人でぐだぐだ話してる最中だ。
・・・今日もきちゃうのかな、沈黙。

今話してる話は、今日の朝練のときの謙也くんの話らしい。
思わず笑ってしまうくらい面白かった。
そこから私も謙也くんの話をする。この前謙也くんが誰もいない 廊下でコケてたのを目撃してしまったという話だ。蔵はすっごく悪い顔をして 「それ弱味にしたろ」と笑ってた。(ごめんね謙也くん・・・!)



でもその直後だった。



(・・・わ。)





2人で笑った後、沈黙が流れた。
うわ・・・!な、何話そう・・・!!!!




「あっ、その、蔵・・・・えっとー・・・・・・」

「ん?何?」

「えっとね、その!あの・・・ほら、アレだよ!」

「???あれって?」

「・・・・・・・・えっと・・・・・」



ぜ、全然思いつかない!
蔵は私が何か話し始めるのを待って、私の顔を覗き込んでくる。
どっどうしよう・・・!えっと、えっと、何か思いつけ!私の頭!

この間にも変な沈黙は流れてる。
それどころか私の中途半端な繋ぎで余計に変な空気になってしまった。



「えっと、明日は委員会だねっ!」

「?委員会は昨日やん。しかもその話さっきしたで」

「そうだっけ・・・!!!あっ、じゃあ蔵って・・・・・・」



あたふたと話題を探していると急に蔵が私の顔を両手で包み込んだ。
くいっと私は蔵の顔に顔を向けられる。


ええええっなになに!!!???






「は、はい・・・!」

「そんなに俺との沈黙嫌なん?」

「ええっ!!」



蔵は私のことを見透かしていたみたいだ。
そう言われて私の顔に「当たりです」という表情が出てしまったみたいだ。
蔵は「図星みたいやな」と笑った。



「なんかいっつも沈黙になったらが焦っとるから」

「え、蔵は違うの??」

「んー・・・。違うっていったら言い過ぎやけど、俺はとの沈黙も別に苦じゃないで」

「ほんと??」

「ホンマやで。なんかは沈黙になったらやたら焦っとるみたいやけど」

「う・・・!だってなんかちょっと気まずくて・・・」

「俺はとおる空気が楽しめて結構好きやねんけど・・・。」



・・・!今まで蔵も気まずいって思ってくれていたんじゃなかったの??
もしかして私が沈黙が苦手そうだって思ったから、沈黙を破ってくれてたのかな。

でもなんで沈黙が苦じゃないんだろう・・・???



「喋る事だけが全てちゃうやん」

「そ、そうなのかなぁ。喋ってないと楽しいとか思わなくないかなぁ」

「ははっ、思わんよ!ならな。・・・謙也なら思うかもしれへんけど。お前喋れやーって」



う・・・!やっぱり蔵は優しい。
そうやってまた私の心を楽にしてくれるんだ。



「ほんと??」

も案外楽にして黙ってみ。別に俺、のトークが目当てで付き合うとるわけちゃうし。 そら喋るのは最高に楽しいけど、とおるだけで十分俺は幸せやなって思うし」

「・・・!」

「そうやってなんか喋らな、とか焦るから沈黙が嫌やねんて」

「そうかな・・・!でっ、でもちょっとでも蔵と喋る時間がないと勿体ないっていうか・・・」

「!・・・なんなんその殺し文句」

「え?」

「めっちゃ嬉しいこというやん」

「えー!だって本当だよ!?蔵と喋ると楽しいんだもん!ちょっとの時間でも話し「。」



言いきる前に蔵に名前を呼ばれた。え・・・??



「ちょっと黙って」







そう言われたと思ったら、蔵が顔を近づけてきた。




・・・・・・あ。





「Be quiet」は「静かにしてください」「黙ってください」という意味です。 白石くんらしい(?)黙らせ方にしたかったので最後は甘めにしてみました (12.1.25)