「そういえば、と白石って中1から付き合い始めたんやっけ」

「ん?そうだよ。どしたの謙也、急に・・・」

「いや、そういや結構経ったなぁ思うて」



うーん。そういわれて見ればもう年単位で付き合ってるんだっけ。



「はー、あんときは俺らも声変わりしてへん純情少年やったなぁ」

「あははっ!そうだね。私もあの頃はペチャパイだったなぁ」

「今もやろ。」

「うるさいな!」

「ま、それはさておき・・・。なぁなぁ」

「ん??」

「ファーストキスとかってどんなんやったん?」



謙也は口元に手をかざして、興味津々に聞いてきた。



「なっ・・・!まぁ、そりゃ普通だよ。」

「どうせ白石のことやん。完璧やったんやろ?」

「・・・・・。」

「・・・・・え!?まさかの!?」



・・・ファーストキスの話、か・・・!!!

んー。あの話は蔵に「絶対誰にも話さんといて!絶対やで!」って口止めされてるしなぁ・・・
私は別に構わないんだけど、蔵が嫌がるものだから私はこの話を 女友達にすらしていない。(良い感じにスルーしてきたんだよね) ・・・どうしよっかな。



謙也に話すか話さないか。
そんな事を考えながら、私は中2の頃を思い出した。












それは、本当に突然だった。



「あのっ、!」

「ん??どしたの?蔵」





「俺、今日・・・とキス・・・・しようと思うててんけど・・・!!!」







朝、テニス部の練習を終えて一緒に教室に上がっていたら突然蔵がそう言った。
階段を上る足を思わず止めてしまった。





「えっ・・・・!!!!!」





一瞬本当に何を言っているのか分からなかった。


中1のときに私と蔵は付き合った。
・・・けど蔵は早々にテニス部の部長(!)に選ばれてしまって、 正直「付き合ってる」けどそれは名目だけという感じだった。
部長になったことが私にとっても蔵にとっても大きくて、 2人で部活のことしか考えていなかったから。


だけど2年生に上がって、メンバーにも慣れてきた最近・・・
やっと私と蔵は友達以上の会話をするようになったと思う。

・・・とは言え、私と蔵は手をつなぐぐらいしかした事のない関係。
まだまだそれ以上の事は、年が年だし興味はあるけどすごくためらってしまう事。


だから当時のこの蔵の一言に私はキョトンとした記憶がある。
(実際、蔵も"キス"の単語のとこだけ声小さかったし恥ずかしかったんだろうなぁ)





「えっ・・・・・・!」

「てか、絶対するから!」

「え、うん・・・!わかった・・・・・」

「・・・・・」

「・・・。」



変な沈黙が続く。ええ!?何この気まずい空気!!

私が蔵に助けを求めるように視線を移すと、蔵は結構真剣な顔をしていた。
何か物凄い決断をした顔だった。


そんな衝撃宣言をされた、その日の休憩時間のことだった。



(あんな宣言されたら、こっちまでドキドキするじゃん・・・!!)



蔵のせいで授業が全然頭に入ってこないんですけど!
あんな事言われたら、なんだか今日で何かにさよならする気分になってくる。
いけないことをするような、そんな気持ちだ。

・・・・今までちゃんと考えた事なかったけど・・・

蔵とキスする・・・ってどんなかんじなんだろう・・・・・・



うーん・・・!分からない・・・!!!(したことないからね)




でも何で急に今日することになったんだろう・・・
別に今日じゃなくても・・・明日でも良くない??いや、っていうか今じゃないとだめなの!?


キスって自然とそういう空気でするもんじゃないの!!??
私、少女漫画の読みすぎ!?ドラマの見すぎ!?

なんか目的があるのかな・・・!











(いつくるの・・・・・・!?)



蔵、宣言するのはいいけど宣言された方の身にもなって!!!!
結局今日一日中身構えてしまって凄くそわそわする!
なんかもう早くして!!!!って気分になってきた!(せっかち謙也の影響!?)



・・・キスってどんな感じなのかな・・・


蔵はどういうかんじでするんだろう・・・・・・・・・


間接キス、ならしたことあるけど(回し飲みのノリで)
それだけでもドキドキしてたのに、キスって・・・口でするもの・・・だよね。

思って見れば顔と顔を近づけるワケで・・・・・・・

え、待って待って、無理。

蔵のあの美しい顔が目の前にくるわけでしょ!!!????
ハードル高くない!?!?!?



今までこんなに考えた事がなかったから、現実に向き合うと急に恥ずかしくなってくる。





午後の部活が始まってもいつも通り。
部活の伝達事項を話したり、練習メニューの事だったり
いつも通りに蔵とは話す。「キスするから」って朝いちばんで言いに来た人と同一人物なのかと 思うくらいに普通だった。何事もなかったかのように涼しい顔で部活に集中している蔵を見て、 「あれ、朝のあれは夢じゃないよね?」と私が錯覚してしまうほど。

当たり前だけどそのまま部活は終わったし、ミーティングも終わったし
いつも通り帰路につくことになった。



(・・・朝のは夢だったのかな・・・)



皆で帰ってる間、ふとそんなことを考えて無意識に唇を触った。
あの時は「急に何言い出したの!」って思ったけど
何事もない感じになると「・・・キスはないのかしら」とがっかりした気分になってくる。

ねえ蔵、これも蔵の作戦なの?




「ほなまた明日〜」

「おつかれさん」




いつの間にか蔵と2人になる曲がり角までやってきたみたい。
皆で帰ってても最終的にここでいつも2人になるんだ。

どうしよう、無駄にドキドキする。もしかして今?





「!!!!っは、はい、」

「・・・ちょっとそこの公園で喋らん?」



蔵は爽やかな笑顔で公園を指さした。






もう夕方6:00を回ったところだ。さすがにこの時間に子どもや小学生はいない。
私と蔵はかばんを地面に置いて、ジャングルジムに座った。



「・・・・」

「・・・・・・・・・・」




何この沈黙ー!!!!!!!

もしかして蔵はこの状況を待っていた!?
はっ、蔵って完璧主義だし・・・・・もしかして。

星空の下で、公園で、2人っきりで、

・・・・パーフェクトにシチュエーションを考えていたの!!!!??




ということはもう来るの!?いや、まだあと少し・・・?
蔵、どうするの・・・・・!このあと、どうするの・・・?

キスは・・・・・まだ・・・・?




気づけば私と蔵はジャングルジムに座りながら、お互いとは反対側の方に顔を向けていた。
きっとお互いにキスの事を考えていたんだと思う。
その時は分かんなかったけど、2人で顔赤くしてキスのこと考えてた。

同じ事考えてるのに反対方向向いてるのが思い返すとおかしい。



「・・・なぁ

「!!・・・んっ?」

「・・・・・・朝の話、覚えとる・・・???」

「・・・・・・・・・・・・・・うん・・・っ。」



その後また蔵は黙った。多分そんなに黙ってはなかったんだけど
私にとってはその時間すら長く思えて、ドキドキした。



「・・・・・・・あ、いや、その・・・・・俺言うたあとに思うたんやけど・・・・・・・」

「・・・?」


「キスって・・・宣言してするもんちゃう・・・・・よな・・・・・




やっぱりそうですよねーーー!私も朝同じこと思った!!!


蔵はめちゃくちゃ恥ずかしそうにしてた。
顔を逸らして、片手で顔を覆った。

それがなんかちょっと可愛くて、私はホッとした。



「いや、その、俺ら付き合って結構長いし、そろそろええかなって急に思い立って・・・」

「・・・」

「俺も男やし、色々考えるし、の事好きやし・・・・・・・・そろそろって考えてたんや昨日」

「!」

「昨日よしっと思うて今朝も余裕のある男みたいなんに見せたくて張り切ってて、
でもを目の前にすると急に緊張してもうて・・・・・。それでテンパって宣言してもうた」

(あっ、なるほどそれで・・・!)


「なんか・・・ごめん。忘れてほしいぐらい恥ずかしい」




「めちゃヘタレやしアカンやつやん」って小さく呟いて落ち込む蔵。

そんな蔵がすっごく可愛いし面白くなってしまって私は思わず笑ってしまった。
蔵は驚いて私の顔を見た。




「あ〜良かった!蔵も緊張してたんだね」

「え?」

「私、今まで蔵のことは好きだけどキスとかまだ先の話だと思ってたから、朝言われた時ドキッとしたの。 1日中キスすることばっか考えて私も緊張しちゃって」



今日一日自分が緊張して色々変なこと考えたりだとか
蔵は蔵で変に意識してキスどうやってしようか悩んでたんだとか

そういう2人の1日の頭の中がキスでいっぱいで、しかも考えれば考えるほど緊張して、
でもお互いに悟られないようにいつも通りを演じて・・・・・・
って考えたらなんかおかしくなってきちゃって、笑ってしまった。




「プッ、お互い頭の中、お花畑やな〜!!」

「あはははっ!そうみたい」

「あ・・・。ってことは・・・・・も・・・・・・・」

「?」

「してもいいって、思うてくれてたって事やん・・・・・・・な?」

「!!」

「・・・・・」

「・・・。」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・うんっ。」





私は蔵の方を向くのがちょっと照れくさくて、正面を向いてょっと姿勢を正してそう答えた。
そしたら隣に座ってた蔵がくすっと笑って私に密着するぐらい隣に座り直して




(・・・・・・・・・・あ。)





覗きこむように私にキスをしてくれた。






近づいたときにふわっと香る蔵の匂いと体温。

初めて触れる唇の感触。

一瞬の事だったけど、今までにないくらいドキドキしたし
キスの後に初めて目を開けて見えた蔵の顔が少し色っぽくてドキドキした。
優しく笑って私の事を見つめて、嬉しそうにしてた。

ドキドキが止まらない。もっと蔵の事好きになってしまった・・・・。












「そんな言えへん事なん!?」

「うん。私と蔵の秘密」

「めっちゃ気になるやん!!!!」



結局謙也には言わずに私はその場を離れた。
そしてトイレにでも行こうかなと廊下に出た瞬間、蔵にバッタリ出会った。



「あっ、蔵」

「おおっと。か」



出会い頭にぶつかりそうになったため、蔵が私に「大丈夫?」と聞いてくれた。

・・・・・・あ。そうだ。



「ねえ蔵」

「ん?」



私が口元に手を添えると、蔵は私に合わせて屈んでくれた。
して私はこっそり蔵にこう耳打ちした。








(・・・?別にええけどどしたん?)(ううん、なんでもないっ♪)



(17.7.31)