いつもお出かけしたとき気になるお店があった。

いつもは素通りするだけだけど、なんとなくそこの前を通ると視線を奪われちゃうんだ。








「ん?、何か気になるもんでもあった?」

「えっ?ううん!あそこの店、いつも私見ちゃうんだよね」

「あそこの店?」



蔵と一緒に学校帰りに街中を歩いていると、いつものクセで「あの店」を見てしまった。
蔵が喋っているのにあの店を首ごと振り返って見てしまってた。

それに気付いたのか蔵がしきりに私の視線の先を気にしてる。



「・・・・・ああ、ブライダルのドレスのお店やん!」

「うん・・・!あそこね、小さい頃から通る度になんか見ちゃうんだよね!」

「へぇー。そっか、そういえば姉ちゃんもああいうのよぅ見とるかも」

「小さいときから、シンデレラのドレスみたいだぁーって憧れててね。 ほらっ、ああいうドレス可愛いでしょ!?」



白を基調としたシンプルなお店のショーウインドウには、 ベアトップの真っ白なドレスを着たマネキンが飾ってあった。

可愛いなぁ。ドレスのドレープ部分が今時のデザインで。
コルセットのバックが編み上げになってて、ウエディングドレス独特の白い色が キラキラ輝いて見える。


ああいうの見てるといいなぁーって思っちゃうよね。




「・・・近くで見る?」

「えっ」




蔵がくすっと笑ってそう言った。



「・・・じゃあちょっとだけ!」



横断歩道を渡ってそのお店の近くに寄る。
ガラス張りの壁に張り付いて、ドレスを見る。(やっぱり可愛いなぁ)

蔵はそんな私をにっこりと見守ってくれてた。



すると、その時だった。





「可愛いカップルさん、それ可愛いでしょ」

「!」「!」




私と蔵がウインドウ越しにドレスを見ていたら、店内から店員さんらしき女性が出てきてくれた。 その人はにっこり笑って私たちに話しかけてくれた。 一瞬「ガラスにくっつきすぎちゃったかな!?」と思ったけど、 どうやら店員さんは注意するために出てきたわけではないらしい。




「あ、はい!すっごく可愛いです・・・!」

「それね、最近入ってきたドレスなんですよ。若い子向けに 色々デザインとかも凝ってて人気なんです」

「へぇー・・・・・」



もう一度ドレスに目をやる。
やっぱり可愛い。こんなの着れたら、本当にお姫様みたいな気持ちになるんだろうなぁ・・・



「よく読んでる若い子向けのファッション雑誌に特集されたりしてるんですよ」

「へぇー・・・」



お姉さんはパラパラと雑誌を見せてくれた。
本当だ。これ、私がいつも立ち読みしてる雑誌・・・。
結婚特集、とか書いてあってモデルさんが可愛くドレスを着飾っている。
こんな感じで可愛いデザインのドレスが色々載っていた。




「ねぇ、今から時間とかある感じ?」

「えっ・・・えっと・・・」

「もし良かったら、1回着てみませんか???」

「え!?」

「ためしに一度着てみるのもいい経験になると思いますよ」



ええええええ!?今からドレス着るの!?
でもっ・・・!!!

私は蔵の方をチラッとみた。すると蔵は私の顔色を伺って一言言った。



「ええやん!、着せてもらえば?」

「ええっ・・・」

「ほら、彼氏さんもそう言ってくれてるし着てみましょうよ!」

「で、でも私たちまだ学生だし・・・!!結婚式あげるかも分かんないのに・・・」

「いいんですよ。こういうのは経験したモン勝ちなんですから」

「でも・・・!!」





蔵・・・・・???



「入ろ?」

「・・・・・!」

「なっ♪俺ものドレス着たとこ見てみたいし。な?」

「・・・・・・っ!!!」






というわけで。





私みたいな制服のままの学生が入れるようなお店ではなかったけど、
お姉さんの粋な計らいで店内に入れてもらえる事になった。

ガラスのドアを開けると、天井の高い店内の空間に驚いた。
白い店内に、オレンジの間接照明。統一された店内の雰囲気、 それに合ったお花が店中に飾られていた。
案内してくれたお姉さんの他にも店内には何人かの店員さんがいて、 私たち学生なんかを相手に一人前に「いらっしゃいませ」って言ってくれてる・・・!!




(ね、ねぇ蔵・・・!すっごく場違いなんですけど!)

(せやな・・・!なんか制服姿やし余計に浮いとるで・・・!)

(本当にいいのかな!?いいのかな!?)

(え、ええ言うたんやしええんちゃうん・・・!?)


「お待たせいたしました。では此方にどうぞ」

「あっ、ハイ・・・!」

「彼氏さんは此処にお掛けになってお待ちくださいね」

「はい・・・!!!」

「では此方に」




お姉さんに案内されたのは、よくドラマとかで見るドレスがたくさんかけられている クローゼットのような広い部屋。たくさんの白いドレスがぎっしり並んでる。
私はお姉さんに言われるがまま、荷物を預けて制服を脱いだり・・・



「じゃあ今からドレスを着せつけるので、手を水平に伸ばしていてください」

「はいっ・・・!!!」



ドキドキと緊張しながら私はじっとしていた。
2人掛かりでドレスを綺麗に着せてもらう。

コルセットを締めてもらうだけで「うっ」と苦しくなって、本当に内蔵が出そうな気持ちになったけど、 数分後「出来ました」と言われて鏡を見て私は苦しさを忘れる事になる。




「う、わぁ・・・・・!!!!!」


「うわー!お客様、よくお似合いですよ!」

「このデザインの試着をされた方の中で一番似合ってるって思いました!可愛い!!!」

「・・・!!!」





全身鏡に映る自分は、
夢のような真っ白いドレスに身を包んでいて、自分で言うのもなんだけど少しだけ綺麗に見えた。
鏡を前にぐるりと一周回って、後ろを振り返ったりしながらドレスを身にまとった自分を見た。

(わぁ・・・!!!)(すっごく可愛い・・・!)


お姉さんの計らいで少しだけ髪を巻いてもらって、ますますその気になってくる。





「うわぁー!可愛いー!!!!」

「すっごくお似合いですよ!このまま結婚してもおかしくないくらい!」



お店の人、褒めるの上手いなぁ・・・!(その気になっちゃうじゃん!)



「ありがとうございますー!!・・・うわぁ、すごい。夢みたい・・・・」

「ふふっ、じゃあ彼氏くんにも見てもらいましょうか」

「え?」

「ほら、こっち!」

「うわわわ!!!」




お姉さんに手を引っ張られて試着室から出される。
出された瞬間お姉さんが「お待たせしました!どうぞ見てください♪」と 試着室前のソファで待つ蔵に言ってくれた。その瞬間私と蔵の目が合う事になる。




「あ・・・・・!」

「・・・・・・・・・・!!!!!!」




蔵は私を見るなり、目を丸くした。

えっ!?え!?何か悪い事した!?




「・・・・・・・・・それ・・・・・・!!!!!」

「へ?」




蔵は、私の足元から頭のてっぺんまで舐めるように見た。
何度も何度も目を往復させて、口元を手で覆い隠した。




「・・・・・!!!!・・・・」

「えっ?」

「・・・・・・っ綺麗・・・!!めっちゃ、綺麗・・・!!!!」

「本当!?」

「可愛いやん・・・!うわ、びっくりした」




蔵は本当に驚いているみたいでずっと私の事を凝視していた。
隣でそのリアクションを見ていたお姉さんも「ふふふっ」と笑ってしまうほど。



「ふふ、彼女さんすごく可愛いでしょ???」

「はい、とっても・・・!!!」

「じゃあちょっと他のお客さんが来たみたいだからちょっと離れるけど・・・ また後で着替え手伝いにきますね。それまでごゆっくり♪」



お姉さんがいなくなった。
改めて私たち2人は目を合わせた。



「見て蔵ー!これね、後ろとか超可愛いんだよ」

「・・・!!!!」

「えへへ!一生脱ぎたくないくらい幸せ!!!すっごくその気になってくるね♪」

「・・・・・」

「・・・・ん?おーい???蔵ー???」



私は蔵の顔の前でブンブンと手を振った。

すると蔵は「はぁー・・・」とため息をつきながら、目を手で覆ってその場にしゃがみこんだ。


んんん!?蔵どうしたの!?



「・・・・っ反則やんホンマ・・・!!めっちゃ可愛えよ」

「本当!?」

「・・・・・ますます独占欲増しそうやわ・・・!」

「え!」

「可愛すぎやねん!ホンマ何なん!?・・・っなんや反則やし・・・!」

「・・・蔵、もしかして、感動してるの?」

「当たり前やろ・・・!俺、こんなにびっくりするくらい誰かを美しいとか 思うたことなかった。せやけど今、心の底からそう思うわ」

「・・・!」

、めっちゃ綺麗。」




真剣なまなざしで蔵にそう言われて、私の顔は真っ赤になった。
うう・・・!!!!あ、改めてそう言われると照れる・・・!!!!!!!
















「あー!いい経験だったね!」

「ホンマやな」



あの後、お姉さんにお礼を言って私たちはお店を後にした。
(写真撮ってくれたー!)(帰ったらお母さんに見せてみよっと♪)

うーん。でもやっぱり蔵も学ランだし私にはドレスより制服の方が似合うよね!
今すっごくお腹の方が解放された気分。すごく苦しかったけど、でも・・・
お姫様になった気分だったしすっごく気分良かったな!


結婚式っていう夢が、なんだか一気に近づいたし
憧れがもっともっとキラキラ輝いた気がする!

また・・・着れる日が来るのかなぁ。私も。




「でもホンマ焦ったわ。・・・、ホンマ綺麗なんやもん」

「ええー!?本当!?でもあれは、綺麗なドレス着たら誰でも綺麗に見え・・・」

「いいや。俺は絶対やから綺麗やって思うで」

「蔵・・・・・!(きゅんきゅん)」

「・・・良かったな。ドレス着るんが夢やったんやろ?」

「うん!えへへ、ちょっとでも気分味わえて楽しかった!」

「ははっ!俺も楽しかったなー。見とって。」

「うんうん!なんかね、結婚って女の子の憧れじゃん??ますます憧れが憧れになったって気がしたよ☆」

「そっか!それは良かった。、めっちゃ嬉しそうやん」

「うん!蔵ありがとね、あの時ドレス着てみれば?って言ってくれて。 おかげで今すごくいい気分だよー!」

「全然ええよ!・・・俺もな、あんま結婚とかそういうんは意識したことなかったんやけど・・・・・・ちょっと ええなって思うたかも」

「本当?」


「おう。・・・・に"また着せてあげたいな"って思うた」




・・・・・・!

・・・・・えっ、蔵、それってまさか・・・・・・・・・・







の夢も俺の夢も、」

「・・・・・・・!」


「どっちも俺が叶えれそうなんやけど、ええかな」





蔵はそう言うと、優しい顔でにっこり笑った。







付き合いたいのも結婚したいのも、白石くん!(11.5.17)