「皆!!!!大変大変!!!!」

「どないしたんやーー」

「相変わらず、元気っすね」

「そんなに慌ててどしたんや?」



急に部室にかけこんだ私を見て、部室にいた謙也・ユウジ・財前くんが不思議な顔をする。
(着替え中だったのか、財前くんは上半身裸だったけど気にしない!)




「コケシが・・・・・20コケシ溜まった!」










私たち四天宝寺テニス部にはおかしなルールがある。

それは言い始めたらキリがないルールだらけだ。
全国大会の強豪の中でもこんなに真面目にふざけてる学校があるだろうか?


そんな話は置いておこう。

おかしなルールの中でも特に変なシステムがこれ、「コケシシステム」。
青学の人たちと合宿したときにコケシの話をしたら、 「俺らの部室にもいるんスよ!コケシ伝説!」とまさかのコケシトークで盛り上がったっけ。


これは、オサムちゃんが「面白い!」と思った人にコケシをプレゼントするというものだ。 私はマネージャーという立場上オサムちゃんにツッコミを入れる機会が多くて、 皆よりコケシをもらっている気がしてはいたんだけど・・・まさか20コケシたまるなんて!




「20コケシたまったら、ご褒美なんやろ??」

「オサムちゃんからのご褒美??なんや期待出来へんなぁ・・・」




まだ20コケシ集めた人はいない。
この部活のツッコミをしてる謙也ですら、10行ってない。



「ご褒美って何だろう?」

「あの先生のやる事なんて、期待しても無駄っすわー。」

「まぁ確かに・・・」

「でもオサムちゃんもやるときはやるやん!ほら、白石も何かもろうてたやん!」



そっか・・・。
コケシとは無関係だけど、蔵・・・純金のガントレットもらったんだっけ?
(謙也含めて皆何もらったのか知らないだろうけど)(この中では私だけ知ってるのかな)


オサムちゃんのやる事って博打みたいに落差が激しいから、期待はできないけど・・・
でも、凄いご褒美だったらどうしよう!?




「せっかくやし、オサムちゃんに言うてみたらええやん」

「そっ、そうだよね!ちょっと私、オサムちゃんに報告してくる!」




部室の皆に励まされて、私はオサムちゃんのいる職員室へと向かった。
部活始まるまでまだ時間あるし・・・いいよね!




「失礼しまーす!」

「おー、やんけ。ハッハー!」

「オサムちゃんいいところに!」



今、コーヒーを淹れてきたのか、片手にコーヒーカップを持っているオサムちゃんとばったり遭遇した。 私はオサムちゃんについていった。



「なんや。先生まだ外出ぇへんで。寒いやん」

「違う違う!あのね、オサムちゃん!私・・・・・コケシが20コケシたまったの!」

「ハッハー!良かったやん!!!」

「・・・あれ?ご褒美くれるんじゃないの?」

「・・・・・・・えええ!?言うたっけか!?俺!!」




出たーーーー!!!このテキトー顧問め!

オサムちゃんって思いつきで発言するから、よくあることだし・・・いいや・・・




「・・・・・なんだ、オサムちゃん覚えてないんだ」

「ご褒美なんていうたか?俺」

「言ったよ。皆も言ってたもん」

「ホンマか」

「でもいいよ。どうせ期待してなかったから。じゃあね、オサムちゃん!」



もうこんなのは日常茶飯事だ。
オサムちゃんのテキトー節を真に受けたのが間違いだった。

私はいつものようにスルーして、部活に戻ろうとした。
だけどその時、オサムちゃんが私の腕を引っ張った。
予想外のオサムちゃんの力に驚き「うわぁ!」と引き戻される私。



「まぁ待ちや。先生いー事思いついたで」

「い、いいこと?」

「んー。お前は頑張っとるからなぁ、たまにはご褒美やるんも悪ない。っちゅーわけで、 特別に先生からご褒美やるわ!」



え!うそ!!!!マジで!?



「いいのー!?」

「やるやる。ちょっと待っとれ」



するとオサムちゃんはそこにあった紙切れに何かを書いて、ビリッとちぎり 私にメモ書きを渡してきた。私は不思議に思って紙切れを広げた。



「・・・ん?何コレ」

「いつも頑張っとるに特別大サービスや!!!」

「・・・"一日ワガママし放題許します券"・・・??」



そう書かれた紙切れにハテナを浮かべる私。
オサムちゃんは「なんなら先生のサインと印鑑もやるわ。ほれ」と言いながら オサムちゃんの「渡邊」と書かれた印鑑が紙切れに押された。何かの契約書みたいだ。




「オサムちゃん、何これ」

「その券持っとったらな、テニス部の誰にでもワガママ言うてもええっちゅーこっちゃ! 一日マネージャー業サボってもええし、部活後のおやつもがワガママ言うて 何個でも食べてもええ!どや!最高やろ!?」




・・・・・!

ワガママ・・・・・!私が一日ワガママ言えるってこと・・・???




「時間制限は今から明日の今までな!まっ、楽しく使いや〜」

「えっ・・・ちょっ、いいの?こんなんで!」

だけ特別な!女子はちょっとワガママなくらいがちょうどええんやで」




私はオサムちゃんからもらったそのメモ書きを両手に持ち、 メモ書きとにらめっこしながらコートに戻った。


ワガママ・・・・・券・・・・・かぁ。



何でもワガママ言っていいってどういうことなの?
うーん・・・。ワガママなんて、改めて言われるとないんだけどなぁ。



ー、オサムちゃんのご褒美もらうたんかー!?」

「あっユウジ・・・」



ユウジと小春くんがちょうどコートに入ろうとしているところに遭遇した。



「何々?ちゃん、何のご褒美もろうたん!?」

、20コケシもろうたらしいで」

「あっ・・・。うん、それがこの紙切れもらって」

「ん?・・・何やコレ? "一日ワガママし放題許します券"・・・?」

「うん。なんかオサムちゃんにもらった。一日テニス部にわがまま言っても 許したるっていう券みたい」

「うわ!!!羨まし!!!!俺ならこれで小春と一日中イチャつくで!!!」

「アタシなら氷帝に見学に行くわ〜!!!ええ男をロックオン♪」



あっ・・・。そっか、そんな使い方もあるんだ。



「おっなんや!ご褒美もろたんか!」

「えーっ!?、ご褒美もろたん!?ワイもほーしーいー!」

「何もろたんスか」

「あっ・・・えっと、コレ」

「なんやコレ。"一日ワガママし放題許します券"?」

「今日一日、だけ何のワガママ言うてもええらしいで!」

「なっなんやねんそれ!!!ずるいで!」

「ええなぁー!ワイならたこ焼きめっちゃ食うたるでぇ!」

「俺ならケンヤ先輩の坊主姿見たいっスわ」

財前がご褒美もろうてなくてホンマ良かったで!!

「マネージャー業休んでもええでって言われたよ」

「俺らはのワガママ聞いてあげなアカンのか」

ちゃん!時間もったいないわぁ!早よワガママ言うとかんと!」




わがまま・・・!!!

皆はどうやらワガママを許してくれるらしい。




「蔵リンのこと、独占しちゃうとかどう!?」

「え・・・!いや、それは出来ないよ!蔵だってテニスしたいだろうし・・・! それに蔵は部長だからいろんな面倒見ないとだめだし!」

、何勿体ない事言うてんねん!!!」

「それぐらい白石も空気読むやろ」

「邪魔になるぐらいなら、私ワガママ言えないよ」

・・・!」

「ほらっ、皆部活始めようよー!!!ほらっ♪私のことなんてどうでもいいから♪」




私は皆の背中を押してコートに入った。


ワガママなんて言わなくても普段から面白いし楽しい部活だし♪
皆の会話に入れてもらえることが一番の願いかな!!

















結局、私はその日何もワガママを言わず一日を終えた。
寝る前にいろいろとワガママを考えてみるけれど、何にも思い浮かばない。

勿体ないのはわかるけど、でも思いつかないよ!



一日がまた過ぎて行く。普段通りの一日だ。
笑っていたらあっという間に授業が終わって放課後になる。
待ちに待った部活の時間がやってきた!(部活が一番楽しいもんね)



「蔵、謙也!部活行こう!」



いつもの様に2人を誘って部活に行こうとした、その時だった。



「悪いけど、今日は部活はナシや」

は!?えっ・・・??何で・・・」

「今日の部活、白石とは休み!っちゅー話や」

「!!???」



は?2人とも何言ってんの・・・!?

だって今日は普通に部活の日じゃ・・・???

蔵の方をパッとみると、蔵も帰り支度をしてる。そして「ほな帰ろか。」と こっちを向いて言ってきた。謙也は「ほな俺は先に行くでー」と先に教室を出て行ってしまった。



「えっ、ちょっと蔵・・・?」

の為に色々と考えてみたんやけど」

「?????」

「・・・ん?何キョトンとしとん?」

「いや・・・!あの、蔵・・・話が全く見えないんだけど・・・」

「話は行きながら話す。時間の無駄やし早よ行くで」

「わっ・・・」




蔵はそういうと私の手を引っ張り、教室を出た。
意味がわかんない・・・!!!けど、蔵は至って普通の顔をしている。




「後ろ乗って」

「うん・・・!」



私は蔵の自転車の後ろに乗った。
蔵は「しゅっぱーつ」と言って自転車を漕ぎ始める。
私は蔵の後ろに乗って蔵の腰に手を回した。



「蔵ー、一体何のつもりー??」



風に負けないように、少し大きめの声で私は蔵に聞いた。
すると、蔵ははははっと笑いながら答えた。



「昨日謙也から聞いた。コケシ20個溜まって、ご褒美もろうたんやろ?」

「あっ・・・うん」

「わがままデイ、なんやろ?」

「うん。でも思いつかなかったけどね」

「ははは!らしいなぁ。」

「そう??」

「そう思うて、俺が代わりにのワガママを考えてみた」

「!」

「っちゅーワケで、とりあえず今日は部活サボってデートでもしてみようかなって 思うてん!」




蔵・・・・・・・!!!!!




「でっでもいいの!?蔵はテニスしたいんじゃないの!?」

「あー。まぁな!でもテニスは毎日しとったし、たまにはとデートもしたいやん!」

「蔵・・・!!!」

「そらテニスも大好きやけど、こうやってサボるんも新鮮でオモロイやん♪」

「・・・・もー!蔵大好き!!!!」




私は後ろから蔵の背中にぎゅーっと抱きついた。
すると蔵はあははと笑った。




「ま、本音はアイツらにのわがまま聞かせてたくないっちゅーのが大きいんやけどな」

「んんん?なんで?」

のわがまま聞くのは俺の仕事!全部聞いてあげたいやん!」

「まーたそんな恥ずかしい事言って・・・!(ぺちっ)」

「せやからのわがまま独り占めな。何でも言うてみ」




蔵は優しくそういってくれた。
さっきまでなんにも浮かばないなって思っていたけど・・・・
蔵にそう言われちゃうと、ぽんぽんと浮かんでくるよ!




「んーーー。じゃあ・・・そうだなぁ、いろいろと悩んじゃうけど・・・」

「なんでも言うてみ!」





蔵がそういったので、私はにやっと笑って蔵の耳元に口を近づけて。





「ずっと好きでいてね!」





そう言った。
すると蔵はキーッと自転車を止めてその場に止まった。
そしてくるっと振り返ってくれた。




「アホ。そんなんワガママちゃうわ」

「!最高のわがままだと思うんだけどなー」

「もっと大胆にわがまま言うてみ」

「例えば??」



「"死ぬまで一生愛してね"とか」

「あははっ!それは大胆!」

「せやろ?」

「・・・じゃあ、その蔵の答えは?」





「もちろん、喜んで」





そういうと蔵はそのまま私にキスをした。






Perfectic Kiss!! (わがままに対する最高の答え!)






(あれ?今日白石はおらんのかー)(あっオサムちゃんや!) (白石はのわがままに付き合ういうてサボったでー) (なんやアイツ!わがまま言うてええんはだけや! 白石のコケシ、没収やな・・・)(はは!ボッシュートや白石ぃ〜!!ざまーみろ!) (おっ。そういう謙也も最近オモロないから没収やで!) (!?)





(11.2.23)