部活を引退した私たち3年生は、毎日教科書や問題集とにらめっこだ。

引退してから間もなくはテニス部に顔を出していたけれど、 引退して早早数ヶ月経った今ではほとんど顔を出していない。


蔵曰く、「新体制には新体制のやり方があるから顔出さん方がええ」らしい。

(まぁそうだよね!)(確か私たちが2年生の時もそんな感じだったし)





私はこの3年間(2年半)、テニス部のマネージャーをしてきた。
そこで素敵な仲間や先輩と出会い、蔵という素敵な人に出会った。
テニス部で全国大会に毎年行って好成績を残して、そして笑顔で引退した。

皆で騒いだ2年半。長いようであっという間だったなー・・・。


1年生の頃は・・・たくさんの出会いがあった。
2年生の頃は、蔵が2年生にして部長に着任して、戸惑いながらも2人でチームを引っ張った。
3年生の頃は、ひたすら優勝目指して頑張った。



中学校生活最後の対戦相手、青学は本当に強かった。


こんな言い方をすると皆のプライドを傷つけちゃいそうだけど、 優勝校だったし負けたのも仕方ないと思う。

負けた相手が優勝校なら納得行くしね。



・・・でも。

マネージャーである私は皆が普段から頑張っている姿を見ているのもあって、 青学に負けたことが物凄く悔しかった。でも、蔵や皆が物凄く楽しそうだったから 私の中のそんな気持ちも薄れていった。

本当は悔しいけど、でもやっぱり青学の人たちを見てると
「仕方ないか!」って思えた。

やっぱ凄く強かったし!!!



四天宝寺と青学。
去年までは然程接点がなかったけど、 決勝前日の焼肉バトル以来仲良しになっちゃったんだよね!
青学の人たちといると本当に楽しい。

全国大会後すぐに青学の人たちとは合宿したっけ。
一緒に練習して試合して遊んで・・・本当楽しかった。





テニス、から引退した今・・・もう青学の人たちと会うこともないんだろうな。
(来年会えるかもしんないけど、メンバーが全く同じとは限らないし)

テニスと出会えてよかった。
テニスがなければあんな遠くの仲間や、勿論蔵とも出会えなかったと思う。


それだけに引退した今物凄く心許無い気分。


今まで私の生活で一番長くいたテニスコート、一番見ていた景色。

ついこの前の話だったような 遠い昔のような。
そんな不思議な感覚になる今日この頃だ。






、どしたん?めっちゃボーッとしてるやん」

「・・・!蔵、あ・・・ううん。ちょっと部活が恋しくなっただけ」



蔵と一緒に昇降口を出ようとした時、そう言われた。
無意識にテニスコートの方を顔が向いてたのに気がついたのか、蔵は ハハハと笑った。



「部活引退してもう2ヶ月経とうとしとるんか、そういえば」



数ヶ月前までは汗をびっしょりかくくらい暑くて、夏服の白シャツがまぶしかったのに
今ではすっかり衣替えしてて、風がひんやりと冷たい。もう季節は秋。

秋の独特のしんみりとした雰囲気でこんなこと考えちゃったのかな??



「なんか・・・この1年特に早かったよね」

「せやな。金ちゃん入学したし、千歳も来たし、一番濃い時期やったしな」

「金ちゃん・・・元気かな。って、廊下で普通に会うけど」

「ははは!あのゴンタクレが元気じゃないわけあらへんって」

「ふふふっ、それもそっか!」

「でも、金太郎のテニスがどないなっとんか気になるなぁ」

「そうだよね!財前くんもどうなってるのか気になる!!」



やばいなぁー。
未だにテニス部のメンバーの話になるとテンションが上がって楽しくなっちゃう。

別に部活に行っていないだけで、学校で頻繁に会うし話も聞いてるのに。
やっぱり気になっちゃうんだよね。



「なぁ

「ん??」

「ちょっと覗いてみる?」

「へ・・・?」



思いがけない蔵の一言。



「テニス部や。そろそろ新体制も形になってきとる頃やし、新人戦も終わって 落ち着いとる頃やし。ちょっと様子見る程度覗いても大丈夫やろ」



蔵は楽しそうにそう言った。うん、確かに今の時期なら覗いても大丈夫かも!
でも邪魔にならないかな??



「みんなの練習の邪魔になんないかな??」

「ならんよ。だって覗くだけやし。気づかれんうちに帰れば平気や」

「・・・そっか!そうだよね!なら覗いちゃおっか!」

「ノリノリやん!よっしゃ、ならちょっとテニスコートに寄り道していこか」

「うん!!!」




そうだよね!見学だけなら邪魔になんないよね!

・・・あ、蔵が部活をこうも敬遠してるのには理由があるの。


別に部活に興味がなくなったわけじゃなくて、部活の「今の」雰囲気を大切にしたいから 敬遠してるみたい。


さっきも言ったけど、新体制の始まりって凄く大切な時期なの。
揉めたり、問題にぶつかったり、なかなか上手く行かない時期でもあるんだけど
それを乗り切ってこそ新体制は上手く行く。(私たちもそうだった)


だからこの時期に変にOBが口出し(部活参加)しちゃだめ、なの。

勿論相談とかは乗ってるみたいだけどね。


新体制が「独り立ち」するまで口出しせず見守るのがOBの役割。
部活を思ってるから、部長の蔵だからこそ取る行動。
だから蔵は絶対に部活参加しないし、見学もしない。

私もそんな蔵の気持ちを汲み取って、テニスコートはしばらく行ってない。




「なんかこの道も久しぶりに通る気がするね!」

「せやなー!なんか懐かしいわ」



入部してから毎日通っていたこの道も、今はすっかり通らなくなっちゃったよね。



「そういえば去年の今頃ここで焼き芋やって怒られたよね、教頭に」

「あったあった!でもその後校長来て芋あげたら許可もらえたよな」

「あの時皆でずっこけたの・・・ふふふっ!今思い出しても笑える!」

「そういえば1年の時、に告ったのもこの辺やったな」

「そうだよねー!!そうだよ!此処だった」

「今思うと何でこんなとこで告ったんやろな。もっと雰囲気あるとこですれば 良かったわ」

「でもあの時蔵が掴まえてくれたから、私は今でも隣にいれてるし」

「・・・せやな」



懐かしい。

鮮明に思い出が頭に蘇ってくる。



「・・・お、そろそろ着くで。」



蔵は人差し指を口に添えながら「シー・・・」と言った。
もう場所はコートのすぐ傍だ。

「金ちゃんの声でかいからよぅ聞こえるわ」と苦笑しながらも、蔵は嬉しそう。
やっぱり金ちゃんを初めとして部活が心配なんだね。
本当はOBとして伝えたいものや、純粋にテニスを皆としたいっていうのが蔵にも あると思う。それでもやっぱり参加しないのは、それ以上に蔵が部活を思ってるからだよね。


こういうとこ、好きだなぁ・・・。



「蔵、やばいよ!私すっごくテンション上がってきた!」

「俺もや」



2人でコートが見える物陰に隠れ、こっそりと見つからないように気をつけて、 そーっと顔を出す。


皆・・・どうしてるかな・・・??




「お、金ちゃんや。豹柄目立つなぁ〜」

「あっ財前くんだ!・・・うわわ!あのクールな財前くんが後輩に アドバイスしてるよ!」

「ちゃんとやっとるやん財前クン!なんや、心配やったけど 上手く行っとるみたいやな・・・」



私がふと蔵の横顔を見ると、蔵は凄く温かい目でコートを見てた。
切ないような、テニスをしたそうな、そんな目だった。



「・・・蔵」

「ん?」

「蔵、本当は部活・・・テニスしたいんじゃない?」

「!」

「新体制を思うのは良い事だけど・・・でもたまにはワガママ言って 邪魔しちゃうのも良いかもしんないよ」

・・・」

「OBのプレイが刺激になるかもしんないしっ。蔵もやってみたら?」

「・・」

「私も蔵のテニス、久しぶりに見たいし!」



私がそう言うと蔵は柔らかい表情で、私の頭に手を置いた。



「ありがと、

「!」

「でもやっぱアカン。どうせ冬に追い出し会やってくれるし、 そん時までガマンするわ」

「蔵・・・」

「そらテニスはやりたいけど、楽しみはとっとかな!」

「もー・・・。蔵はまたそうやってガマンするんだね」

「ああ。やっぱ俺らが優勝出来んかった分、皆には頑張ってもろて 俺らに優勝したとこ見せてほしいやん。そのためには良いチームになってもらわんと。 せやから今の時期邪魔しとぅない」



蔵、そこまでチームの事を・・・!!



「分かった。ごめんね、変なこと言い出して」

「何言うてんねん。ありがとな、



蔵は私のおでこにコツン、と額を寄せた。




「じゃあもうしばらく見学して、こっそり帰ろっか」

「せやな」

「あ!部活のおやつの時間まで時間あるよね!?今日のおやつ、 差し入れしない!?私たちの代の部費まだ残ってるし」

「お!ええなぁ、それ」

「部活も終わってるしさ、それなら邪魔になんないよね!」

「さすがマネージャーやな。ならこの後おやつ買いに行こか」

「賛成☆」




私たちが喋っている、その時だった。





浪速のスピードスターの足は、まだ衰えてへんっちゅー話や!





!!!!?????



「・・・ねぇ、蔵今の・・・コートから聴こえなかった?」

「いや・・・気のせいやろ・・・」



2人で顔を見合わせ、しばらく止まった。
そして同時にバッとテニスコートを覗いた。すると!




「謙也〜〜〜!!!残念やったなぁ!アウトや!!!」

「何やて!?」

「引退してから腕落ちたんちゃう!?」

「なんや生意気言うようになったな金ちゃん!!!」





何で謙也が部活参加してんの!?



「あんのアホ・・・・!!!!」



何と、コートで謙也が制服のまんま金ちゃんと試合していた。

え!?何やってんのあいつ!

部活参加したらダメって暗黙の了解なのに!!!!
謙也何参加してんの!?


蔵はこめかみを押さえながら、深くためいきをついた。
・・でも私はなんだか笑えてきて、思いっきり声を上げて笑ってしまった。
だから。



「蔵!!!行こ!?☆」



蔵の手を引っ張り、コートへ入ろうと促す。



「・・・説教決定やあのドアホ!」



そう言って2人で手を繋いでコートに走った。


すると私たちの存在に気がついたのか、後輩部員たちが 「白石部長や!」「先輩やー!」「ちーっす!」と挨拶し始めた。




「おーーー!!白石ぃ!!やぁーーー!!!」

「金ちゃん久しぶりーーーー!」

「白石にやん!お前らもテニスしとぅなったか!」

アホか




This sense can never be forgotten!
(この感覚は二度とわすれない感覚!)




青春してるね!(10.11.02)