「クシュン!!!」



最近、クシャミが止まらない。
あの白石蔵ノ介と付き合いはじめて、蔵のファンからの呪いかなって思ってた。

蔵と付き合えた事で、熱が上がり過ぎて風邪引き始めてるのかな。

蔵にうつしちゃまずいし、嫌だなぁ。もう。











、一緒に帰ろ」

「うん!!」



蔵から誘われて一緒に帰ることになった。
ふふふっ!付き合い始めて1週間目にして、やっと一緒に帰れる!

そ、そりゃ私はマネージャーだし2人っきりで帰った事がないといえばウソになるけれど、 でも恋人同士になってからは初めて。手とか繋いだりするのかな・・・!どきどき! 改めて2人になると緊張しちゃう。でも蔵はそんな素振り一切見せないし、 緊張してる私がばかみたいだ。うん、此処は私もいつも通りの調子でいったらいいよね。



「初下校だね!」

「ははっ、せやな!初下校にして初2人下校や」

「なんか楽しくなってきた!」

「俺も同じ。なら、こうやって帰る?」

「!」



蔵はそういうと、私の手を握った。うわわっ・・・手!手!
今まで彼氏がいた事があっても、キスは愚か手を繋ぐ事すらしたことがなかった私にとって、 蔵の行動は大きかった。か、カップルっぽい・・・!!!

これが男女の交際ってやつなのね。
(前いた彼氏とは想いが通じあったってだけで、特段何もなかったし)

そっかそっか、気持ちが通じただけで恋は終わりじゃないんだ。
付き合ってからもいろいろとステップがあるんだよね。


手を繋ぐのは想像以上に恥ずかしい。
まだ中学生だし、彼氏がいるだなんて家族には言えない。お買いものに出かけた お母さんにこの姿を見られたらどうしよう、とか 部活の皆に見られたらどうしよう。とかそんな恥ずかしい気持ちの方が上回ってた。

だって手を繋いで帰宅するなんて生徒、他にいないし・・・

同じ思春期の生徒だから、手を繋いでいるところを見れば大騒ぎする。
ただ手を繋いだだけなのに大人の階段を上ってる、と指をさされる。




「・・・ん?どしたん?嫌?」

「あっ、ううん!そんなことない!嬉しい!」




嫌だ、恥ずかしいなんて気持ちがあるのは事実だ。
だけどそれをこんなにも幸せな気持ちで緩和してくれるのはやっぱり。




「なんか手繋いでるとと付き合っとるなーって実感して、俺嬉しいかも」




蔵がそれ以上にかっこよくて、蔵といるのが楽しいから!
私はふふふっと笑った。すると蔵は「子どもっぽかった?」とあたふたした。

こんな幸せの独り占め、なんかバチが当たりそうだなぁ。


私がそう思っていたその時だった。




「っクシュン!」



急に鼻がむずむずしだして、私は蔵と繋ぐ手をパッと引き抜き口元に当てた。
「ごめんね」と蔵に告げて、すぐに近くにあった水道で手を洗って、ハンカチで手を拭いた。



、風邪でも引いたん?」

「あ、ううん。そんなことないんだけど・・・。なんかクシャミが止まらないの」

「花粉症かなぁ?」

「うーん。花粉症ではないと思うんだけどな」

「気ぃつけてな。風邪こじらせたらしんどいで」

「うん。ありがとう!蔵に移しちゃ大変だし、早く治すね」



私と蔵はもう一度手を繋いだ。が、しかし。

私のクシャミは止まらなかった。それどころか喉の奥の方もむずむずしだして、 目までかゆくなってくる。あれ、なんかおかしいぞ??





蔵と一緒に帰った日の翌日のことだった。



(風邪治っちゃった)



蔵に家まで送ってもらい、一晩経ったらすっかり良くなってしまった。
蔵が「気ぃつけてな」って言ってくれたからかな。(なんてね!)



「おはよっ

「あ、謙也。おはよ!」



朝練に向かうため、人通りの少ない校門をくぐろうとしたら謙也と会った。



「見たで見たで〜!昨日お前、白石と手ぇ繋いで帰ってたやろ〜!!」

「う・・・!!!見てたんだ」

「アツいなぁ!!部活中やめや」

「しっしないからそんなこと!!!」

「何をしないって?」

「「白石!!??(蔵!!???」」



いつの間にか蔵が追いついてきたみたい。



「おはよ!蔵!」

「おはよう。なんや、俺の悪口言うてたん?」

「違うよ。謙也が部活中はイチャつくなって忠告してきたから」

「イチャつくって・・・こう言う事?」

「わっ」



蔵は私の肩を抱き寄せた。うわぁ、わぁぁぁ!!!(どきどきする!)



「お前そんなんで俺が羨ましいとか思うとか思うなよ!!白石・・・! お前なんか、彼女出来てからファン少のぅなって確実にモテへんようになってきとんやからな!!」

「別にモテんでもええし」

「うわ!自慢や!」

「なー、



蔵は私の事を一瞬だけだけどぎゅっと抱きしめてくれた。
その瞬間朝だと言うのに私の心はピクン!と反応する。ど、どきどきしすぎて死んじゃいそう! すぐに蔵は私から離れて笑っていたけど、私は笑えないよ・・・!



「次イチャこいたら100円罰金!」

「消費税は?」

「105円にしたるわ」

「なら俺、あと414回イチャつこ。謙也、何円罰金かすぐ計算してくれるか」

「ちょっええ!?おまっ・・・ええと、四の五の・・・二十繰り上がって・・・」

「浪速のスピードスターちゃうんか」

「白石〜〜〜!!!」



私と蔵が付き合う前とはちょっぴり違う謙也と蔵の言い合い。
一方的に負かされてる謙也を見るのが面白くて、私はくすくすと笑った。

でも、そのときだった。



「なんや、。腕どしたん??」

「へ?」

「腕赤いで。そんな掻いたらアカンて」

「うわ!」



無意識に私は自分の腕をかきむしっていた。
腕には爪でひっかいたような赤い跡が残っている。言われてみればさっきから、なんだか かゆい。それに・・・また鼻がむずむずしだした。



「ええええ〜!?なんか・・・かゆい・・・!!っクシュン!」

「お、おい、大丈夫か?」

「うう〜〜〜・・・・・なんかかゆくなってきたぁ・・・」



私は首・背中の方にまで手を伸ばしてかきはじめた。
なんか全身がかゆい・・・っ!!!しかも、クシャミも止まらない!

ただならぬ状況に蔵と謙也も本当に心配そうな顔を浮かべる。


なんで!?どうしちゃったの私の体!






結局「大丈夫大丈夫」と言って、朝練は普段通りにこなした。
朝練中はものすごくかゆくってジャージの上から腕をかいたりしていた。
だけど朝練が終わり教室にあがると、次第にかゆみは治まってきていた。



(・・・んもー。なんなんだろう。このかゆみ)



私は授業中に外を見上げながらぼんやりとそんな事を考えていた。
急に出てくるかゆみ。しかも全部蔵が近くにいるとかゆくなってる気がする。

・・・・・ん?そういえばそうよね・・・

この原因不明のクシャミが出だしたのは蔵と付き合い始めてから始まった気がする・・・。


あれ?そう考えると昨日もそうだ!
昨日手を繋いだ時からクシャミが止まらなくなった。

今朝も蔵に会うまでは普通だったのに、蔵が肩を抱き寄せてくれた辺りから 無性にかゆくなってきた気がする。朝練中は心配してくれた蔵 がずっと傍にいてくれたけど、練習中はずっとかゆかった。


えっ、ちょっと待って・・・・・!!!


これって・・・・・・・


私・・・・・




蔵アレルギー!!???


(え、えええー!?)(そんなのあるの!?)








それに気がついて数日間、私は本当にそうなのか観察してみた。

女友達と喋っている時、くしゃみは出ないしかゆくもない。 だけど蔵と部活の練習メニューのことで話している時はとってもクシャミが出る。 一緒に帰って手を繋ぐと全身がかゆくなって堪らない。 でも自宅に帰ると落ち着く。


・・・・・・・・やっぱり私って。

蔵アレルギー!?



どどどっ、どうしよう・・・!そんなアレルギーあるのかどうか知らないけれど、 でもこのかゆみは本物だ。蔵も、ずっとかゆそうにしている私を心配してくれてる。 心配する蔵の顔見たら、「蔵アレルギーです」なんて言えないよ・・・!!!




そんなかゆみと戦って数日が経った、ある日のことだった。




、」



いつものようにかゆみを我慢しながら、蔵と一緒に帰っていた時蔵に呼び止められた。
辺りはもう夕日も落ちて、だいぶ暗い。



「ん?どしたの??」



蔵はきょろきょろと辺りを見回したかと思うと。



「!」



ぎゅっと私の事を抱きしめてくれた。
う、うわぁ〜!!!!ちょっ、どきどきする・・・!ええー!抱きしめられてるの!?




、大好き」



突然の蔵の行動と蔵の言葉に、私はもうメロメロだった。
はー・・・幸せ・・・!!!

だけど。



(・・・・・かっ・・・・・かゆい!!!!!!!!)



私は全身からかゆみが押し寄せてきて、その幸せの感じは一瞬にして消え去った。
そして無意識に蔵の胸を押し返して蔵をドンッと突き飛ばしてしまった。

やっ・・・やば・・・!!!!


突き飛ばした後、自分がとんでもない事をしたと思い蔵の事を見上げた。
すると蔵は驚いたような、ショックを受けたような、そんな顔をしていた。




「・・・っごめん蔵!そういうわけじゃ・・・!」

「いや、ごめん。俺・・・ちょっと手、早すぎたな」



蔵は申し訳なさそうに笑った。
ちっ、違うの蔵ーーー!!!!そういうわけじゃないの!!!!!



「くくく、蔵、違うの・・・!そうじゃなくてそのっ・・・」

「ええって。ごめんな。もうちょっと経ってからするべきやったな」

「違う!抱きしめてくれたことはほんっとに嬉しいの!でもっ・・・」

「・・・?」

「私、蔵に触られるとめちゃくちゃかゆくなるの!!!」

「!?」

「信じられないかもしれないけど、私蔵の近くにいるとめっちゃかゆくなる・・・! 蔵アレルギーかもしんないの」




私がそういうと、蔵はしばらく黙った。だけど、すぐににっこり笑ってくれた。




「誰が蔵アレルギーや」

「あっ、笑った!本当だもん!深刻な問題なんだよっ」

「プッ、・・・ははは!オモロイなー」

「・・・くっ」



こんなにも真剣なのに、どうやら蔵にはバカにされてるみたいだ。



「ま、冗談はさておき・・・。俺が傍におるとかゆいってホンマなん?」

「う・・・うん・・・」

「・・・ふーん」

「ごめんね・・・。今まで手を繋いだり蔵が隣にいるだけで物凄くかゆかった」

「そっか・・・。じゃあ俺が何してもはしんどいって事?」

「・・・・・・うん」



蔵は口元に手を当て、何かを考え始めた。



「困ったな、俺の事めっちゃ好きやねんけどな」

「私もだよ!私蔵が世界で一番かっこいいと思ってるし世界一好きだよ・・・!」



私がそういうと蔵は口元を押さえて、ちょっとだけ頬を赤く染めて 目線を逸らした。



「アカン、深刻な状況やのに、その言葉めっちゃ嬉しいわ・・・!」

「だって好きなんだもん!」

「それは俺もや」



私は蔵の手に手を伸ばした。すると蔵はきゅっと握ってくれた。

好きなのに触れないなんて、悲しすぎる。
今までずっと日常を過ごしてきたけど、こんなに好きな人いなかった。
以前お付き合いした人はいたけれど、その人と比べ物にならないくらい蔵が好き。
蔵が大好きなの、本当に。

こんなに好きになる人、絶対いない。


・・・・・・・それなのにアレルギーだなんて。
別れるしかないのかな。




「・・・・・。なぁ、。俺思うたんやけど」

「・・・・・・・・・ん?」

もしかして・・・」

「もしかして?」




「猫アレルギーちゃうん?」





・・・・・・・はい?





「ねこ・・・アレルギー・・・!?」

「俺の家・・・猫飼ってんねん」

「そうなの!?でもそれって私と付き合う前からだよね!?付き合うまでは クシャミとかなかったんだよ?」

「・・・あ!」

「・・・え?どしたの蔵」



私がそういうと、蔵はいきなり視線を横に外した。
そして何か思い当たる節が合ったのか、聖書な彼にしては挙動不審な行動をとった。

蔵?



「・・・いや、あー。分かった。ごめん、。俺が悪いわ。コレは」

「ええ!?いやっ意味がよく分かってないんだけど・・・」

「その・・・!・・・痛いとか思われたら嫌やからあんま言いたくないねんけど・・・」

「思わないって!どしたの・・・??」

と付き合うってなった日、俺めっちゃ嬉しかってん」

「うんうん」

「俺が好きって告白したらも好きって言うてくれたやん? やっぱりの口から好きって聞くと、ホンマに嬉しくなってしもうて」

「しもうて?」

「その日から今まで以上にの事、好きやーって思って・・・な?」

「うんうん」


「・・・に無性に会いたくて、その」

「うん」

「夜は会われへんやん?でも俺はめっちゃテンション上がっとるから、 なんか無性に何かに抱きつきたい気分になるやんか」

「・・・!」

がおればを抱きしめたいけど、おらんし・・・ でも抱きしめたい。ならどうするか?そう思うて思いついたのが、 ウチで飼ってる猫を抱っこして寝ることやってん・・・!」



蔵は徐々に頬を赤くしながら、またまた口元をカーディガンで隠しながら。
いつもサラリと会話をしてくれる蔵とは別人のごとく照れながらそう言った。

え?それってつまり・・・・・・・



「蔵、それって私のこと好きすぎて猫ちゃん抱っこして落ち着いてるってこと?」

「・・・・・・だめ?」

「えっ!それ全然嬉しいよ!そ、そんなに好きでいてくれたんだなって!」

「・・・・あーもう、まさかこんな事言うハメになるとは思わんかったわ・・・!」



蔵は顔を逸らしながらそう言った。

そうだよね、蔵からすれば自分の気持ちを落ち着けるために猫ちゃんを抱っこして寝てたのに、 まさかそのせいで私が猫アレルギーで苦しむとは知らないから・・・!


でも蔵、まさかそんなに私のこと好きでいてくれてるなんて思わなかった!


(ど、どうしよ)(私もそれくらい好きにならないと申し訳ないよ!)(いや、好きなんだけど!) (蔵がそんなこと言うんだったら、私だって毎日チーズリゾット食べたいくらい好きなのに!)




「・・・ごめんな、

「ううん。むしろ嬉しいよ!」

「・・・今日から抱っこするのはやめるから。それならも平気やろうし」

「いいの?大丈夫なの?」

「だって、が俺に近づけん方が辛い」



蔵・・・。



「ねぇ蔵」

「ん?」




私は、不意打ちで蔵に抱きついた。
蔵はすごくびっくりしてたけど、私の事を抱きとめてくれた。




「っ!!?」

「私で良ければ抱きついていいから・・・!」

「!」

「大好き、蔵」




私がそう言うと、蔵はフッと笑い頭を撫でてくれた。




「そんな可愛いこと言うてもええんかなぁ?俺止まらんようになるで」

「蔵ならいいよ」

「アホ」



蔵はぎゅ、と私のことを抱きしめてくれた。



「ほなお言葉に甘えて、今日の分抱き締めさせてもらうな」




・・・・・・蔵、私蔵が大好き。
良かった、蔵アレルギーじゃなかったんだね!

ぎゅって抱きしめてくれる蔵の体温が伝わってくる。
私、この人と付き合えてよかった。可愛いとこも含めて大好きだ。
私も蔵に抱き締められると落ち着くよ。 アレルギーじゃないことも分かったし、これからはもっともっと私のこと抱きしめてね。



大好き、蔵!







「・・・・・・クシュン!」

「あっ、ごめん!!」




(10.11.3)