「もー!皆、おやつは急がなくても人数分あるから!!」

「でも出来るだけ大きいヤツ取りたいやん!」


「・・・あーあ。凄い勢いでなくなっちゃった。」

「はは、皆食べざかりやんな」

「最後の2つ、形崩れちゃってるし、ちっちゃくなってるね」

「ホンマやな。なら俺はこっちの崩れまくった方もらうわ」

「ええ!?いいよ、蔵が綺麗な方食べて!?」

も楽しみにしてたやん。まぁどっちも小さいし形も崩れとるけど、 こっちの綺麗な方食べや」

「蔵・・・」

「食べれば全部同じやし、俺はこっちがいいから」






「しーらーいーしー!ワイもっとおやつ食べたい!もう1個食べたい!」

「アカン。人数分しかないねんから」

「いーやーやー!」

「アカンもんはアカン。」

「なんでやー!2つ食べたやん」

「あれは元々1つやったのに2つに崩れたから、2つ食べてるように見えるだけ」

「嘘やー!絶対2つ食べたで!」

「・・・ハァ、しゃあないな・・・。金ちゃんが食べたいなら俺の半分あげるから」

「ホンマか!?」






「白石ー!お前さすがバイブルやな!」

「蔵リンの安定したプレイがあるからこそ、試合に勝てたわ」

「いやいや、皆のオモロイプレイがあってこそやで。俺はキャプテンとして 勝っとかなアカンからな」






「なぁなぁ、白石くんって部長なのにテニス結構地味やんな」

「わかる。でもええんやって。白石くんはテニスっちゅーより顔が綺麗やから! それだけで意味アリ!」

「せやな!白石くんはテニスちゃうわ。顔やわ!」



「・・・はは、また何か言われとるな」

「蔵、気にしちゃダメだよ。私は、蔵のテニス大好きだからね」

「ありがとな、








蔵は、我慢強い。



我慢強いっていうか、優しすぎて自分よりも皆のことばかり。




蔵はああみえて心が弱い部分があるから、何でも自分で背負いこんでしまうし
なのに周りに迷惑をかけちゃだめだと、絶対に辛そうな顔を見せない。

誰かにズキンとくるような事を言われても笑顔で受け流しているし、
辛い事があっても辛いと言わない。
四天宝寺のみんなは空気を読むのが上手いけど、蔵はずば抜けてそうだと思う。



いつも皆の事を見ていて、いつも皆に優しい。
すごく気が利いてるし、一人一人の個性を大事にしてる。

でもね蔵は、本当の自分をさらけ出していないんじゃないかと思う。



蔵は私にだけは弱音を吐いてくれる。

だけどその弱音はひょっとしたら蔵の中の「ほんの一部」だけであって
本当のことは私に「愚痴ばかり聞かせたくない」という気遣いから、自己消化してそうだ。
ううん、きっとそう。蔵はそういう人だもん。


だからたまに蔵が本当に心配になる。

蔵はいつも楽しいって言ってるけど、それに応じた辛さも同じくらい背負ってるんじゃないかな。






「蔵、あのさ!」

「ん?」



今日は学校帰りに蔵の家で2人でまったりしていた。

いつもみたいに2人でくだらない事を笑って話して、2人で最近ハマってる レンタルDVDの続きを一緒に観ている。だけどそんな「いつも」を 崩したくて、私は蔵に声をかけた。



「蔵・・・は・・・さ、楽しい?」

「え?何が?」

「うーん・・・・・。今までの人生?」

「ははは!なんやそれ!」



蔵は笑った。



「私、心配だよ。蔵、いつも我慢ばっかりしてるから」

「我慢?俺が?」

「うん。いつも皆優先で自分は最後だもん」

「あー・・・。まぁ、そう言われてみればそうやけど・・・。でも それでもう慣れとるし、俺も何も思わんからなぁ」

「たまにはわがまま言ってもいいんだよ?」

「・・・!」




蔵は少しだけ驚いた表情をした。
でもくすっと笑って私の頭に手を置いた。




「ありがと」

「・・・」

「でもがそれを分かってくれてるだけで、俺は嬉しいから」

「蔵・・・」

「ホンマにありがとな」



蔵はそのまま私のことをぎゅっと抱きしめてくれた。



「でも、の前でならワガママ言うてみようかな」

「うん。いいよ。なんでも」



すると蔵は私の耳元に口を近づけて、彼にしては少し低めの声で囁いた。



「・・・・・ずっと傍におって」



今までありとあらゆる蔵の言葉を聞いてきた耳だったけれど、 この一言は今までもらったどんな言葉よりも重く、強く、私の耳を通って胸に響いた。 無駄のないスタイルを貫く蔵らしく、とてもシンプルな言葉だったけれど・・・
前置きのある、ずるずる長く、綺麗な言葉の羅列のどんなものよりも 蔵の気持ちを表した言葉だと思った。



私が考えるにきっと蔵は今こう思ってる。



私たちはまだまだ学生だし、ましてや中学生だ。
だからこの先一緒にいるかどうかなんて保障はどこにもない。

私に他に好きな人ができるかもしれない。

蔵は優しいからそうなった場合、私の幸せを願って私を手放す。
私が幸せになればいいって、また自分を犠牲にする。


蔵は私のワガママを聞こうとしてくれるから



だから、この蔵の一言は精一杯のワガママ。

私の気持ちなんて考えず自分だけを見ていてほしいという、
シンプルだけど難しいワガママ。



蔵にしては自己中な言葉だ。



だけど・・・





「当たり前だよ。一緒にいるよ」





私は蔵以外を好きになるわけがない。これからずっと一緒にいる気、満々だ。
だから蔵、そんなのワガママに入らないよ。





「ホンマに?」

「うん!最初からそのつもり」

「俺、が思うてるより面白くない男やで」

「そんなことない。それに、面白いかどうかを決めるのは蔵じゃなくて私。 だから蔵は私に遠慮なんてしないでね」

「・・・!」




蔵はすごく幸せそうな笑顔をこぼしながら、私に軽く口づけた。




I'm sorry that it is not made saying the thing that says by me.
(蔵の言いたい事の少しも、皆に伝える事ができなくてごめんね)






(10.11.4)