今日の俺は機嫌がめっちゃ良い感じや。










「すごい人ごみだったねー!」

「せやな。ちょっと疲れてもうたわ」



そう言いながら自宅の玄関のドアを引き、に「入り」と促す俺。
カランコロンと下駄の音を響かせながらは「おじゃまします」と 俺の家に入った。


今、彼女のは浴衣を着ている。

なぜならば俺達はさっきまで近所の花火大会に出かけとったからや。


今日は夕方まで部活があってんけど、そこから急いで準備して 俺とは浴衣に着替えて花火大会へと繰り出した。



の浴衣姿とアップした髪型と少しだけ香るシャンプーの香り。

部活中はくっつけんかった分、手を繋いで。

人ごみではぐれんように いつもよりぎゅうっと手を握って。


2人で夜店を満喫して夜空に大きく打ちあがる花火を見つめた。
の浴衣姿には正直グッとくるもんがあって、 「可愛いで」とはいつも通り言えたんやけど、ホンマ言葉にならんくらい 俺はドキドキしとった。一応俺も浴衣を着てたけど、 やっぱり女の子の浴衣姿のインパクトには敵わんよな。

花火が終了し、「俺らも帰ろか」となったときには既にめちゃくちゃ凄い人ごみで、 帰り道は大変やった。せやけど、今なんとかウチに到着や。




、俺の部屋に上がっといて。絆創膏持ってあがるから」

「うん!」



を家に上げると、の声に気がついたのかオカンと友香里が リビングから顔をのぞかせた。そして「ちゃんや!」「ちゃんいらっしゃい!浴衣可愛いなぁ。 やっぱ女の子が着ると全然ちゃうわ」「花火ウチからも見えたで!」と自由にも程があるくらい話しかけた。

ちょ、自分ら!と思うたけど、純粋に彼女を褒められるのは嬉しかったし 何より俺の家族とが仲良しなんがちょっと嬉しかったから何も言わんかった。

は2人に向かって「すみません、遅くにお邪魔して」と言った。
2人は「スイカ食べる!?」と呑気にを誘った。



「母さん・友香里!、下駄の鼻緒で靴ずれしてんねんから、 あんま歩かせんといて」

「え!大丈夫なん!?ちゃん!」

「うん!大丈夫!ちょっと痛いんだけどね」

「俺の部屋で手当てすることにしたから」



俺はに部屋に上がれと促した。
するとはオカンと妹に会釈して2階へと上がって行った。

俺はリビングにある救急箱から絆創膏を取りだして、2階へ持って上がろうとした。 するとオカンが「ちゃんはホンマ礼儀正しくて可愛いわぁ」「ちゃんに可愛いなぁって伝えといてな」と言った。 「後で一緒にスイカ食べよーやって言うとって!クーちゃん!」と友香里も嬉しそうに言った。






我が家を支配していると言っても過言ではないあの2人のいるリビングを抜け、 自分の部屋に入るとが俺のベッドの脇に座っていた。

浴衣、座りにくそうやな。




「お待たせ。なら足出してくれるか」

「はーい!」



はベッドの脇に座ったまま両手をベッドについて、足を俺の方にピンと伸ばした。 足の親指と人差し指の間には痛々しい水膨れと赤い痕。見るからに・・・これは 痛いヤツや。



「傷む?」

「ちょっとね。でも、ちょっと慣れてきちゃった」

「そっか。」



女子って大変なんやな。
だけじゃなくてウチの女衆がよくパンプスやミュールを履いてるのを見るけど、 皆かかとや足の指に靴ずれの痕とかつけてるもんな。 「慣れたら痛くないねんで」とは言うてたけど、それでもやっぱりケガしてまで オシャレをしたいっていう女の人の気持ちは・・・凄いわ。

俺はの傷を痛めないように慎重に手当てを施し始めた。



「はー!なんか人ごみから解放されて、一気に疲れちゃった!」



そう言うとはベッドに倒れ込んだ。
腰は座ったまま、上半身を仰向けにした状態や。



、浴衣にシワつくで」

「大丈夫、平気!」



さっきまで色っぽいと思うてたのに、子どものようにベッドに転がるを見たら 可愛い、としか思えなくなる。なんやねんこの可愛い生き物!



動かんといて。水膨れ割れそうになるやん!静かに消毒させて」

「保健委員の白石くん、さすがです」



俺はおてんばなを可愛いと思いつつも、手当てに専念したかったために そう言った。動くを抑えようと足を軽く引っ張った、その時やった。


ハラリ、と浴衣の裾からの生足が露出した。

ちょ!!!!なっ、ちょっ、これアカンて!


肌蹴た、とでも言うんやろか・・・!!

の白くてきれいな足が丁度太腿辺りまで露出されとる・・・!!!



え・・・・・・・




「ん?蔵??」




エロい!!!(これはアカン!!)(刺激強すぎや!)


ただでさえ浴衣姿にグッときてんのに、生足はアカンわ!
俺は即座に肌蹴た浴衣を元に戻した。おお、女の子の足は露出するもんとちゃう・・・!
今の光景は見んかったことにして、俺はゴホンと咳払いをし 消毒に専念することにした。

せや、こんなんで乱されるほど俺の理性はヤワやないで。




「何でもない。ちょっとめくれただけや」

「そっか☆」

「それより、帯がつぶれるし起き上がった方がええって絶対」

「はっ!そういえばそうだよね!つい歩き疲れて寝転がっちゃったよ」



おとなしく座ってくれたら俺も生足なんか見ずに手当てできたのに。
まぁ見て嬉しくないわけないけど、でもホンマやばいであれは。

しかし、次の瞬間はとんでもないことを言った。



「・・・・あ。」

「ん?どないしてん、

「・・・・・・・ごめん蔵。あの、起き上がれない・・・かも・・・」

「は、はぁ?どういう事やねん」

「ごめん・・・!!!帯と髪の毛がふとんか何かと引っかかっちゃって動けない・・・!」




なっ、なんでやねん!!!!




「ったく、しょうがないやっちゃな」

「ごめん!蔵、起こすの手伝って」

「はいはい」



・・・・ん?でも待ってや。

起こすの手伝えって・・・、ちょっと待って!?




「・・・ん?蔵?」




これは・・・の髪の毛と引っかかった部分を外すために


俺が覆いかぶさらなアカン体勢やん!?


俺は冷静になっての今の状態を見た。
ベッドに仰向けに、しかも身動きが取れないうえに、足がまた少しだけ肌蹴て 太腿がチラチラ見える。長時間浴衣を着ていたせいか襟元も崩れ始めてるし、 なんていうか・・・これは・・・エロい・・・!!!(何言うてんねん、俺!)


アカン、これはアカンわ。

俺の中の変な感情が渦巻き始める。


アカンアカン・・・!抑えろ俺・・・!!



「・・・、じっとしといて」



普段の俺なら理性なんかと闘わなくても我慢できる。
せやけど今のの格好が本当に色っぽくて、男の俺にとっては 非常に辛い状況やった。

自分を抑えながら、なるべくの目を見ないようにして 俺はベッドをギシッと言わせての上に乗った。
そして浴衣をなるべく見んようにして、の髪の毛が絡まっている 箇所に手を伸ばし片手でほつれを直した。



「とれた?」

「あ、ああ・・・多分な・・・」

「ありがとう!はー、蔵がいなかったらずっとこのままだったね*」



無邪気にあははと笑う。俺はこの時パチッとの目を見てしまった。

下から見上げられるの目、鎖骨がチラリと見える襟元。

そして今の体勢。


・・・・・・・・もう無理や!!






「ん?」



俺はの顔の横に手をついたままに少しだけ顔を近づけた。
は「なななな!顔近い!」と恥ずかしそうにしていた。



「無理。浴衣、可愛いねんけどそれ以上にが可愛すぎるわ!」

「え、えええー!?」

「めっちゃ色っぽい」

「・・・!」



するとはにこっと笑ってくれて、「色っぽいの?」とくすくす笑った。
俺がの目をずっと見つめていると、も何となく分かってくれたのか、 それとも俺同様この浴衣の雰囲気にテンションがあがっているのか、 あんまり嫌そうな顔はしてなかった。



「蔵も浴衣、すっごく色っぽいよ」

「ホンマ?」

「・・・花火見に行く前から思ってた。かっこよすぎて直視できないもん!」



言った後に恥ずかしがる。アカン、ほんま可愛い・・・!
俺は我慢できんくなってそんなの唇にキスを落とした。




「・・・・・・・・・脱がしても、ええ?」

「・・・・・・うん」




うん、と答えるは少しだけ伏せ目がちにハニかんでいて、めっっっっちゃ可愛かった。 そんなに俺はめっちゃニヤニヤしそうになって、 口元に手を当て横に視線を逸らした。

あーもう我慢でけへん!


俺はの浴衣を脱がそうとした。けど・・・あれ?

俺の手の動きがピタリと止まった。




「・・・蔵?」

「・・・・・・・・、あんな」

「ん?」



「・・・・・・・・・・・脱がし方が分からんのやけど」

「!!!」




アカン。俺としたことが・・・!!!
はそんな俺の発言にプッと噴き出して、大爆笑した。




「ぷっ、あははははは!ははっ、あーお腹痛い!」

「〜〜〜〜〜!」

「あははっ!蔵ごめん・・・!今の凄く可愛かった」




日本の服装やっちゅーのに、最悪や!
(男と違うて女ってめっちゃ帯してるやん!?)(どっからほどけばええねん!?)

さっきはのほつれをほどいた俺やけど、 こればかりはほどけんかった。せやから 次はちゃんと浴衣の脱がし方も勉強しとかなアカンな・・・。







(どっからほどいて行けばええんやろな・・・) (まずはこの大きな帯をハズさなくちゃいけないんじゃないかな・・・??) (こう?)(あっ取れた!)(取ったのはええけど、大きい帯の下に めっちゃまだ帯があんねんけど・・・!) (えー!これかな?え、ちょっと待って、こっち?) (こう来てこうやって・・・あっ取れた!)(まだあるね、帯) (昔の人はその気になってからが大変やったんやな・・・!)




白石くんの浴衣姿は絶対かっこいいと思います。(10.8.15)