今日の私はどうもおかしい。


蔵に抱きついて蔵に甘い言葉をかけてもらいたくて、蔵に甘えたくてしょうがない!









厳密にいうと今日だけじゃない。
なんだか最近無性に蔵に甘えたくてしょうがないんだよね・・・!

蔵とは別に遠距離恋愛をしてるわけでもなく、(むしろ席近いし)
毎日部活でも教室でも一緒だし、逆に蔵に会わない日がない日がないんだけど


それでもなんでかなぁ。もっと会いたい!とかくっついていたいとか思っちゃう。



今までは違う。
例えば蔵が私に抱きついてきたとしたら、私は「やめてってば」って 蔵を拒否してた。(内心嬉しいけど恥ずかしいじゃない!) だけど今の私に蔵がそんなことをしたら、確実に抱きしめ返すし 「もっと」って求めちゃうと思う。

どうしたの、私・・・。




自分でいうのも何だけど、蔵は結構私に惚れているみたいで、 常に愛してくれてるんだなって伝わるし、私もそんな蔵に乗るのが好き。


でもね。



なーんか蔵、私をもとめてない気がするんだよね・・・。


もしかしたら、それもあって私の「抱きしめて欲しい」欲求が出ているのかもしれない。 とにかく最近の蔵はおとなしい。前は毎日のようにしてたさよならのキスも、 誰もいない部室でのキスも、もっというと2人で遊んだときにするあんな事やこんな事も、 最近ご無沙汰だ。

うーん・・・。そういえば最近キスしたのって・・・・・

・・・・・2週間前?


蔵が私に話しかけてくれるのは依然となんら変わりはないし、大切にしてくれるのも 分かるけど前ほどベタベタしてくれないっていうか・・・。 そりゃ嫌がってたけど本気で嫌なわけじゃないし、もっとして欲しいんだけどなぁ。 蔵もそれが分かってるハズなのに。

蔵どうしちゃったんだろう。
私が物足りないだけ??




「ねぇ小春くん、どう思う?」

「そうねぇー」




この事を一応、理解者である小春くんに相談してみた。




「蔵、最近何か言ってない?私の事飽きちゃったとか」

「そんなん言うわけないやん!むしろ毎日楽しそうやけどな」

「そう???」

「特に蔵リンは何も言うてないで。まっ、蔵リンは心に秘めるタイプやし、 もしかしたら何か思うてんのかもしれへんけど・・・でもちゃんの事を 飽きちゃうような男ちゃうし」

「そっかぁ・・・。じゃあ私が欲求不満なのかな・・・」




な、なんか恥ずかしいねこういうの!
がっついてるみたいで!(いや、がっついてるんだけどさっ!)




「蔵リンからのお誘いじゃ物足りなくなってきちゃったのかしら♪」

「そ、そうなの・・・かな・・・」

「ウフッ!ちゃんもついに次のステップに上がる時が来たわね」

「次のステップ!?何それ!?」


「ズバリ!! 蔵リンを襲っちゃえばいいのよ!!」




ちょっ・・・・ええええええええ!?(今なんて!?)




「おおおおおおお、おそっ襲うって・・・!!!?」

「物足りないなら自分から行けばええやーん☆」

「そんなこと恥ずかしくてできるわけないじゃない!」

「そんなことないわよ〜☆☆蔵リンだって喜ぶに決まってるって」




蔵を襲う!?無理無理無理無理!!!

あんな綺麗な顔した男子を襲うなんて犯罪してるみたいで嫌だよ!
それに蔵、積極的な子苦手って言ってるのに!



「でも積極的な女は苦手って言ってたし!」



肉食女子、なんていうつもりはないけど・・・
これは蔵が引くレベルの行動じゃない!?



「それは他人やからやって!彼女がそんなんしてきて、乗らん男はおらんで」

「そうかなぁ・・・!蔵よろこぶ?」

「喜ぶどころか、しばらく機嫌良ぅなるで」

「そうなの!?」

「ふふっ、ついにちゃんもステップアップするときが来たのよ!」

「ステップアップ・・・」

「アタシの言う事が信じれんなら他の子の意見聞けばええやん!」

「え?」

「あらっ♪ちょうどええとこに! 光ぅーーー!!!ちょっとこっち来なさーい!」



小春くんは、けだるそうに歩いていた財前くんを捕まえた。



「・・・なんスか」

「光、もしアンタに彼女がいたとして」

「いたとして?」

「彼女が迫ってきたらどう思う!?」

「・・・・・」



財前くんはしばらく話を飲みこむのに時間がかかったみたい。 だけどすぐに「あー・・・」と考え始めて、そしてニヤリと笑った後に口を開いてくれた。



「それは嬉しいに決まってますわぁ」

「ほらねっ♪」

「そうなんだ・・・」

「へー。先輩、白石部長を襲う計画でも立ててんスか」

「なっ何よそのニヤけ顔・・・!」

「仮に俺が部長の立場だったら嬉しいっスね。 迫ってくる彼女を逆に攻める、みたいな」



ざっ・・・財前くん結構Sだね・・・!!!



「誘われたら乗るでしょ」

「そ、そうなの?」

先輩も白石部長に迫られたらそのあとは乗りますよね?同じようなモンっすよ」



・・・なんか「うん」って答えるのも恥ずかしいよ。



先輩って意外とエロいんっすね」

「ちょっ・・・!!違うってば!何言ってんの!!」

「照れちゃって可愛いっスねー」



財前くんは凄く意地悪そうにニヤッて笑ってからかってくる。
その後ろで小春くんが「光カワイイ!」って財前くんに抱きつこうとしてるけど、 財前くんはそちらを向かずに、小春くんを近づけないよう手で押さえていた。



「いや、あの2人とも誤解してると思うけど、私はそこまで肉食になるつもりはないから!」

「そうなん?」

「なんていうのかな、蔵に頭撫でられるだけでもいいっていうか・・・」



別にエッチがしたいとかそういう事じゃない。
小さな事でいいから、蔵に構ってもらいたい。それだけなの。



「えー。つまらんわぁ、先輩」

「つ、つまんないとかないから!こういうのに!」

「ほな今から蔵リンに言うたればええんよ」

「な、なんて?」

「"蔵、抱きしめて!"みたいな」

「いやー!無理無理!!!自分から言えないよ!てか部活中だし!」

「ほな、もう直接抱きついたらどうっスか?」

「もっと無理!!!」



そもそも私と蔵がラブラブしたりイチャイチャするのは、学校では有り得ない。
そりゃカップルっぽい会話はするよ。
傍からみれば「イチャこいてんな」って思うかもしれない。
だけど、学校(皆がいるとこ)で密着するとか抱きつくとかそういう事は蔵はしない。

ましてや部活中に抱きつくとか有り得ない。
蔵はなんだかんだでまじめくんだから、部活中に私情を持ち込みたくない性格だし。


私もそんな蔵が大好きだから、部活中っていうのはちょっと・・・



「でも!2人に聞いて良かった!今日蔵の家に遊びに行けるように ちょっとお願いしてみるから、その時にちょっと甘えた事言ってみるね」

「今言えばええのに」

「今は言わないってば!部活中だから!」



と、私たちが盛り上がっていたそのときだった。




急に後ろからバコ、バコ、バコと頭をチョップされてしまった。
小春くんと財前くんと後ろを振り返るとそこには。



「コラ!自分らもう部活は始まっとるで」

「くっ・・・蔵・・・!!」



噂の渦中の人物、蔵がいた。
相変わらず今日もかっこよろしいことで・・・!!!



「今週は青学と試合なんやからちゃんと練習しとかなアカンで」



蔵はそう言うと、かかとを返してあっちに行ってしまった。
あちゃー・・・。蔵に構ってもらえるどころか怒られちゃったよ・・・!



(先輩、今っスよ)

(は?だから今は言わないって!ていうか今怒られたじゃん!!このタイミングで!?)

(グダグダ言わんと行けや、先輩!)



「きゃあっ!!!!」




財前くんはそう言うと私のことを、蔵の方へと思いっきり押した。
すると私は当たり前だけど蔵にぶつかりそうになり、咄嗟の反応で 後ろから蔵に抱きついてしまった。



「!!」



私が後ろから蔵の腰に抱きついていて、蔵はそのまま足を止めていて。



「あ、ご、ごめん蔵・・・!!」

「大丈夫?

「だだだっ大丈夫!!!」



大丈夫?とこちらを振り返ってこっちを見てくれた蔵の視線が凄くかっこよくて、

ちゃっかり蔵のお腹の方に回した私の手を、蔵はきゅっと包んでてくれてて、

後ろから抱きつくと分かる蔵の腰の細さだとか、蔵の匂いだとか、

さっきまで怒ってた(?)のに、ちゃんと私のことを心配してくれるとことか、



ほんのちょっとの彼の視線と行動で、私の心はキュンとしてしまった。


蔵に抱きつかれて「はずかしいよ!」と彼を拒絶していた頃の自分が恨めしい。 今は、こんなにちょっとの事で幸せなのに。 私は蔵に「甘えたい」という気持ちを込めて蔵の方を見た。だけど 部活中だしいつまでもくっついてるワケにもいかないから、「ごめんねっ」と手を離した。



「くっ、蔵いなかったらこけるとこだった。ありがとう!」

「あ、ああ・・・」

「私今から皆のドリンク作らなくちゃ!!!じゃあいってきます!」




私は恥ずかしさと蔵にキュンキュン出来た事の嬉しさで、蔵から逃げるように コートから走り去った。
あーもう!蔵に久しぶりに触れて幸せ!

不意に、自分が蔵に片思いをしている頃を思い出した。


そっか、そういえば前はこんな小さな事でキュンキュンしてたなぁ。



それに、あの頃は自分からそんなキュンを感じたくて、蔵にいろいろ仕掛けてた。 教科書を貸してほしい、だとか・・・蔵に触ってみたいがゆえに 「蔵、まつげにゴミついてる」とか言って嘘ついたこともあった。

ああ、そっか。


やっぱり、付き合う前も付き合ってからも、相手を求める事って大事なんだ。



今日の帰り、「手繋ごう」って言ってみようかな!



(手、包まれちゃったよ!)(蔵の手のあったかさと感触が消えない!)






(あれ?白石なんか顔赤いで)(うるさい謙也、なんでもないわ・・・っ) (お前最近青学との試合のことで悩んどったから、久しぶりにそんな顔見たわ。 なんかええ事あったん?)(・・・・・ちょっとな)



(10.11.1)