好きなタイプの子は、「シャンプーの匂いがする子」。


いろんな人に女の子のタイプを聞かれてきたけど、大体の回答はこうや。
でもな、それだけなワケやないで?
いくら髪がええ匂いしてはっても性格悪かったら嫌やし。

あくまでこれはグッとくるポイントなだけ。


例えば、抱きしめた時とかふとした瞬間にシャンプーの匂いがするとグッときてまうな。 香水の匂いよりもアロマの匂いが好き。でもアロマよりもシャンプーの匂いが好き。
なんていえばいいんか分からんけど、香水は人工的な匂いであんま好きやない。
シャンプーって自然な匂いやん。その人を表しとる感じがして好きや。



これはそんなシャンプーの匂いに翻弄される、俺の話。








俺はその日、部室で着替えてる途中やった。
他の連中はもう着替え終わって先にコートで騒いどるみたいや。

ああ、俺も早よ着替えてボール打ちたい。
そんな事を考えながら俺は制服のシャツを脱いでいた。


するとちょうどその時、背中を向けていた部室のドアが開く音がした。
「誰か来たな」と思いつつも俺はドアの方を見なかった。

けど。



(・・・・・・・ん!?)




ドアを開けたと同時に外で吹いていた風が、入室者と一緒に入ってきたんやろんか。
風に乗って凄く好きな匂いがふわりと鼻を掠めた。
・・・これはシャンプーの匂いに違いない。

しかもこのシャンプーの匂いは・・・・・・・・


間違いない、のシャンプーの匂い!


彼女のが来てくれたと思いこんだ俺は、「、来るん遅いわ!」と冗談交じりに振り返った。 いつもなら「ごめんごめん!」と笑ってくれるハズ。

しかし、次の瞬間俺は目を疑った。





「・・・・・白石・・・目、大丈夫か?」

「!!謙也!?」




振り返ってそこにいた人物をよく見ると(いや、よく見なくても)どこからどう見ても 忍足謙也の姿だった。うわ、俺かと思うて今絶対顔緩めとったわ・・・! 自分でも最近分かるし、に向ける顔と他の奴らに向ける顔がちゃうって。

って、今はそんな事言うとるんとちゃう!


謙也は既にジャージに着替えていて、ひと汗かいていた。

着替える手を止めてただただ驚く俺とそれを不思議そうに見ている謙也。
謙也は俺の顔を「どないしてんコイツ」という目で見ている。
俺自身が一番ビビっとるわ。どないしてん、俺。




「白石、最近暑い日続いて疲れとるんやな」

「・・・今のは忘れてや」

「俺がに見えるようになるって・・・相当やで」

「・・・。」



・・・いや、俺がの匂いを間違えるはずがない。
かといってこの匂いが違うハズもない。
俺は何も言わず謙也のジャージの襟を引っ張って、自分の方に引っ張った。 そして謙也の髪の匂いを確かめた。



「っな!おい!白石お前何しとんねん!?俺はちゃう!!」

「じっとしてや、謙也。」



ひと汗かいているせいか、余計に髪の匂いがふわりと香る。
・・・間違いない。これは絶対と同じシャンプー使うとる!!!



「・・・謙也」

「なっ、なんやねん・・・!!(今日の白石なんか気持ち悪い・・・)」

「お前、○○のシャンプー使うとるやろ・・・」

「!?」



謙也は目を丸くする。



「何で知ってんねん!?せやねん、昨日自分のシャンプーなくなってもうて、 オカンのシャンプー使うたんや・・・!」

「なるほど、そういう事な」

「いやっ、でも何で分かるんや白石!」

「・・・そのシャンプー、の使うとるシャンプーと同じやねん」

「え?」

「せやから!!その匂い、の匂いや言うてんねん」

「そうなん!?全然知らんかったわ・・・。・・・って、お前俺に その匂いやめろとか言わへんよなぁ?言っとくけどそれは無理やで。 今日はもうしゃあない」

「せやな・・・。」

(そのつもりやったんかい)



・・・の匂いが謙也の匂いと一緒やて?

なんかよぅ分からんけどめっちゃイライラしてくんのは何でやろ?


たとえ謙也がこの匂いを「今日一日限り」で香らせていても気に食わん。
なんか、謙也が昨日の家に泊まったみたいで嫌や。
シャンプーの匂いに敏感な俺の鼻が、脳にそうシグナルを送る。




「なるほど。せやから今さっきと俺を間違えたんやな?」

「そうやな」

「・・・お前なんか機嫌悪ない?」

「別に」

(うっわー・・・絶対怒っとるでコレ・・・)




腹が立つことに、時間が経つにつれ謙也が動くたびにいちいちシャンプーの匂いが漂う。 まるですぐそこにがいるみたいな感じや。アカン、めっちゃ腹立つ。


すると、その時やった。




「ごめーん、入るよー!」

「!」



ちょうどが部室に入ってきた。
も謙也同様既に先に到着していてコートでテニスをして遊んでいるらしい。
片手にはラケット持ってるし、そうやな。

そしてこれもまた謙也同様、汗をかいたことによっていつも以上にシャンプーの香りが ふわっと香る。



「お、やん」

、もう来てたんか」

「あれっ、蔵着替え中だったの!?ごめんね!」

「いや、ええよ」

「部活前だっていうのに、久しぶりにテニスしたら汗かきまくっちゃった! タオルはっと・・・」

「・・・・・なるほど確かにそうやな。今日の俺の髪と同じ匂いがする」

「?何言ってんの?謙也」

「別に何でもない。ほな、俺先コート戻るから!は白石と一緒にコート来ればええわ!」

「???」

「お先っ」



謙也はそう言い残すと、部室から出て行った。
腹の立つことに去り際にふわっとあのシャンプーの香りがまた鼻を掠める。



「謙也ほんと意味わかんない。まぁいっか」

「・・・。」

「・・・蔵?」



多分今の俺の顔は凄く不機嫌な顔をしとんやろな。
が様子を窺うような顔を見せる。

ちゃうねん、は悪ないのに。ただ俺が勝手に嫉妬をしてるだけで。



「・・・

「え?ひゃっ!」



俺はをぎゅっと抱きしめた。は突然の俺の行動に戸惑いを隠せない。
「今私汗かきまくってるから汚いってば!聞いてる!?蔵!」と言いながら 俺を遠ざけようとする。

・・・ん。やっぱこれやこの匂い。

落ち着くっていうか、この匂いがふわっと香るとがおるんやなって安心する。
この匂い=だからこそ、俺はこのシャンプーの香りが好き。





「なななっ、どうしたの急に・・・」

「今日と謙也のシャンプーの匂いが同じやねん」

「そうなの?」

「・・・なんか2人が見えんモンで繋がっとるみたいでめっちゃ嫌やねんけど、 どうすればええ?俺」

「謙也と・・・?ていうか、え、どうすればって・・・」

「昨日の家に謙也が泊った、みたいに思ってしまうんやけど」



最近ダメやな。姿形あるもの以外にも俺は嫉妬をしてしまう。
少しの事でも誰かとの繋がりがあれば気になってしまう。

は俺のモンや」って勝手に口が言うてしまうし、勝手に体が求めとる。


俺が抱きしめたまま黙っているとが俺の背中をぽんぽん、とつつく。
俺は少しだけ体を離しての顔を見た。



「ああ!だからさっき謙也がシャンプーの話をしてたんだね」

「せやな」

「もー、そんなちっちゃい事で怒らないでよ蔵」



くすくす笑いながらは言う。
アホか。ちっちゃな事も気になるに決まってるやろ。

俺はどうしようもない完璧主義者やから

の事を完璧に独占したいんや



「でも匂いまではどうにもなんないよ」

「・・・分かっとるって。それ謙也にも言われた」

「あははっ!じゃあこんなのはどう?」

「え?」

「・・・今日私が蔵の家に泊るっていうのはどう?」

「!!」

「私が蔵と同じシャンプー使えば、蔵とおそろいだよね」

「・・・・・・・!」




アカン。何この子、ほんま可愛いんやけど。

そんな事言われるとは思わんかったから顔が緩むやん・・・!




「アホ。そんなん言うたらどないなってもしらんで」

「嫌ならいいよ」

「え・・・!いやっ、がいいなら・・・俺は全然ええけど」

「じゃあ決まりだね*」

「〜〜〜!」

「帰宅したらすぐ準備して蔵の家行くね!」





この後の部活で、やたらと機嫌の良い俺がいたのは言うまでもなかった。


匂いも体もその笑顔も。
今日は一段とを独占できる気分になりそうや。







(10.7.4)