「なぁ白石ぃ…。」


部活が終わって皆でコート整備や片付けをしよる時、 なんだかしょんぼりした金ちゃんが俺のトコにやってきた。 見るからに元気がなさそうや。

なんか前にも何回かあった気ぃするけど・・・。









「どないしてん金ちゃん。また悩んどんか?」



白石が金ちゃんの頭に手を乗せて、しゃがみこむ。
金ちゃんは何か言いたそうな顔をして下を俯いていた。

練習が終わったとはいえまだ今は部活中。 ただならぬ金ちゃんの様子に白石は今すぐ相談に乗ってあげたい気持ちになったが、 部活がまだ完全に終了していないためグッと堪えた。



「・・・わかった。金ちゃん、おやつ食べるときになったら聞いたるわ。 せやから今は片付け頑張ろか。な?」

「白石ぃ・・・」

「金ちゃんは片付けできるやろ??いっつも綺麗にしてくれるやん」

「わかった・・・。ならワイ、頑張る」

「ええ子や、金ちゃん」



ずーん・・・という効果音が聞こえてきそうな金ちゃんの雰囲気に、 謙也・ユウジ・小春の3人も気がついていた。 白石と金ちゃんから少し離れたところで、3人は顔を見合わせていた。



「なんや、また金太郎さん悩んでんのかいな」

「そろそろ白石も逃げられへんやろ・・・。金ちゃんもあれで男の子やしな、 年頃やしすぐに恋してるって気づくで」







片付けが終わり、時刻は18:30頃。

いつものように部室で制服に着替え終わった一同。 四天宝寺はいつだってテンションが高く、練習後も賑やかだ。 部室内では常に話題に困る事がなく、笑いも絶えない。

今日も着替えながらモノマネをして皆を笑わせるユウジに、 皆が爆笑していた。いつもこのフザけるメンバーは決まっている。 ユウジ・小春・謙也の3人である。これに財前が冷たい突っ込みを入れ、 金ちゃんが大笑いして「もっとやってやぁ!」とユウジに催促するのが定番である。
(ちなみに白石ら他のメンバーは、耳で聞いているし笑うが基本絡まない)


しかし、今日は違った。



「アハハハ!!!見てみぃ金ちゃん!ユウジが校長のマネしよるでぇ!」

「・・・・・・。」



金ちゃんの好きな、ユウジの「学校の先生モノマネシリーズ」。
白石が毒手を見せると金ちゃんが言う事を聞くのと同じく、 ユウジがこれをすれば金ちゃんは絶対に笑う。

今も謙也がユウジを指差して金ちゃんに注目するように促すが、 金ちゃんは元気なさそうに淡々と制服のシャツのボタンを閉めていた。



(・・・ちょっ、いつになくヤバない!?)

(アカン、金ちゃんほんまに悩んどるんか・・・??)



「・・・ほなワイ・・・帰るわぁ・・・。皆、また明日なぁ」

「ああっ!ちょっと金太郎さん!?」



金ちゃんはしょんぼりしたまま、カバンを持ち部室から出て行った。



「・・・遠山、なんかあったんスか?」

「どうやらそうみたいやな。ちょっと俺行ってくるわ」



白石が急いで部室から出て行った。そしてトボトボと帰っていく 金ちゃんを見つけ走って追いかける。



「おーい、金ちゃん!何先帰ってんねん」

「・・・・」

「まだおやつも食べてないやん。ほら、早よ戻って皆でおやつ食べようや」

「・・・・・でもワイ、お腹すいてへん」



あの金ちゃんからそんな言葉が出るとは思わなかった白石は目を丸くした。
これはどうやら白石が考えている以上に深刻な問題らしい。
白石はとりあえず金ちゃんの肩を抱きながら、 「話は向こうで聞いたるから、あっち戻ろか」と優しく言った。




白石と金ちゃんが戻ると、部室の外では皆がすでにおやつを食べている状態だった。



「おっ、見てみ金ちゃん。今日のおやつは金ちゃんの大好きなたこ焼きや!」

「うん・・・」



白石は自分の分と金ちゃんの分のたこ焼きを部員から受け取ると、 その辺に座った。すると金ちゃんの様子を心配していた、 謙也・ユウジ・小春の3人が近くに移動してきて座った。



「なんや金太郎さん!まーた悩んでんのか!」
「金ちゃんテンション低いな、どないしたんや!」
「たこ焼きめっちゃウマイで!?ほらっ食べようや♪」

「・・・・ワイ、今たこ焼きいらへん」



!!!???

まさかの一言に白石同様、3人も驚きの色を隠せない。



「金ちゃん、どないしてん?話してみ」

「・・・・・白石ぃ、あんな、ワイな・・・」


(あれ・・・。この光景前にも何度か見たことあるで、俺)
(奇遇やな謙也。俺もや)
(いやん♪アタシも)



3人は顔を見合わせた。しかし白石は真剣な顔で金ちゃんの話を聞いている。



「ん。ちゃんと聞いてるで。金ちゃんがどないしたん?」

「ワイ・・・最近な、の事見ると胸がいっぱいになって、 何も食べたくないねん・・・!!!」

「!」

「大好物の食い倒れ丼食うてもな、半分以上残してまうねん! の事考えたら何も食べたなくなる! なぁ白石、これ病気やんな!?」


(金太郎さーん!!!)

(金ちゃーーーん!!!!それ100%恋してるやーーーん!!

(せやから、それ一番言うたらアカン相手やって!!)




3人が相変わらずのツッコミを入れる中、白石は冷静だった。
金ちゃんの背中をさすりながら話を聞いている。



「前にな、白石がたこ焼き食べたら治るっていうてたやん?? せやからワイ、たこ焼きめっちゃ食べてん。でも今は 気持ち悪くて食べる気にならへん・・・・・。なぁ白石、ワイどうしよう! ワイ、このまま死んでしまうんか!?」

「落ち着き、金ちゃん」

「白石ぃ、ワイ死にとぅない!!」



金ちゃんはどうやら、の事を見ると胸がいっぱいになって 食欲がなくなるようだ。3人は思った。今回ばかりはたこ焼き万能説も崩れたな、と。 今回ばかりは白石も金ちゃんに真実を教えてあげなくてはならないだろう。

どうするんや白石?という視線を、3人は送った。




「大丈夫や金ちゃん。金ちゃんは死なへんよ」

「ホンマか!?・・・でもワイ、たこ焼きもいらんくらい胸いっぱいで・・・」

「大丈夫。それなら特別にいい方法教えたるから」

「「「「いい方法???」」」」



白石はにこっと笑ってそう言った。一体「いい方法」とは何だろうか?



「え・・・何なん!?白石!そのいい方法って!」

「それは簡単な事や」

「え・・・」





「・・・金ちゃんが、の事を見ぃひんかったらええ話や」





(((ちょっ・・・!!!)))

白石!!??お前なんつー事を・・・!!!)

(反則すぎるやろ蔵リン!!)



あまりに汚い答え方だったため、3人は思わず声を大きくして突っ込みそうになった。
しかし、金ちゃんが少し慌てて言葉を発した。



「そっそれはムリや!白石!」

「ははっ、なんで?」

「だってワイ、もう自然との事目で追いかけてまうし、 の事大好きやし、おらんと嫌やし、とにかくムリや!!」

(金ちゃん頑張れ!!)

「でも金ちゃん、見てるとおいしいモン食べれへんで?」

「・・・っそれでもワイは、と喋りたい!」

「!」

「なぁ、白石もの事大好きなんやろ!?」

「せやな。この中の誰よりもの事、大好きやな」

「ならなんで白石はの事見とってもお腹いっぱいにならへんのん!?」

「・・・う」




金ちゃんの純粋なゆえの、痛い突きに白石もさすがに言葉を詰まらせた。
3人は「ええぞ金ちゃん!」と心の中で応援した。




の事を見とって、そんでもってご飯もおいしゅう食べれる方法を 白石は知ってるハズやろ!?」

「・・・・・せやな」

「ズルイで白石ぃ!!ワイにもその方法教えてや!」



今回ばかりはもう、白石の負けでいいのかもしれない。
「どうするんや白石・・・」と謙也が言うと、白石は少し困った様子で「参ったな」と呟いた。

しかし、その時だった。




「皆こんなとこで固まって楽しそうに何喋ってるの??」



」「ー!」「!?」「や!」「ちゃん!?」




の登場に、つい声を揃えての名前を呼ぶ5人。
途端に金ちゃんが余所余所しい素振りを見せる。



「金ちゃんがたこ焼きのおかわりコールしないからビックリして来ちゃった。 金ちゃん今日元気ないけどどしたの??」

「・・・えっとな、そのー・・・ワイ・・・」

「今日は金ちゃんの大好きなたこ焼きだよ?おいしくない?」

「そっそんな事あらへん!!」

「あれ??1つも食べてないじゃん!金ちゃんどしたの!?」

「それはなっ・・・」



が原因で食べれないといいわけ出来ない金ちゃん。
は自分の分のたこ焼きを食べながら、首を傾げる。



「熱でもあるのかなぁ??」



が金ちゃんのおでこにおでこを当てた。
その瞬間、白石除く3人は「げっっっ!!!」と声にならない声をあげた。

コツン、とのおでこと接触した瞬間金ちゃんの顔が真っ赤になる。
白石のオーラがどす黒くなる。
謙也・ユウジ・小春の顔が、真っ青になる。
・・・みんなの顔が色とりどりだ。




、大丈夫。金ちゃんは熱とかじゃないから」

「あれ??そうなの??」



の事をベリッと無理矢理引き剥がす白石。
金ちゃんはおでこに手を当てながら何だかポーっとしている。



「ねぇ金ちゃん!今日のたこ焼き、おいしいって評判だよ☆1個だけでもいいから食べてみてよ」

「でも・・・ワイ・・・・・・」

「まずかったらペッてしていいから。ほら」

「〜〜〜っ」

「はい、アーン*」



アーン!?


が金ちゃんに向けて、爪楊枝に指したたこ焼きを向ける。
しかもその爪楊枝は先ほどまでが使っていたものであり、 たこ焼きものお皿のものである。

金ちゃんは、顔を赤くしながら口を開けた。

これはアカン!!と気づいた謙也・ユウジ・小春の3人は慌てた。



が、その時。




パクッ




「え・・・・・!!!!」

「ちょっ・・・・・・」

「なっ!?」


「ん、めっちゃおいしいで。金ちゃん」



なんと、の手首を強引に自分の方へと引っ張り、金ちゃんのために差し出された たこ焼きを白石が食べてしまったのだ。



お・・・



(((大人げねぇぇぇぇ!!!)))



3人は心の中で一斉に突っ込んだ。



いやいやいやいや!!!!

「白石!!!!お前何やってんねん!!!」

「ちょ!?蔵、何やってんの!?



思わずも突っ込んでしまった白石の行動。
しかし当の本人は涼しい顔をしていた。



「白石ぃ!!!今のワイのたこ焼きやんかぁ!!何で食うねん!」

「金ちゃんがいらん、言うてたからや」

「今ワイちょっと食べれる気分やったのに!!!白石のアホ!!」

「アホで結構」

「ちょっと蔵リンに金太郎さん、2人ともストップストップ!」

「白石!お前大人げなさすぎんで!」

「そっそうだよ!今のは蔵が悪い!」



全員()に責められ、拗ねた様子で視線を逸らす白石。
バイブルという名にはふさわしくない、白石らしくない振る舞いだった。



「ごめんね、金ちゃん!」

「・・・あれ?ワイ・・・」

「どしたの??」

「!!!!、ワイ段々お腹空いてきたかもしれへん!!」

「!」



そう言うと急に金ちゃんはパクパクと自分の分のたこ焼きを平らげた。



「んーっ!やっぱウマイでぇ、たこ焼き♪♪」

「良かった、金ちゃん治ったんだね」




どうやら、金ちゃんは強くの事を意識しなければ普通通りに接することが出来るようだ。 無論、強く意識させないためには白石の独占欲を金ちゃんに 見せ付けなければならないみたいだが・・・。




「よぅ分からんけど元気出てきたわ!おおきになっ、ー!」

「私は何もしてないよ」

「くーっ!!これでワイも白石みたいに、見れるしおいしいモンも食べれるで!!」

「へ・・・?私・・・?」

「よっしゃあ!!!ほなワイ、今から本物のたこ焼き屋さん行って 仰山食べたい気分やから、帰るわぁ!」

「えっちょっと金ちゃん!?」

「金太郎さん!?」




金ちゃんはもう一度「よっしゃー!」と叫ぶと、全開で 走って帰って行った。



「あーあ・・・。行ってしもた・・・」

「白石、お前今回ばかりは危なかったな」

「はは、何の事やら」

「・・・蔵、ダメだよ。金ちゃんの事いじめたら」

「何言うてんねん。いじめてへんよ。ただ」

「ただ?」

「人のモンに手ぇ出したらアカンことを教えただけやで」




(((やっぱ白石だけは敵に回したくないわぁ・・・・・)))



心の中で強く誓った3人なのだった。





アンケートにて、なぜか白石くんVS金ちゃんが人気を博していたので 調子に乗ってリクエストにお答えしてみました(10.4.3)