季節は夏間近。

来るべき夏に向けていろんな楽しいイベントに想像が膨らむ時期や。
俺も例外でなくテニス部の皆で「山に行こう!」「海に行こう!」と 様々なイベントを計画していた。



「なら今年は海に5票というわけで!!海に決定〜!!!」



俺はカブトムシのおる山が良かったんやけどなぁ・・・。
まぁ海に行ったら行ったで、の水着姿がちょっと楽しみやし (勿論他の奴らに見せるのは嫌やけど)ええかもな。



、海行くの楽しみやな」

「え?あっ、・・・うん!!楽しみ」

「???」



この時のの謎の間の意味を知るのは、もう少し後になる。





















それは皆で遊びに行く計画を立てた数週間後の事やった。



、おはよう!」

「ああ・・・!蔵、オハヨウ・・・!」

「???」



こんなにも空は青く、太陽が気持ちいい朝やというのに、 妙に青ざめた表情のがいた。



(調子悪いんやろか?)



この日朝練のときから、いや朝一で会うたときから一日はおかしかった。


「大丈夫なん?」って声をかけても「大丈夫大丈夫」と言う
でもその表情は明らかに大丈夫やない。
青白いっちゅーか、表情に元気がない。声にも張りがない。

終始気持ち悪そうにしとる。



が体調悪そうなんは明らかやし、あまり声をかけてもの負担になりそうやから 俺はあまりに話しかけんかった。とは言っても、 やっぱり心配やし常に近くにおるようにはしててんけどな。 は俺が家に送り届けるまでずっと調子悪そうにしとった。

別れ際には小さな声で「ごめんね蔵。ありがと・・・」と辛そうに笑う

出来るものなら代わってやりたい。




きっと今日の体調不良は、女子特有のなにかに違いない。
たまにはこんな日あるやろし俺は別段気にしてへんかった。

でもな。


例えばこれが1週間続いとったらどうやろか。

誰かて心配になるやろ??







「最近どないしてん、の奴。めっちゃテンション低ない?」

「あ、ユウジ先輩も思うてました?」



今日は土曜日。が調子悪そうにしてから10日くらい経ったんかな。

部活は午前で終わったから、今皆で着替えて帰ろうとしてるとこや。



「皆で海行く約束もしとんのに、なんや風邪かいな」

先輩、休めばええのに」

「アホか財前!が休んだら白石のテンションが低くなるやろ!」

「でも無理して毎日来るより一日休んで元気になった方がええんとちゃいます?」



俺以外の皆も、どうやらの事が心配らしい。
部活が始まる前皆で着替えながら話題はの事。 あそこまで露骨に体調不良が顔に出ていると誰だって心配するのは当たり前やけど。



「なぁ白石、お前何か知っとんか?」

「え?いや、それが俺も何も」

「白石も知らんのかいな!そら俺らも知らんっちゅー話やで」



別にが調子悪いからって部活に支障が出たワケやない。
いつも通りマネージャーとしての仕事はしてくれるし、 気配りも変わらない。ただ、顔に元気がないだけ。



「俺も財前クンみたくに休めって言うたんやけどなぁ・・・。 大丈夫の一点張りやねん。風邪ひいたわけじゃないから平気だってばって 言われてもうて。それ以上は何も言わんのや」

「風邪じゃないんか。」

「なら女子のアレっすかね」

「ブッ」

「何焦ってんスか謙也先輩」

「でもアレは1週間やろ?」

「あ、そうか」

「ならもうアレしかなくないか?」



え?何やねん。アレて・・・

俺はキョトンとした表情で発言者のユウジを見た。
今度は財前が「ああ」と納得した表情を浮かべ、謙也も 「まさか」と目を丸くする。え?なんやねん・・・



「・・・・・そのー・・・妊娠、とか」

「!!!!!」




「えっ、いや、まさかそれはないやろ〜!なっ白石!」

「え?ああ、まぁ・・・」

「ほら見てみ!ユウジ!!!白石がちゃうって言うとんで!!!変なこと言うな!」



謙也が妙に慌てて言う。なんかいつもより動揺しとるんかしらんけど、声がでかい。



「白石部長、最近ヤったんいつっすか」

「財前〜〜!!!!お前何聞いてんねん!!!白石はそんなことしません!」

「・・・先月かな」

「お前も普通に答えるな白石!ほんで生々しいな!」

「それや。それが原因や」

「いやでもいくらなんでも早すぎちゃう?そういうんってもうちょと経ってからやろ?」

「そうとは限らんと思いますけどね。 例えばずっと前にしとった時ちゃんと避妊できてなかったんかもしれんし」



さすがに100%の自信を持って否定できひんなぁ・・・。
俺は苦笑いをしながら「まぁこの話は此処だけの秘密にしとこうか」と言い、 「お先に」と部室から出た。

とりあえず今日もを家まで送ったるか・・・。
今日も青い顔してフラフラしとるもんな。 そう思い、が着替え終わるのを待つために俺はいつも待ち合わせている場所に向かった。


・・・妊娠、か・・・。

いやなんぼなんでもそれはないやろ・・・。(毎回ちゃんとしとる!俺は!)


でももし、そうだとしたら・・・・・・・・・・。





俺が一人うーんといろんな想像を巡らせていたその時やった。



ドサッ、という何かが落ちる音がした。
不意にそちらを振り向くとそこには。



「・・・・・っ」

!?」



こめかみの方に片手を当てて、その場に跪くの姿があった。
ドサッという音はの持っていたカバンが地面に落ちた音らしい。 俺はすぐさまに駆け寄った。



「ちょっ、!大丈夫か!?」

「あっ・・・蔵・・・。ごめん、なんてことないよ。ちょっと立ちくらみがしただけ」

「立てる?」

「・・・・・・ごめん、ちょっと無理・・・かも・・・」




これはどうやら思った以上に深刻な問題らしい。
さっきユウジと財前に言われた言葉も気になるし、此処はを大事に扱わなあかんよな・・・。 俺はのことを背中に、片腕にの分の荷物も持って保健室へと向かった。










「落ち着いた?

「・・・・・うん・・・・」



保健室の先生に温かいお茶をもらって、はやっと落ち着いたみたいや。 でもまだ顔色は悪いな。
俺は座ってうつむくの顔を覗き込みながら恐る恐る聞いてみた。



「そのー・・・。言いにくいかもしれんけど・・・。 最近どしたん?めっちゃ気分悪そうやけど」

「・・・うん」

「俺には言うとき??」

「やだ!絶対蔵、怒るし引くから」

「なっ・・・。そんなん言わんと分からんやん」

「怒るよ・・・。言いたくない」



頑なに理由を話すことを拒む
でも俺には話してほしい。だって心配やん!



、俺怒らんから。な?」

「・・・・・本当に?」

「ほんまほんま!何があっても大丈夫。受け入れるから」



俺が微笑みつつそう言うと、はやっと話す気になったようや。 やっと俺と目を合わせてくれた。



「・・・あのね」

「うん」



ドキドキしながら回答を待つ俺。



「・・・・・ただの夏バテなの」

「夏バテ!?」



に、妊娠じゃないんや・・・!(ちょっとホッとしたわ・・・!)
でも夏バテってどういうことやねん。



「ほら・・・先月の終わりぐらいに皆で海の話をしてたでしょ?」

「せやな」

「あれ聞いて、痩せなくちゃなぁと思いまして」

「・・・」

「そしてダメだとは思いつつもお昼ご飯サラダだけ、とか晩御飯抜く、とかしてたら 最近になって元気が出なくなっちゃって・・・」

「なるほどな」

「これはまずい!ダイエット中止しなくちゃ!って思った時にはもう遅くて、 夏バテ状態になってたの・・・。それで食欲がなくて、気持ち悪くて食べれないから どんどん体調が悪くなっちゃって・・・悪循環になって」



なんやそんなことやったんか・・・・・!
(なるほどな、俺に話すと俺が健康オタクやから怒られると思うたんやな・・・!)

安心した俺はの頭に手をポンッと乗せた。



「そんなんで怒るかいな・・・。俺はが調子悪そうにしとるんみて、いろんな想像してもうたわ!」

「え・・・」

「ユウジと財前なんて妊娠したんちゃう?とか脅してくるし・・・」

「ええええ!そ、それはご迷惑おかけしました・・・」

「良かったわ、夏バテで」

「・・・ごめん」

「いや、良くないんか?」

「もう!」

「冗談やって」

「ごめんね蔵・・・。ここ最近ずっと、そっけない態度とったりして」

「調子悪いんやからしゃあないわ」

「部活休む方が皆の迷惑になるかもって思って、 ずっと学校に来てたけど、逆に心配かけてたんだね。ちょっと自己嫌悪」

「気にしなや。それより

「え?」

「夏バテ解消しにウチ寄っていかへん??」

「・・・!」









というわけで。



「いや、あのっ、蔵・・・ちょっと私あんまり食欲ないしいいって・・・」

「アカン。何か食べ始めなもっと悪ぅなる!」



俺はを俺の家に連れて帰った。
今日は土曜日、午前中で部活が終わったんもあって一緒に 昼ごはんを食べようということにした。 リビングでは座ってもらって、俺はキッチンで バタバタと昼ごはんの準備を進める。



「友香里ちゃんもそろそろ部活から帰ってくるだろうし、お邪魔だから帰るよ私っ」

「だめ。帰さん」

「いいって本当に!本当に気持ち悪くて食べれないから!」

「ええから!ちょっとでもええから」



俺は両手にお皿を乗せて、の待つリビングのローテーブルへと運んだ。
透明なガラスの器がガチャガチャとテーブルの上に並ぶ。 そう、俺がにごちそうする料理、それは。



「そうめん・・・?」

「そうや。薬味も仰山あるから、食欲も出てくるはずや」



俺はそう言いながらのめんつゆに、すりおろしたショウガ・ 刻みネギ・ごま・大葉・大根おろしなどを投入した。



「オクラとかなめことかとろろとか、ネバネバしたもんも一緒に食べると 内臓が冷えんらしいで」

「・・・!」

「何より俺の茹でたそうめんは世界一やで! これ食べたら、絶対元気が出るはずやで」

「でも・・・」

「ほら!食べてみて。一口」

「うん・・・」



はおそるおそる、そうめんを小さく一口だけ食べた。



「どう?」

「・・・・・おいしい・・・・・」

「やろ☆」

「これなら、海行くまでに元気になれるかな」

「もちろん!・・・、俺は元気のあるが一番好きやから、 早よ元気になってな」

「・・・うん」



はおいしそうにそうめんを少しずつやけど食べてくれた。 俺もにつられて一緒にそうめんを食べる。 うん、我ながら今日のそうめんの出来は完璧な茹で方や。

これがが元気になるキッカケになればええんやけど!








そして、それから数週間後。



「よっしゃあああーーー!!!夏や!海や!!!」

「浪速のスピードスターが一番乗りっちゅー話や!」

「ワイが先やぁああ!」

「いやぁーん!アタシを誰か捕まえてぇ〜!」

「小春ぅ!!!待ってや〜!!」



俺らは計画通り、海へやってきた。



「ああ、ちょい待ちぃな自分ら!ちゃんと準備体操せな足つるでぇ!」

「あははっ!行っちゃったね、皆」

「はぁ〜・・・。ゴンタクレは1人やなかったっちゅーわけやな・・・」



我先にと砂浜を蹴って海に走っていくテニス部の連中。
はそんな奴らを見て、手を叩きながら笑っていた。
・・・すっかり元気になったようやな。



「良かった。すっかり元気になってくれて」

「うん!蔵のおかげでこの通り、元気になりました!」

「水着もよう似合っとるわ」

「そう?結局夏バテから復活して元通りになっちゃったんだけど・・・」

はダイエットなんかせんでもエエって。それくらいがちょうどいい」

「本当?」

「せやからあんな無茶もうせんといてな」

「うん、ごめん」

「健康第一な」

「ですよね」




俺とは顔を合わせて笑った。と、その時やった。




「おーい!ー!」


「・・・あれ?謙也?」



海へ向かったはずの謙也がUターンしてきた。どしたんやろ?忘れモンか?



「どしたの謙也?忘れ物?」

「ちゃうわ!!・・・その、あの、大変やと思うけど・・・今日はお腹の子のためにも あんま暴れたらアカンで」

「!!!」

「もうお腹もちょっと出てんやから、油断したらアカンで。ほな!」

「!?お腹出て・・・ッ!?」



謙也はそう言うと、また海へ走って行った。
そういえば謙也にだけ・・・誤解説くの忘れてたわ・・・!
(アイツまだ信じてたんやな)

チラッと俺がの方を見ると、はこぶしを震わせていた。




「忍足謙也・・・!アイツ、殺す・・・!!!」




青い海が、血の海に変わらんかったらエエんやけど。




(蔵!あたしそんなに太ってる!?お腹出てる!?) (出てへんって!せやからダイエットはアカンで) (だって謙也が!!!)



(10.5.16)