私達四天宝寺テニス部は、主に部長が部活内容を決め副部長がサポートする。
顧問は基本的に放任主義で気が向いたらコートにやってくる。(そしてお笑いに厳しい) (コートに入るや否や、無茶振りばっかりだ)

部員が一丸となってテニスを楽しむ部活。
そんなテニス部の日誌を毎日つけるのがマネージャーである私の日課。


いつも帰り道は、部室の鍵閉めをする部長の蔵と一緒に職員室に向かう。
蔵は鍵を返し、私は日誌をオサムちゃんに渡し退室して、その後私達と 一緒に帰るために待ってくれている皆と合流して帰るのが恒例だ。



でも今日はそれがちょっと違う。
今日は蔵が新聞部につきっきりのため、部活を休んでいる。そのため 帰宅する時間が異なり、蔵と私たちは別々に帰る事になっていた。 まぁ蔵は私の彼氏でもなんでもないから、別に気にしなくても良い事なのだけれど。

部活が終わり、「よっしゃ帰るでー!」とみんなが続々と部室から 出てきていたとき小石川くんがぽつりと呟いた。



「・・・ん、そうか。今日は白石がおらんねや」

「あ。そっか」



誰も鍵を閉める様子がない事に、小石川くんが気がついた。
そっか、蔵がいつも鍵をとって締めてくれてるんだ。何気なく部室から出てしまったけど、 そうだよね。小石川くんは一旦外に出ていたにも拘らず、もう一度部室に入って 鍵を取り、施錠した。



「ほな今日は俺が鍵返しやっとくわ。職員室行くよな、

「あっ、うん」


小石川くんに対して返答をする。しかしその時「あ!」とユウジが声を張った。


「ん?どないしてんユウジ」

「ユウくん??」

「思い出したわ。あー小石川、鍵返し俺やっとくわ」

「え?なんで?」

「・・・今日オサムちゃんに言わなアカン話があったの今思い出したわ」

「なんやねん言わなアカン話」

「来週のお笑い講座の打ち合わせや!すっかり忘れとった」


ユウジは「せやから小石川、俺ついでやし鍵返しといたるわ!」と付け加える。 すると小石川くんも「せやな。ほなお願いしようかな」とユウジに鍵をチャラ…と渡した。



「ほな行こうや

「うん」



これは何と珍しい、私とユウジの組み合わせ。
普段もよく喋るけどユウジと2人っていうのは珍しい。必ずユウジの他にもう1人 誰かがいる気がする。内心「なんかちょっと緊張する」と思ったけど、 ユウジはさほど気にしていないようで「オサムちゃん職員室おるんかいな」と 呟いていた。
だから私も変に緊張せず、「競馬行ってたらいないかも」と笑って返した。



ガラララ・・・



「失礼しまーす」「失礼するでー」

「・・・おー!・・・・おおおおおお!?」



職員室の扉を開けると、そこにはオサムちゃんがいた。
こんなに遅くまで残っている先生なんて運動部の顧問の先生達ぐらいなもので、 職員室にはオサムちゃん一人しかいなかった。
他の先生達は・・・いるみたいだけどそれぞれの部活のミーティングに参加しにいってるのかな? 姿が見当たらない。



「何やねんオサムちゃん!!そのリアクション古いわ!」

に・・・ユウジ・・・か!?なんやめっずらしいコンビやなぁ」



オサムちゃんは椅子の背もたれに思いっきり凭れかかっていたんだけど、 私とユウジの2人組が余程珍しかったのか慌てて椅子から起き上がった。 そして瞬きを何度もして、まじまじと私達2人を見つめた。

そんなオサムちゃんを無視して、私はいつものようにオサムちゃんの机の ど真ん中に部活日誌を置く。ユウジもいつもの場所に鍵を返却する。



「オサムちゃん、コレちゃんと読んでよね」

「おー任しときや!!!んなことより、白石はどないしてん! お前らいっつも2人でくるやん」

「蔵は新聞部に顔出してて今日は欠席。まだ残ってるんじゃないかな? 下駄箱に靴あったし」

「ほー・・・。てっきり白石捨ててユウジと付き合いはじめとんかと思うたわ」

「ばっ!!!何言ってんの!ていうか蔵とも付き合ってないからっ!!」

「オサムちゃん、来週のお笑い講座の話まだしてへんけど、何か考えとる?」

「ハッハー!ぜーんぜん考えとらん!!任せたわユウジ」

「またかいな・・・!まぁええわ。」

「んな事よりにユウジ。お前らなんや2人揃うとエライ可愛いコンビやな」

「なっ・・・!」

「そうか?」



可愛いコンビとは一体どういう意味なのか・・・。オサムちゃんの適当発言には 困ったものだ。ユウジは普通に流してる。



、お前彼氏おらんやろ!ユウジとかどや??」

「いや、ユウジにも選ぶ権利あるから・・・!ねぇ」

「つーか俺小春とテニス以外キョーミないし」

〜。お前よぅ見てみ。ユウジ何気にイケメンやで!」

「あのなぁオサムちゃん。俺よりイケメンなヤツは仰山いてるやろ。 何無理矢理くっつけて遊ぼうとしてんねん」

「ハッハー!バレてもうたか。でもホンマにお前ら並ぶと可愛いらしぃで」



オサムちゃんは座ったまま椅子を少し後ろに引き、 両手の人差し指と親指で私とユウジを四角に囲った。 「ん〜。ユウジもさほど身長高ぅないのに、それよりもの方が 低いっちゅーのがポイントやな。可愛らしいな自分ら」と オサムちゃんはしつこくネタを引っ張っていた。












そんなオサムちゃんにからかわれた次の日のことだった。




「あれ、!おはようさん」

「あっ、オサムちゃんおはよう!珍しく早いんだね!」

「白石はどないしてん。今朝もおらんのか?」

「え?まだ蔵見てないの?」



翌朝の練習が始まる前に、職員室の前でたまたま会ったオサムちゃん。
オサムちゃんはいつもなら練習時間開始ギリギリの時間に車でやってくるんだけど、 珍しく今日は到着してたみたい。片手にコーヒーカップを持っている。

いつもこの時間は私が職員室のオサムちゃんの机の上においてある日誌を 取りに行くのが私の日課だ。そして職員室で、今日の朝練メニューのメモ書き (前日にオサムちゃんが書き残したもの)を取りに来る蔵と会うのが これもまた日課なんだけど、どうしたんだろう?



「俺がどしたって?」

「あっ蔵!」



噂をすれば影。蔵が私とオサムちゃんの後ろに蔵が立っていた。
ただ、若干蔵は機嫌が悪いみたい・・・?なんか・・・心なしか今オサムちゃんのことを キッと睨んだような・・・?気のせい?



「なんやー白石、お前今日も連続して来んのかと思うたわ」

「アホか。今日来るために必死になって昨日残って新聞部の仕事終わらせたんや」

「ほー。感心感心。でも先生には分かっとるでぇ〜??お前それだけのためやないやろ」

「へっ?どういう事?オサムちゃん」

「ちょっ!っ大したない事やから気にしなや!なっ、

「うん?」



なんかよく分かんないけど・・・まぁいっか。



「いやーでもな、今朝もユウジとの2人で来て欲しかったわ」

「え?ユウジ?」

「ほら、昨日いつも一緒に付き添う白石の代わりにユウジが来たやろ? 先生アレもういっぺん見たいわぁ!」

「・・・。」

「なっ、あれはたまたまだってば!」

「ユウジと付き合っとるんかと思うくらい、お似合いやったなぁ〜。 あ、もう付き合うてるんやっけ?」

「ちょっ、何ばかなこといってんの!(ペチッ)」



オサムちゃんはチラリと蔵の方を誇らしげな表情をして見た。 蔵はそんなオサムちゃんをまたキッと睨み返していた。 2人は私の見えないところで会話をしているみたいだった。



「あー、もういっぺん見たいなぁ。だってとユウジ、めちゃめちゃお似合いやってんもんなぁ〜。 可愛かったなぁー昨日の2人。」

「・・・っ!」

「身長差がええ感じに可愛いんや。こう、小動物が並んどるみたいなな。」

「オサムちゃん、昨日のネタまだ引っ張ってるの??もー」

「ハッハー!いや、白石にも知っといてもらおうと思うてな。とユウジが ごっつええ感じやったこと。な、白石?」

「・・・こんのアホ教師・・・!」



すると蔵はちょっと不機嫌な様子で私の手首を掴み、 「こんなアホ放っといてコート行こうや、!!」と言いかかとを返した。 オサムちゃんはヒラヒラと手を振り、コーヒーを一口飲みながら 「ほなな〜」と私達に言った。

さっきから蔵が不機嫌な意味も、オサムちゃんが昨日のネタを出してくるのも 意味が分かんない。(なんで!?)(そして何故私は蔵に手首を引っ張られてるの!?)



「く、蔵?どしたの朝から・・・。」

「・・・・・・なぁ

「ん?」


蔵は突然立ち止まった。そして私の方をくるっと向いて。


は、自分より結構大きい身長の人はどう思う?」

「どうって・・・別に普通だけど・・・」

「ユウジに告白されたん?昨日から付き合っとるん?」

「えっ!?ちっ違うよ!オサムちゃんの冗談だって!」

「ほな、ユウジの事彼氏にしたいとか思うとるん?」

「ええ!?そんな事考えたこともなかったよ・・・。 ていうか昨日ユウジ、小春にしか興味ないって言ってたし」

「昨日ユウジが俺の代わりに鍵返ししたんやろ?ユウジと俺、 ぶっちゃけどっちの方が楽しかった?」

「蔵??さっきから何!?何の質問?」

「えーから」

「そ、そりゃユウジとは新鮮味があったけど、でも新鮮すぎて私としては ちょっと気まずかったから・・・。やっぱりいつも蔵といるし 蔵が一番話しかけやすいし、蔵の方が落ち着くけど・・・」

「そっか・・・。ならちょっと安心」

「ねぇ蔵、さっきからどうしたの??」

「・・・・・いや、ごめん。俺も大人にならななっちゅー話や。」

「??よく分かんないけど、なんかあったら何でも言ってよ。 さっきの蔵とオサムちゃん、険悪ムードだったし・・・」

「あーあれはな、・・・まぁ、オサムちゃんが俺に嫌がらせしてきたっちゅーか。 ある種の自慢っちゅーか・・・」

「あははっ、なにそれ!」

「と、とにかく!が昨日のうちに誰にも奪られんで良かったって話!」



なんか今日の蔵、いつもより日本語が難しいぞ・・・??
それにちょっと照れてるのかほっぺた赤いし、目線合わせてくんないし・・・。



「なぁ、念のために言うとくけど・・・。お前が日誌返すときに わざわざ俺が一緒に職員室に行く意味分かっとる?」

「えっ??そ、そりゃ蔵が鍵を返すからじゃないの?」

「でもが日誌をオサムちゃんに渡すついでに鍵も返したら、無駄のない話やん。 それでも何で俺がおるか分かるか?」

「あっ・・・。言われて見ればそうだね!なんで?」



すると蔵は「はー」とため息をついた。
えっ!何々!?どういう事なの??



「できるだけと、一緒におりたいからな」

「えっ」



蔵はぼそりとそう言うと、「ほな朝練の準備しにコートでも行こか!!」と 大きな声で言った。私はよく分かんなくて、蔵に 「今のどういう意味なの!?」って何度も聞いたけど蔵は 「そのうちな」と答えるだけだった。




NO LOSE NO LIFE !?
誰 に だ っ て 負 け た く な い !



(10.3.2)