「白石って確かにかっこいいけど、か弱いイメージあるわ」



朝、友人にそんなことを言われた。
友人曰く「白石はテニス部やけど、テニス部の中でも最も腕力がなさそう」・・・らしい。 確かに蔵は腕が細くて、しかも白いから余計に力がなさそうに見える。 あ、あと包帯巻いてるのも弱そうに見えるのかもしんない。

そういえば、この前謙也と腕相撲して負けてたっけ・・・。
(しかも謙也に細腕やなって言われてちょっと凹んでたみたいだし)


蔵はテニスの時は力強いショットを打ったりするけど、 でもテニスって腕の力で打ってるわけじゃないもんね・・・。 細腕なのにテニスをしてるんだ・・・っていう目で蔵を見てると 、なんだか私まで不安になってきちゃうよ。



「やっぱり男は力があるほうがかっこええよなぁ☆」
「わかるわかる!お姫様抱っことか憧れるよな」



うーん、お姫様抱っこなんかしたら蔵の腕、折れちゃいそう・・・。










「よっこいしょ」



みんなが部活をしている合間のことだ。
部活終了(片付け)の時間まであと15分程度。みんながなるべく早く帰れるように 私はいつも少し早めに片付けを始める。

もうあと15分では使わないボールや、練習で使ったカラーコーンなど 私一人で片付ける。そしておやつの準備も全部済ませて皆がスムーズに帰れるように するのが私の日課。



、そんなたくさんのボール持って大丈夫なんか?」

「あ、蔵」



しかし心配性な彼氏がすぐに駆け寄ってきてくれた。
いつもより多くのボールの入ったかごを両手に持っているから 目立ったんだろうな。蔵は私とは反対側のコートにいたのに、 すぐにこっちに近づいてくれたみたいだ。

ありがたいけど・・・・・・蔵がこっちにきちゃ本末転倒なんだよね。
(だって、あくまで練習に集中してもらうために私が勝手にやってることだし)



「大丈夫だってば!蔵は心配しすぎ!」

「そう言われてもなぁ・・・、の腕折れそうで不安やし!」

「折れないって!それにいつもこれくらいもってるし。私は平気だから蔵は 練習に戻ってよ、ね?」

「・・・・・アカン」



出たよ、蔵の過保護・・・。
蔵は人間としてだけではなく彼氏としてもパーフェクトで、こういう小さな気遣いが 人の何倍も出来る人。だから私は良い意味で楽が出来てるんだけど、 でも私にもできることを全て蔵にやってもらうのも何か癪だ。

私だってこれくらいできるのに!


それに今朝友達と話していたことを思い出したけど、蔵は細腕すぎだ。
テニスをやってるだけでも腕に負担かけてそうなのに、 こんなボール持ったらさらに負担になるんじゃ?
無駄に男らしい発想で、私は蔵に重いものを持たせたくない気分になった。



「アカンじゃないの!そりゃ蔵よりかは細腕だし力もないけど、 でも私だってこれくらいできるもん!」

「だめ。ええからそこ置いときなさい。それは後で謙也がやるから」

「俺!?」



すぐそこにいた謙也がすかさず蔵にツッコミを入れた。



「蔵がそう言っても私はやるからね。だって本当にこれくらい何でもないもん」

「分からん子やな・・・。ええ言うてんねんから」

「蔵も分からない子!私出来るって言ってるんだから」



私と蔵の間に謎の火花が散る。
その光景をまずいと察知した謙也がすかさず「まぁまぁまぁ!!!」と 私達の間に立った。



「まぁまぁまぁ2人とも落ち着きや!!白石もほら、は出来る言うてんねんから 任せたらええやん!」

「せやかてなぁ・・・」

「そうだよ謙也の言う通り、蔵!私だって、腕に自信はあるんだから」


私は自分の二の腕の筋肉をパチッと叩いていった。


「普段そんなに使ってない筋肉使うと次の日痛めるに決まっとるやろ。 それにより俺の方が力あるし」


今度は蔵が腕まくりをして二の腕の筋肉をちらつかせる。


「む・・・!な、何よ・・・そんなに筋肉なくてもこれくらいのボールなんて持てるんだから!」


私は蔵の腕をペチッと軽く叩いた。


「それに私知ってんだからね!この前謙也に"細腕やなぁ白石!"って言われて ちょっと凹んでたこと!」

「え゛・・・。白石ホンマなん?」

「・・・く・・・!言うたな・・・!」

「さっきだって"ボールは謙也が運ぶから"って言ってたし、蔵本当に 力がないんじゃないの??」




蔵は何も言い返せないみたいだ。すぐに下を俯いてしまった。 悪乗りしすぎてちょっと言い過ぎたかなぁ、と私が心配して 蔵の顔を覗き込んだそのときだった。



「きゃっ!?」



蔵は急に私の事を思いっきり肩に担ぎ上げた。
急に視界が高くなって、体がフワリと浮いて驚いた私は 足をジタバタさせ抵抗した。
あまりにコートの端っこで騒いでたためか、コートで練習に入っていた 部員の人たちみんなが「何だ何だ?」と楽しそうに私たちの方を注目する。 謙也もなぜか笑ってた。

蔵は抵抗する私を無視して、私を担いだままなんとそこに合ったカゴも楽々と 反対の手に持ち、コートを出て行った。











「ちょっ!?蔵ー!!!何してんの!」

「どや、俺が細腕やないこと分かったやろ」

「・・・!」

「これくらいできるっちゅーねん」

「蔵・・・。」



すると蔵はストン、と私の事を下ろしてくれた。
そしてニコッと笑って。



「そら謙也には腕相撲で負けてもうたけど、を守るくらいの力くらい 俺にだってあんねんで。」

「蔵・・・。」

「俺もちょっと過保護すぎたかも。でも彼氏としては 彼女に重い荷物持たせたくないやん」

「・・・うん」



蔵は本当に優しいんだね。いつも自分より私の事を考えてくれる。 蔵の言葉が素直に嬉しかった私は、えへへとにやついてしまった。



「はぁ〜・・・。それにしても俺、そんなにか弱く見えるんかなぁ。 こう見えて結構自信あんねんけどなー」

「・・・ふふふっ!」

「確かにテニス部の奴らと前に腕相撲大会したら、俺下の方やったけどさ・・。」

「まぁまぁ。テニス部の人たちはバカ力が多いし仕方ないよ」

「そうやけど・・・やっぱ腕に力ないと男らしゅう見えへんやん」



あらら・・・。相当気にしてるみたいね・・・。



「でも蔵、私の事担ぎ上げるくらい力があったんだね!ビックリしたよ!」

「そ、そりゃそれくらいはな」

「それだけで嬉しいよ☆それだけで十分」

・・・」

「それ以上に何が必要??腕の力が全てじゃないでしょ」

「・・・せやな」


蔵は納得したようでやっと笑ってくれた。


「それに私好きだよ、蔵の腕。ちょっとか弱そうなのに実は意外と力持ちって感じで」

「ホンマ?それ」

「うん!・・・さっきは細腕って言っちゃってごめんね。 でも蔵が私を持ち上げれるくらい力持ちって分かったし、今度困ったときは私蔵に頼むからね」

「是非そうしてや」



・・・はぁ、蔵と仲直りできてよかった!
それにしても今何時なんだろう??そろそろ練習終わる時間なんじゃ・・・
私はふと、コートから見える学校内の時計を覗いた。



「・・・あ。蔵、そろそろコート戻らなくちゃ。あと5分で部活終わるよ!」

「え?」

「此処までボール運んでくれてありがとう!!コートに戻ろ」

「待った」

「へ!?」



蔵はコートに戻ろうとする私を引き止めるように、私の二の腕を掴んだ。
ええ!?私まだなんかしたっけ!?



、どこ行くねん」

「どこって、コートだけど・・・」

「なんで」

「何でって5分前だからでしょ!」

「フーン。5分もあるんや」

「は・・・?」



蔵はニヤリと笑った。な、何その笑顔・・・!怖いんですけど・・・!!



「5分あればいろいろ出来るな」

「何言ってんの!蔵はキャプテンでしょ!」

「キャプテンの前に俺はの彼氏」

「子どもみたいなこと言わないで、早く戻・・・・・っん・・・!」



蔵は私の事をグイッと抱き寄せて、唇を無理矢理重ねた。その時の 蔵の腕の力はそれは凄くて、「細腕なんて言ってゴメン」って心の底から思った。 がっちり私を固定する蔵の腕。物凄く力強い。もしかしてこの力で腕相撲したら 蔵が一番なんじゃ・・・?


そんな事を思った部活終了5分前の出来事。







(10.2.23)