「越前とは上手くいってるのかな」






不二先輩が部活終わりにそう話しかけてきた。

不二先輩の考えはいつも読めない。何を考えて何を企んでいるのか。
不二先輩の質問は何かを探ろうという感じもするし、ただのおちょくりな気もする。

でもこの場合は。
私とリョーマくんが付き合っている事をからかいたくて質問してるんだきっと。



私には思い当たる節があった。


日曜日だった昨日、リョーマくんと私はデートした。
その帰りにリョーマくんが 私の家まで送ってくれた時、近所に住んでる桃先輩にうっかり目撃されてしまった。
デートしてたって事は部活の先輩たちには内緒にしたかったリョーマくんの計画は音を立てて崩れた。 よりにもよって一番口が軽そうな桃先輩に目撃された挙句、翌日である今日には先輩全員に広まったのだから。

「最悪・・・」と言っていた今朝のリョーマくんの顔が忘れられない。
不二先輩もきっとその話を聞いたんだろう。


リョーマくんの事はいじり倒したから今度は私に来たんだと思う。





「そうですね、一応・・・!」


「へえ、仲良いんだ」

「悪くはないですね。ケンカもしたことないし、一緒に帰ってくれるし・・・」

「そっか。じゃあキスも普通にしてるの?」

「・・・え?」




腕を組んで、綺麗な蒼い瞳を私に向けながら微笑む不二先輩。
キス、という単語に思わずあっけにとられた私。


キス、・・・・!!
まだそういうのは早い、という事で興味はあるけどしたことはない。
口にするのも恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。

もちろん初めてのキスはリョーマくんにって思ってるけど
「その時」がくるのは分からないし決めてもない。
ただ私はそういう時が来るのを待っているだけだ。





「・・・・・・いえ、まだ・・・・・ないです・・・けど・・・・・・・・」

「なーんだ。昨日したのかと思ったよ」

「・・・もしかして昨日のデートいじりの続きですか?
朝練のときから乾先輩と菊丸先輩に散々いじられたのでそのことはもう・・・・」




私がそう言いかけたとき、唇に何かが触れた。




(え・・・・・・・・・・?)






ハッと我に返ると目の前にあの蒼い瞳。
不二先輩にキスされたんだと理解したのは3秒後。




思わず唇を抑えて、不二先輩から一歩下がって先輩を見る。
不二先輩はいつものように涼しい顔をしていて「昨日してないんなら好都合だったよ」と微笑んだ。

抑えた唇が少しだけ震えているのか、怖くて手が震えているのかは分からない。
ただただリョーマくんの事が一番最初に浮かんできて、涙が一筋だけ流れて 勝手に足が動いて不二先輩の前から走って逃げた。



考えて行動しているわけじゃなかったけど、無意識に水飲み場の蛇口をひねって 唇をすすいだ。パニックになっててあまり覚えてないけど、洗い流そうとしたんだと思う。




「?、何してんの」

「リョーマくん・・・・・・・っ」

「洗いすぎじゃない?そんなこすってたら唇とれるよ」

「・・・・・・・リョーマくん!」

「わ!?」





急に私が抱きついたものだから、リョーマくんは後ろによろけた。





「ちょっと!今抱き着いたら桃先輩にまたからかわれっ・・・・・・・・」

「リョーマくんごめんなさい・・・・・・っっ!!!」

「!?」




ただならぬ私の状況に何か感づいたのか、リョーマくんは落ち着いた声で 「どしたの」って言ってくれた。その声でちょっと落ち着いた私は、 少しだけ体を離して「・・・・・・・ごめん・・・・・ごめんなさい・・・・」と謝った。



「いきなり謝ってどしたの」

「・・・・・さっき・・・・・・・・・私・・・・・・・・・・・・」

「?」




心配そうに私を見るリョーマくんを見ると自然と泣けてくる。
涙を流す私に驚いたリョーマくんはもっと心配そうに「!?」と私を呼ぶ。




「・・・・・・・・不二先輩に・・・・・・・・その・・・・・・・」

「??不二先輩?」



「キスされちゃった・・・・・・・・」





口元を両手で覆って、リョーマくんにしか聞こえないぐらいのか細い声でそう言った。
怖くてリョーマくんの目が見れなかった。胸が苦しくてしょうがない。





「・・・・・ウソ」

「・・・・・・・・ほんと・・・・・・・・・嘘だと思いたい・・・・・・・」


「・・・・・・・!」





私はそのまま顔を両手で覆って静かに泣いた。
まさかキスされるとは思わなかった。ビックリしたし怖かった。

リョーマくんとしたいなって思って大切にしてた気持ちが自分でも驚くくらい大きかったみたいで、 それだけに罪悪感が凄かった。リョーマくんに申し訳ない気持ちでいっぱいで、 不注意だった自分が許せなかった。





「・・・・それで洗ってたの?」




私が泣きながらコクン、と頷くと自分の頭に手の感触がした。



ゆっくり顔をあげるとリョーマくんが頭をポンポンと優しくなでてくれたようだ。
怒っては・・・・・・ないみたい・・・・・・・・でもちょっと寂しそうな顔・・・・・・・






「リョーマくん本当にごめんなさい・・・・・・・私・・・・・・初めては・・・・・・・リョーマくんとしたかっ・・・・」

「分かってるから。は悪くないから」

「うう・・・・・・っ・・・・・・・・」



「だからもう泣かないでよね」





リョーマくんは優しくそう言ってくれた。
私は呼吸を整えながら「怒らないの?」と聞いた。リョーマくんは「そりゃ凄く嫌だけど、 は何も悪くないし。むしろ怒ってるのは不二先輩にだね」と答えてくれた。





「それより、」

「・・・」

「今の話はほんと?」

「え・・・」


「その・・・・・・俺と、したかったって話」


「ほんとだよ・・・・!私、ずっと大切にしたかったし待ってた」





私がそういうと、ちょっとだけリョーマくんが顔を逸らした。
どうしたんだろう、と思ったその時、リョーマくんが私の頬に手を当てて そのままキスをしてくれた。唇に柔らかい感触がした。





「今のがの最初。・・・って俺が決めたから」



「・・・!!!!」





「・・・・・・・・そーゆー俺も・・・・・・・・・・・最初だから。俺の初めては。」










(17.12.17)