「ちょっと待って跡部、ストップ」




生徒会室のソファに押し倒されて、唇があと3mmで触れるというところで私は彼を静止した。

跡部と自分の唇の間に指を立てたものだから目をつむっていた跡部は目を開ける。
ごちそうを前に、という言葉がピッタリなくらい不機嫌な顔をして。




「・・・・なんだよ」

「生徒会室はダメだって」

「キスくらいいいだろ」

「キスで終わらせる気ないよね?」

「まぁな」

「じゃあだめじゃん!」




私と跡部は付き合っている。だけど跡部にはファンがたくさんいる。
跡部のファンはそれを知ってる。けど跡部のファンということに変わりはない。

私はたまにファンの人に申し訳なくなる時がある。
一番そう感じるのはバレンタインの日。だけど普段だって結構気にする。
私がもしファンで、憧れている人が彼女といたらショック受けるもの。。。
実際ファンの子が告白して跡部がフったあとに鉢合わせてしまい、 その後跡部が「行くぞ」って腰に手を回して帰ったことがあった。その時の背中で聞く 女の子のすすり泣く声がやたらと耳に残ってしまっていたたまれなかった。
だからなるべく学校内では跡部と接触しないようにしてる。

学校=跡部のパブリックゾーン、学校外=プライベートゾーン
そんな線引きをしている自分がいる。
跡部が聞いたら「あーん?気にしすぎだろ」というんだろう。



だから今現在、生徒会室という学校内で跡部が押し倒してきたのは凄く後ろめたい。




「学校ではダーメ」

「チッ・・・」



さっきよりも不機嫌な顔してソファに座りなおす跡部。



「ファンの子も大事にしなきゃ」

「俺が何しようと俺の勝手だろ」

「学校ではみんなの跡部様だから」

「・・・・・そんなモンどうでもいい。俺はと一緒にいてぇんだよ」



そう言いながら私に凭れ掛かってくる跡部様。(うかつにも可愛いと思ってしまった)

でもだめだめ、ここは学校・・・



「いつも学校で俺を避けるのはそういうワケか?」

「そうだよ」

「くだらねーな」

「大体今日だって生徒会室で待ち合わせるのも嫌だったんだよ。
ファンの子が見てたら2人っきりで生徒会室にいるって事実、悲しむに決まってるもん」




跡部が私の髪をいじりながらため息をついた。




「俺は別にアイドルや芸能人じゃねえ。それよりもオーラがあるのは認めるが」

「あ、そこは認めるんだ」

「不倫してるわけじゃねーし誰かを好きになるのはこの年なら当然のことだろ。 悪い事はしてない」

「それはそうなんだけど・・・・・・。なんていうかなぁ・・・!!」

「俺とお前が付き合ってるからという理由でファン辞めるなら辞めればいい。
俺はにさえ愛されていればそれでいい」



そんなきれいな顔で真面目にそう言われちゃうと・・・・!!!照れる・・・!!!
跡部のいうことにはやたらと説得力がある。
でも私の中の「申し訳なさ」はやっぱりまだ消えないというか・・・



、そもそも俺がここに呼び出した理由わかってねーのか」

「えっ・・・」

「わざとだよ。お前がそうやって誰かに怯えて俺と付き合おうとするからな」

「え・・・えええええ!?わざと!?」

「ファンが2人でいるところを見たらショック?いいじゃねーか、本望だ」

「ちょっ!!跡部・・・!!!」



跡部は急に私の手首を掴んで後ろに押し倒した。
さっきの体勢に後戻りじゃん・・・!

顔を横に逸らしたら「こっち向け」と跡部の方を向かせられる。
至近距離で跡部に見つめられてこれ以上の反論ができなくなっちゃう。




「周りに見せつけるくらいがちょうどいい」

「・・・・・悪い人・・・」




その言葉のあとに嬉しそうに「愛してるぜ」とささやかれて抱き締められたら。

ファンじゃなくて私が何も言えなくなっちゃうじゃない。





ビリーアイリッシュ(19.10.14)