「景吾様、そろそろ・・・」

「わかってる」




何回目かの催促で俺はトレーニングを切り上げた。

俺に仕えている奴らは皆優秀だ。
優秀な故に、俺がトレーニングのキャパをオーバーしようとすると止められてしまう。
さっきから時計と俺の様子を見ては「そろそろ」と声をかけられてはいたが・・・

やっと聞いてくれたと思ったのか、トレーナーと執事は安堵のため息をついた。
「それでは出口でお待ちしております」とだけ告げて執事はトレーニングルームを出た。




・・・・・・ふう。




シャワーを浴びて着替えてジムの外に出た。
自分の家が経営しているのをいいことに出るのは当然俺が最後。

「お疲れ様でした、景吾坊ちゃん。どうぞ」
そういって送迎車のドアを開けてくれる執事のミカエル。




「・・・ミカエル、今日はいい」

「坊ちゃん、明日も早いのでしょう?」

「歩いて帰りたい気分なんだ、トレーニングの仕上げのつもりでな」

「・・・お言葉ですが、もう時間も遅いです。何かあっては」

「心配するな。何かあったら連絡する。それに家までせいぜい2km程度だ、すぐ戻る」



俺の気持ちを汲み取ってくれたのか「かしこまりました。では家の前でお待ちしております」と 一言告げてミカエルは車を走らせて行った。
俺はそれが嬉しかった。・・・なぜなら今日は1人で何かに没頭していたい気分だったからだ。

トレーニングで火照った体をクールダウンしたかったのと、
ここ最近起こった出来事を整理するのに頭の中を整理整頓したい気分でもあった。
とにかく、1人で色々考えたい。そんな気分だった。






(全国大会に出れる事にはなったが・・・・・・・・)



(本当に良かったんだろうか)





関東大会の初戦で青学と当たり敗退。
全国大会へは出れなくなってしまった。

しかし開催地枠で氷帝の出場が決まり、結果的に全国大会に出れることとなった。
青学が関東の強豪校を倒し手に入れた全国への切符。当然の権利だ。
だが俺はその同じ大会に開催地枠で出れることとなった。

悔しい思いが真っ先に来た。おそらく俺個人にきた話なら断っていた。
なぜなら俺の美学とプライドが許さないからだ。

しかし同じ学校の仲間が「行きたい」と願い氷帝生が「行って欲しい」と願った。
これは俺だけの問題ではない、そう感じた俺は引き受けることにした。
そして引き受けるからには優勝を届けたいと思った。それが俺たち氷帝にふさわしい。

それぐらいしねえと俺様の気が済まねぇしな。




だがやはりまだどこかに「良かったんだろうか」という気持ちがある。
出場が確定した今、トレーニングに没頭して忘れたい気持ちだが・・・

まだ決断に俺個人の気持ちがついていけてないということか・・・・・・




色々と今日の出来事を振り返っていたその時だった。





「跡部!」


「・・・・・・・・!?





突然聞こえてきた女の声。しかも聞き覚えのある声。
誰かと思えばだった。



「跡部、おつかれ・・・!」

お前なんでここに・・・!?今何時だと思ってんだ!」

「・・・う・・・・だって跡部のトレーニング邪魔したくないし・・・すぐ出てくるかなって待ってたら 結局こんな時間になったんだもん・・・!」

「!」



待ってたのかよ・・・・・・!!!!

呆れる。・・・ふとミカエルもさっき俺に対しこんな気持ちだったのかと思った。




「跡部!跡部!」

「・・・・なんだよ」

「全国大会出場決定おめでとう!!!」

「!」



は笑顔でそう言った。
あまりに暢気な笑顔だったから、一周回って俺は肩の力が抜けた。



「・・・・・お前、それを言うためだけに待ってたのか?もしかして」

「跡部のインサイトってすごいね!?そうだよ」

「お前‥・・・・」



インサイト?使うまでもなく分かるだろ。
こいつは俺がもし車が帰ってたらどうするつもりだったんだろうか。



「電話のひとつぐらい入れれば良かっただろ・・・」

「跡部は1人でいたかったのかなって思ったから」

「・・・!」

「跡部ああいうやり方、ズルしたみたいで好きじゃなさそうだし、話受けたのはびっくりした。
だからこそいろいろ葛藤してるのかなって思ったの。
・・・・・・・ストイックに練習した後ならおめでとうを聞いてくれるいつもの跡部かなって」




意外に鋭いな・・・・・
俺はの洞察力に感心した。俺の事をよくわかってるじゃねーか。



「フ・・・・・」



俺はの事を抱きしめた。
突然抱きしめられたは驚いていた。



「跡部・・・??」

「そこまで分かってんなら言わせてもらうが」

「・・・!」


「ありがとよ」




ぎゅっと腕の中に抱き締めながら俺がそういうとは「顔を見てお礼が言えないなんて 跡部らしい」とクスクス笑った。うるせえ、といい俺も笑って抱きしめる力を強めた。



「全国大会で戦う跡部が見れるなんて楽しみだね」

「期待してろ」




葛藤はあったが、俺の活躍を喜んでくれる相手がいるのは悪くない。
のおかげで色々と吹っ切れた。・・・ありがとな
二度目は本人には言わず心の中でそう思うだけにした。

しかし顔にそれが出てしまってるかもな、そうなるとにもお見通しかもしれない。





(19.2.11)