「明日は跡部様の誕生日ね」

「精一杯お祝いしなくちゃいけないね」

「明日は跡部様に近づくのも難しそう・・・こっち見てくれたらいいのだけど」













氷帝学園の入学式でひときわ目立っていた同級生代表の跡部くん。

私はあの日キラキラ輝く跡部くんに一目惚れした。
片思いのような「好き」という気持ちが芽生えたのと、 「あっ・・・これは学校中の女の子を虜にする人だ・・・」という妙な納得。 絶対モテると確信したし実際そうだった。あの日から氷帝は完全に跡部くんが支配した。 そして彼には全生徒を納得させる実力もあった。カリスマ性のある人とはこういう人なんだろうと思った。


私も女の子たちに交じって翌日から跡部くんを見にコートに行った。
教室にも覗きに行った。かっこいい跡部くんの姿が見たくてファンになった女の子と一緒に 騒いだ。「かっこいいね」「跡部様最高だね」ってキャーキャーするのが毎日の楽しみだった。 結局3年通して同じクラスにはなれなかったけど、毎年4月のクラス替えの時は 跡部くんと同じクラスになれますようにとドキドキして登校してた。



自然と跡部様のファンクラブみたいなものも出来た。
ファンクラブにも喜んで入った。ルールも守って跡部くんを応援してた。
体育祭のとき跡部くんの写真をとって友達と交換したし
2年生のときの体育祭では数名の友達も含めてではあるけど一緒に写真も撮れた。

誕生日である10/4は毎年祝った。プレゼントだって送った。
でもあんなに数あるうちのひとつ、認識はされていないだろう。
誕生日当日には常に跡部くんの周りには人だかりが出来ているし、 直接手渡しできる人なんて一握り。近づくことはおろか跡部くん本人の姿を 確認することすら難しい。それでももしかしたら、と思って私は頑張って声を張った。



1年生、2年生と跡部くんを応援してた。
遠くから応援してるだけだったから跡部くんは認識すらされていないだろう。
それでも良かった。楽しかった。





だけど今年の3年目の10/4を目前に私はなんだか心にぽっかり穴が開いた気分だった。




「・・・・・・跡部さま、かぁ」




いくら頑張ってもいくら私が好きであろうと
跡部様は手の届かない存在であることに変わりはない。

跡部くんに尽くしてきたけど認識はされていない。
見返り何かいらなかったけど跡部くんからなにか返ってくることはない。
向けられる言葉は大衆に向けた言葉。私のためじゃない。

凄い人だから隣に並べるわけじゃない。
自分の身分がわかってるから何かをしようとも思えない。でも跡部様は悪くない。

手紙は書いた、でもファンレターという認識で片づけられるだけ。
きっとありがとうと思われてそれで終わり。次になんて進めない。

でも跡部くんを好きな皆きっとそう。私だけじゃない。




最近跡部くんを応援するファンとして疲れてきた。
好きなはずなのにこのままでいいのかな、そう思ってきた。

だから私は決めた。

明日の10/4、跡部くんをお祝いして終わろう、と。



跡部くんをこのまま好きでいても・・・・・・何も変わらない。
一歩踏み出して私は私で好きな人をちゃんと作らないといけないのかなって。
現実見なくちゃって。だから明日精一杯跡部くんを祝おう。それで終わり。
嫌いになるわけじゃないからこれからも応援はするけど・・・
心の中でする。ファンクラブはやめるし跡部様中心の生活はやめよう。



今年もきっと近づけないし声も届かないだろう。

だけど跡部くんを好きな気持ちは本当だから明日は頑張る。
きっと跡部くんは私が明日でファンやめる事すら認識はしないだろう。

それでもいいの。









10/4朝。
この日は朝から後連のテニスコートは女の子の人だかりが凄かった。
跡部くんが動けば人だかりも移動。テニス部の仲間が警備員のように跡部くんの周りにいる。 毎年恒例の光景だ。私も近づこうとしたけど・・・今年も無理だった。


今日が最後だしせめて肉声の届く距離でおめでとうと言えれば・・・!
あわよくばプレゼントを手渡しできたら。

そんな淡い期待もぶち壊すほど今年の誕生日は凄かった。
中学最後の年だったし、15歳というキリのいい数字だったから。



昼休憩や合間の休憩でチャレンジしてみるけど無理だった。



残るは放課後の午後練が終わった後・・・・・・!








午後練の見学はひたすら跡部くんを目で追った。
練習が終わったらすぐに跡部くんのもとへ走った。プレゼントを持って。


人だかりは相変わらず凄い。女子たちの集団は押し合いで身動きが取れないほど。
まるで通勤ラッシュの満員電車のような空間だ。




(も、もう無理・・・息できない・・・!!!一旦この群れから抜け出したい・・・!!)




どうにか集団から抜け出そうとして体を動かす。
ちょっとずつ移動して時間をかけて移動していたら、あともう数mで抜け出せる位置にきた。
思いっきりそこへ向けて体重をかけて群れから抜け出した。



すると、そのときだった。




「・・・・・・!」




偶然にも角を曲がるときの跡部くんと鉢合わせた。
跡部くんをこんな近くで誕生日に見れたのは初めてだったから「え・・・!?」と呆気にとられた。 でもそれも一瞬。あっという間に女の子たちが道をふさいで私の抜け出したそこはあっという間に 人だかりに逆戻り。

でも運のいいことに私は最前列にきていた。
跡部くんに手渡しできる位置にきていた。



ああ、これは今日が最後だから神様が私にくれた最初で最後のチャンスなんだ。
そう思って精一杯手を伸ばして「跡部さまー!」と呼んだ。でも跡部くんは振り返らなかった。

やっぱ結局最後もこうなのね。と半ばあきらめ。
ううん、逆に踏ん切りがついたかもしれない。もう無理なんだって開き直れる。


今日で終わり。


これで終わり。





自分から遠ざかっていく跡部くんの後ろ姿を目に焼き付けるように見つめた。
ああもう、あと50cm、手を伸ばしたら届く位置にいるのに。
後ろ姿の跡部くんがこんなにも遠く感じるなんて。







今までありがとう跡部くん。これからも頑張ってね。
プレゼントを持ち懸命に伸ばした手を引っ込めたその時だった。






「・・・・・・ン。おいお前」


「・・・・・!?」




突然、跡部くんが振り返った。今私と目が合った気がしたけど隣の人・・・!?




「どこ見てやがる。C組の・・・・だったか。お前だ」

「!?!?!?わ、わたし・・・」




突然名前を呼ばれビックリする私。え、跡部くん・・・が私の名前を呼んだ・・・!?
今までなにもなかったのに??????



「フン、こんなに最前列に来れたのは今年が初めてなんじゃねーか?」

「!!!」

「いつも後ろの方にいたが頑張ったんだな?」

「えっ・・・ははは、はい・・・・」


「誕生日を迎えますます輝きを増す俺様を目に焼き付けると良い」






私を認識して・・・・・くれてた・・・・・・・・!?

いつも私が後ろばっかで近づけないのを・・・・・覚えてくれてたの・・・・????
分かってくれてたの跡部くん。ねえ、名前も知っててくれたの?



跡部くんの視野の広さとファンすら大事にする姿勢に脱帽だ。
そして最後「来年も頑張って前に来いよ??」と口角を上げ笑う跡部くんの顔が目に焼き付いて離れない。 私はもっていたプレゼントをもう一度腕を伸ばすのに必死だった。でも結局それは届かなかった。 でも十分だった。応援してきて2年半、あんなに嬉しかったことはない。



明日でファンは卒業。
そう思っていたけれど。





(跡部くんには人を惹きつけて離さないカリスマ性があるなぁ・・・)





どうやら私は離れられないみたい。










テニラビのガチャしてて、推しが出ないのが何十連も続き もう諦めようとした最後の10連で推しが来た時の気持ちをドリームにしたかった、、、 というわけでガチャの写真です。(18.10.14)