最初は、「何で付き合ってくれたんだろう」。

今考えると、「何故付き合ったんだろう」。


私はただの学生だった。
氷帝の受験に合格し、学生生活を送っていた。
氷帝はすごくいい学校だった。友達はみんな面白いし楽しいし、何不自由ない生活だった。


そんな「ただの一生徒」の私のことを少し有名にしたのは跡部だった。



跡部のことは入学当時から知っていた。

(というより知らない人はいないと思う)


入学式のときから派手で、良い意味でも悪い意味でも脳に焼きつく人だった。
入学式の挨拶も、そのあとテニス部を乗っ取ったという話も、学校の設備を変えてしまった事も
全てが有り得ない事だらけで、その存在は常に意識させられていたのかもしれない。

いい意味でも悪い意味でも彼は私たちの話題の中心だった。
有り得ないやつだね、と話すけれどどことなく嫌悪感を感じなかったのは
やっぱり彼にカリスマ性があったからなんだと思う。

やってる事はめちゃくちゃだけど正すと全てに筋が通っている。


それが私の彼に対する第一印象だ。



話は少し逸れてしまったけど、そんな彼と私が出会ったのは
彼に似合わないような地味な出会い方だった。
ただ単に、席が隣になってしまった。ただ、それだけ。


最初は「あの跡部」と壁を感じて緊張したし、隣の席だろうと喋れないと思っていたけど
意外に跡部はとっつきやすかった。


意外と跡部は喋りかけてくれる人だった。
入学式のとき隣の席に座っていた忍足がこんな事を言っていた。
「意外と皆が思っとるようなヤツちゃうかも」って。

確かにそうなのかもと感じた。

豪快に見えて意外と几帳面で、強引に見えて気を遣ってる。(跡部なりに)
私がぼんやり窓の外を見下ろして授業を聞いていなかったら
椅子を軽く蹴って、口パクで「ばーか」と言ってきたりする。


体育のとき「お前発育遅くねぇか?」と真顔で聞いてきて私が「むかつく!」ってどつくのも、

国語のとき「古典なんていらないよ」って嘆く私に「日本人失格だな」と悪態をついてきたり、

数学のとき「足し算引き算掛け算割り算ができれば生きていける」って呟いた私に 「とりあえず学年末テストで生き延びれるかだな」とツッコミを入れてきたり(律儀だ)

英語のとき「私理系だしね!」って、返された悪い点数のテストを見て開き直った私に、 「お前ここのスペル、bとdが間違ってんじゃねーか。理系とかの問題じゃねーよ」とまたまたツッコミをいれてきたり。


あ・・・。そういえば英語の宿題見せてってお願いしたら、意外とすんなり見せてくれて
ラッキー♪なんて思ってたけど、跡部のノートは全部筆記体で読めなかったりしたっけ・・・! (絶対わかって見せたなバカ)



その割には英語の授業で、音読を当てられた時
私が読み方がわからない単語があると、ぼそっと発音を教えてくれる。
「バカだな」っていう言葉を添えて。



そんな彼のギャップにやられたのが少し。


それとたまに見せる笑顔にやられたのが少し。。





回りには「やめておけ」と言われた。





跡部ぐらいのレベルのかっこよさなら、周りの女の子が放っておかないのも知っていたし
冷静に考えたら私なんか跡部に釣り合わないと分かっていた。
他のクラスの可愛い子ですら跡部の告白は成功しなかったのも知ってる。

あまりいい噂も聞いた事がなかった。
本当かどうか本人に確認できるわけなくて聞いた話だけど
跡部は結構ナンパとかして遊んでるって。テニス部のマネージャーのことが好きって。
先週女の人とデートしてたとこ見たって人の話も聞いた事がある。


でもなぜか他の女の子と私は違うって思ってた。
いや、そう信じたかったのかもしれない。


どうしてあんなに頑張って跡部を信じてあげたかったのか分からないけれど


でも本当にそう思ってた。
だから跡部から告白されたときは本当に嬉しかった。



私なんかで良かったのかな。



ネガティブな発想しか出てこなかったけど、嬉しかったんだよ。

なんで付き合ってくれたのかな。






「付き合え」なんて横暴な告白だったけど、私は頷いた。
頷いた顔を上げると跡部が嬉しそうにしてた。なんか、私なんかの返事ひとつで 感情が見えちゃう跡部が可愛く思えた。やっぱり跡部のことは好きだった。



でも楽しかったのは最初だけ。



私以外の女の子とも平気で喋るし。
平気でモテるし。

私がスネても「可愛くねーな」の一言。

なんにもしてくれなかった。



別に女の子と喋るのはいいんだよ。

私だって何度も分かろうとした。


でもなんでそうやって他の女の子の髪をなでて喋るの。
なんで私と付き合ってる事を誰かに言ったりしないの?




だから私も途中から冷めた目で跡部のことを見ていた。
私は跡部の人生という名のショーの、通行人くらいでしかなかったのね。

レアチケットを手に入れて、貴方のショーを一番の特等席で見れて幸せよ。



思えば跡部は私と「付き合え」と言ったけど好きだとは言わなかった。
「跡部ー、私の事・・・・・好きっ?」って小さく聞いても「さぁな」としか答えてくれなかった。
「お前が好きだと感じれば好きなんだろうし、そうじゃないんなら違うんだろうな」って 言ってた。そうじゃない、そうじゃないんだよ。

私はただ一言でも肯定の言葉が欲しかった。



私に背を向けて他の女の子と楽しそうに喋るなんて。

そのまま、背を向けたまま、私の前から去りなさいよ。



むかつく。









「跡部、」

「・・・なんだよ」

「私の事好き?」

「急にどうしたんだ」




毎週金曜日は一緒にいる約束をしている。
一緒にいるといっても、最近では同じ部屋にいるだけってかんじだけど。
頭がいいくせに、こういうのを「時間のムダ」とは思わないんだろうか?




「いいから。ね、好き?」

「・・・・・。嫌いじゃない」

「・・・なんで好きって言わないの?私より好きな人がいるから答えれないんでしょ」

「どうしてそうなんだよ」




むかつく。私のことを心配するのも演技のくせに、そうやって上手く演技するのね。

跡部の演技が上手すぎるから私・・・・・・



泣きそうだよ。







「なんで泣いてんだよ。おい、泣くなって」

「もういいよ。私なんて放っといて」

「なんで放っとくんだよ。おい、こっち向けって

「今まで散々放っておいたくせに、今更何」



涙目で睨むと、跡部は少し戸惑った顔をしていた。
またそうやって特別を感じる演技を見せるのね・・・
そういうとこがむかつく。



「もう知ってるから。他の女の子と仲良くしてることも、いろんな噂も」

「・・・・・。」

「跡部にとって私が傍にいる理由って、なに?」

「・・・」

「・・・・・・答えれないんならいい。」





私は荷物を整理した。
すると跡部が「おい」と私の手首を掴んだ。だけど私は振り払った。



後悔すればいい。

そうやってもっと早く私の手を掴んで離さなければ良かったことを。





「じゃあね跡部。楽しかったよ」












(・・・・・・さよなら、)



跡部に追いかけられたい(17.8.22)