突然ですが、私の席の隣は今日から跡部になりました。










跡部景吾、といえばその存在を知らない者はいないと思う。
見た目の美しさもさながらやる事がハデ。そして無駄にカリスマ性をもっている。

黙っていればその見た目だけでも有名になること間違いなしなのに
違った意味で超有名。(性格超俺様だし)



3年生になって最初に驚いたのは跡部と同じクラスになったこと。
それだけでも凄く驚いていたのに、今回の席替えでまさかの隣同士。
跡部といえばとにかく「けた外れ」っていうイメージしかなくて。

ああ・・・前回の隣の席だった増田くんは素朴だったけど、癒しだったなと気づかされる。
(忘れ物しても快く見せてくれるし!)(授業中も程良く喋れてたし!)



今日からもう忘れ物できないじゃん・・・・



隣に座る跡部のことを、おそるおそる見てみた。
うわぁ・・・・本物だ・・・!!!(あんまり近くで見たことない!)

こうしてみると、普通にかっこいいよね・・・。
私の中での跡部は「かっこいいけど、変な人」のイメージだから
やっぱり隣の席っていうのは緊張する。・・・ファンも多いしね。


隣人なんだし仲良くなれればそれが一番だけど。

でも隣に座っているのは天下の跡部様、なわけで。絶対無理だ。





席替えして1日目、私は全く横が見れなかった。
これが前回までの増田くんだったら、「今日の授業めんどいねー」とか気軽に喋れるのに!

2日目も3日目も、全然見れなかった。

だけどある日、私はついにやらかしてしまうことになる。





(げ・・・・・!!!!!教科書忘れた・・・!!!



そう、私は教科書を忘れてしまったのだ。
これが先生が黒板に問題を書いてくれる数学や日本史ならまだしも
この日私が忘れたのは「国語」の教科書。国語なんて教科書ありきの授業じゃん・・・!

隣のクラスの友達に貸してもらおうと思ったけど、時すでに遅し。
跡部じゃない方の隣に教科書を見せてもらおうと思ったら、隣は病欠。(ピンチ!)


私には跡部に見せてもらう以外、方法がなかった。



・・・・うう・・・・・緊張するけど・・・・・!!!ここは仕方ない・・・!





「あ、あの・・・跡部・・・」

「ん?」



頬杖をついて席に座っていた跡部は此方を振り向いた。心なしか嫌そうだ。



「教科書忘れたから・・・み、見せてもらってもいいかな・・・」

「・・・・・いいぜ」



多分これが跡部と初めて喋った瞬間だ。
跡部が私に向けて例の色っぽい声を発する。(これが噂に聞くエロボイスね!)
初めて身近で聞いたその声に「ああ、本物だ」と改めて実感した。


私は怯えながら跡部に机をくっつけた。
跡部と私の机の間に教科書が置かれる。あ、優しい・・・・。いや、普通か。

授業が始まって数分、本当に教科書を見せてくれてありがたいと思った。
なぜならこの日私は教科書に出てくる漢字の読みを先生に聞かれたからだ。
跡部には本当に感謝!

・・・本人には言えないけれど。


こんなに近くなのに跡部と私は一切会話を交わさなかった。
というよりむしろ、跡部と席が近いってだけで私は緊張してた。

普段国語のノートなんて、増田くんと先生の似顔絵書いて遊んだりするのに使ってたけど
この日は跡部に見られてる気がして、必死にノートを書いた。
跡部のあの鋭い目線で見られると怖い・・・!

授業が終わって私は「ありがと、」と目も合わさずお礼を言って席を離した。
ファンの子に見られて何か言われるのが嫌だったし、何より跡部の隣は緊張するから。





だけどこの日、神様は私のことをまだいじめたいみたいだった。

午後に化学の授業があって、私たちのクラスは理科室で授業を受ける事になっていた。
理科の教科書はもちろん持っているし今回は大丈夫!・・・と思っていたら



「今日は実験をします。隣の人と2人1組でやること。じゃあ実験器具を前に・・・」



そう、理科の実験は跡部と私の2人ですることになっていた。
理科室の席は2人用の机、水道を挟んで2人用の机、っていう設計だから
自然と跡部と私は同じ机に着席することになっていた。

これが前回の隣人増田くんなら、水道をひねって机に文字を書いて遊んだりできたけど
跡部が隣となってはそんなことができるわけがなかった。

(跡部が隣になったら、私の成績が上がりそうだ!)




「わ、私実験器具とってくるね!」

「・・・」



私は跡部の顔も見ずに席を立ち、前に出て実験器具を取りに行った。
なんとなく跡部に実験器具をとらせたくなかった。
というのも私の悲しきパシリ精神だと思う。

だって跡部はあの「跡部様」だから。手を煩わせちゃダメだって思って。



でも。




「無理すんな。割れたらどうすんだ」

「あっ・・・」



私が必死に実験器具を集めていたら、跡部が見かねて前に出てきてくれた。
私の手からビーカーやフラスコをいくつか抜き取ると「行くぞ」と言ってくれた。

席に戻って実験が開始した。

今日の実験ではガスバーナーを使うらしい。
うう・・・!!!よりによってガスバーナー・・・!
私はガスバーナーをつける事が出来ない。なんか、怖いんだよね・・・!

今までは隣人の増田くんがガスバーナーをつけてくれていたから、私は水をビーカーに 入れる係だった。だけどその制度はもう終わった。・・・どうしよう。



「・・・つけねーのか?」

「えっ・・・あ!うん・・・!」

「つけねーと実験できねぇだろ」

「あ、いや・・・あの。私ガスバーナーつけれないんだよね・・・」

「は?」



うわー!!!!今目が合ったけど超睨まれたー!!!!



「・・・しょうがねぇな。貸せ」

(あ・・・)

「お前はマッチに火をつけるのが嫌なのか?それともガスバーナーの使い方がわかんねぇのか?」

「りょ、両方・・・」

「・・・ワガママだなお前」

「だって、こわくない!?」

「ならお前が火をつけろ。後は俺がやる」

「・・・!!(え?やってくんないの?)」

「・・・何嫌そうな顔してんだよ。やらねーといつまでたってもそのままだろ」

「いてっ」



跡部はそういうと私にデコピンをしてきた。
ええええ!?なんか普通に接して頂いてる!?



「早くつけろ」

「こ、こう?」

「アホか。擦る方向が違ぇよ!」

「どうやんの!?」

「シャッとやりゃいいんだよ。火が付いたら此処にもってこい」

「シャッてどのくらいの速度?シャッとどれくらいの強さで・・・」

「・・・って意外にバカだな」



バカ!?






結局その後、跡部は私がマッチに火をつけるのを手伝ってはくれなかった。
ただし、そのおかげで私はマッチに火をつけることが出来るようになった。

実験は跡部の手際がよくて、すんなり終わったし。


その実験以来、私はなんとなく跡部の目を見る事ができるようになった。




「あ、跡部。おはよ」

「おう」



朝、挨拶を交わすようになった。
そして軽い会話もできるようになってきた。

隣の席になって2週間目には、授業中に喋れるレベルにまでなった。



「跡部、授業中携帯つついたらいけないんだよ」

、こんなのは見つからなかったら許されるんだぜ。知ってたか?」

「俺様だね」

「それが俺の売りだ」




跡部と喋ってみて、なんとなく不思議なかんじがした。

跡部って意外に表情の変化がない人だなと思った。
あんなに派手なことを入学当初からしている割には、喜怒哀楽がハッキリしてない。
感情を表に出していそうで、意外に顔に出さないんだよね。


そして何より教室での跡部は静かだった。
普段は女の子にキャーキャー言われたり、部活の人たちに命令まがいのことをしてるけど
でも普段は・・・静かに本を読んでいたり、携帯をつついていたり。
そこらへんの男子と変わらないなって思った。




「跡部、部長って大変?」

「別に大変じゃねぇよ。むしろにマッチの付け方教える方が大変だ」

「一言多い!」



英語の授業中、跡部は机の下で洋書みたいなのを読みながら会話をしてくれた。
(あ、意外にそういうこともするんだね)



「200人もいたら、部員の顔わかんなくない?」

「まぁな」

「私の友達がテニス部よく見に行ってるよ」

「女は好きだな、そういうの。見られるのも楽じゃないんだぜ」

「でも跡部には興味ないっていってたよ」

「あぁん?」

「C組の芥川くん?って人?目当てっていってた。けど部活にいないことが多いって言ってた」

「はぁ・・・。ジローな。アイツの扱いにゃ骨が折れるぜ」

「そうなの??」

「2番手の実力の持ち主なクセに、睡眠を優先して部活にまともに出てきやがらねぇ。 困ったヤローだ」

「へー!そんな人がいるんだね!」

「他にもいるぜ。妙な奴等」




跡部はそういうと、洋書を片手間にして私の顔を見て喋り始めた。
あ、跡部本当に部活のこと好きなんだろうな・・・。
部員の話を始めた途端、少しだけ表情が緩んだ。

最近は少しだけ跡部の表情の変化がわかるようになってきたよ。


と、そのときだった。




さん!!!私語ばっかりしないの!」




英語の先生に怒られてしまった。・・・ひー!
(跡部の方が喋ってたのにー!!!)

跡部は注意された私を見て口を抑えて爆笑していた。(庇えバカ!)



「・・・ちょっと。怒られたじゃないの」

「俺様は日頃の行いがいいからな。」

「なっ・・・!!!跡部の方が喋ってたくせに・・・!!!納得いかないっ」

「ははっ!」



私がそういうと、跡部は笑った。
私は今まで跡部が笑う=「フッ」とか「フン」とかしか見たことなかったから
感情的に笑う跡部は新鮮だった。あれー!笑ったりするんだ!この人!!



「・・・なんだよその顔、気持ち悪ぃな」

「あははっ!跡部も笑うんだなーって♪」

「・・・!!!」

「跡部様の素顔を見た気分だよ☆」

「はっ。ばっかじゃねーの。」



跡部はそういうと私を小突いてきた。
なんだかそれが、少し嬉しかった。






席替えをして4週間(1ヵ月)が経った。

1日8時間、それを30日も一緒にいるとさすがに打ち解けてきた。
今では教科書も平気で忘れれるし(貸してもらえるっていう安心感!)
無意味に緊張することなんてなかった。

ガスバーナーもこの前初めてつけれるようになった。
間違えて空気調節ねじを回し過ぎた時には跡部にスコーンと頭を叩かれたっけ。
(でもなんやかんやで付き合ってくれた!)



最初は跡部の隣だなんて、怖かったけど今はむしろ楽しくて!
隣人の増田くんが恋しいと思うことも少なくなってきた。

でもそれも今日限りとなった。





この日、私のクラスではまた席替えが行われる事になった。




ー!どこの席??」

「えっとね・・・35番!」

「いいなー!窓際!!!私なんて一番前だよ」



今回の席替えでは、私は窓際の席になった。
クラスで一番の特等席と言われる席だった。前の席には元隣人の増田くんがいるらしい。

隣の席は・・・・・・当然ながら跡部ではなかった。

跡部は反対側の廊下側の席になった。
クラスの女の子(跡部ファン)が跡部の隣になったらしく、きゃーきゃー騒いでた。



「じゃあ今から席替えー!!!」



クラスが一斉に新しい席に移動するために机を動かし始める。



「跡部、じゃあね。お世話になりました!」

「本当にな」




本当一言多い!!!
・・でもこの憎たらしい会話も今日限りでできなくなるとするとちょっと寂しいな。

でも跡部はそう思ってないだろうね。
私みたいな淡泊なタイプより、ああやってきゃーきゃー騒いでる女の子の傍に行った方が 本人のテンションも上がるだろうし。(嬉しいよね、人に好かれると)


・・・私も新しい席で新しい生活だ。
何より隣人改め前の席になった増田くんにまたお世話になるし。


私の新しい席の周りは、いい人ばっかりだった。
うんうん!喋りやすそう!女の子もいるし、お昼ご飯も楽しそう。
周りの子たちと「よろしくねー」なんて会話をしていた、そのときだった。




「おい」

「・・・?っ跡部くん!?」



跡部が私の隣の席の子に話しかけた。えええ!?
(あんた反対側の席でしょ!)



「俺と席、かわれ」

「え・・・」



跡部は私の席の隣の子にそう言って、強引に席を替わった。
跡部は私の隣の席でふてぶてしく座った。・・・えええええええ!?




「ちょっと跡部!!そういうの非常識っていうんだよ!それ!

「ああん?うるせーよばーか」

「ばか!?」



跡部は腕を組んで、いつも通り頬杖をついていた。
増田くんを初めとする席周辺の人は、私と跡部が会話していることに驚いている。



「なんで此処にきたの!?」

「・・・さぁな?」

「さぁなって・・・!!!くじ引きの意味ないじゃん!変わってもらったら!」

、知ってるか?」

「え・・・・・」



跡部はそういうと私の方をチラッとみてきた。
そして目を合わせたまま、にやっと笑った。




「こういうのは、見つからなかったらいいんだぜ」

「・・・・・・・!!!!!」




どっ・・・・どっかで聞いた事あるセリフ・・・・・・




「ちょ・・・・超俺様・・・・!!!」

「それが俺の売りだ」





その強引さが、またあの楽しい日々を取り戻してくれるんなら・・・・いっか☆








8th anniversary&ペアプリ発売おめでとう記念第3弾は跡部でした! 「コンポーズド・ルーム」とは「落ちつかない教室!」って意味です。 跡部が隣にいると落ち着かないだろうな(11.7.25)