約半年ぶりに恋人が帰国するとのことで、私は空港にいた。


私の彼は、ドイツへ留学していた。

ドイツには氷帝の姉妹校がある。そこでは日本では学べないような事が 学べるということで、恋人である景吾も「いつかはドイツに行きてぇな」と 日頃から呟いていた。そして旅立ったのは半年も前の話。

私は彼が留学したいと言い、留学を実行することに何も驚かなかった。


彼はやりたいことは実行に移すし、言いたいことも素直に言う。 たまに傷つくこともあるけれどそれが彼の良い所なのだ。 だから景吾は留学を決意したその日に「新学期からドイツに留学してくる」と 私に言ってきた。普通の恋人なら此処で"行かないで!"っていう トラブルがつきものなんだろうけど、私も彼を理解していたし留学については何も反対はしなかった。 「いってらっしゃい」、ただそれだけを伝えた。

景吾は元々ドイツ語に堪能だし、向こうの生活にも抵抗ないだろうし。
何も心配することなんてないじゃない。
(しいてあげるなら浮気するかなと思ったけど、景吾はああ見えて意外に一途だしね!)


「寂しくねぇのかよ」と小突かれたけれど、「引き止めたら残ってくれるの?」 と言い返したら景吾は「可愛くねぇ女」と私に言った。 彼なりの感謝の言葉だったんだと思う。



話がだいぶ逸れてしまったのだけれど、そんなわけで彼は今日その留学から帰って来る。 半年振りの帰国で私もドキドキする。

実は留学というものは、約2年間の過程(らしい)んだけど、 海外には「飛び級」という日本にはないシステムがあるみたいだ。 一定の成績を収め学業の過程を終えた人は、在籍期間など関係なく 卒業できるというものだ。

まさか、とは思ったけど景吾はこの飛び級を見事利用し 通常2年のところを半年まで切り上げて帰国するのだ。


私に会いたかったのかどうかはさておき、早くに帰ってきてくれるのは嬉しい。
そして彼、らしい。



半年といえば日本の四季でいうと2シーズンくらい。 たったそれだけ期間なんだけど、やっぱりいつも毎日顔を合わせていた分、 久しぶりに会うのは緊張する。

きっと向こうでいろいろ吸収してきて、一回り大きくなったんだと思う。
知識もそうだけど、いろいろと影響されて景吾がもっとかっこよくなってるに違いない。



(ええーっと、そろそろ空港に着く時間なんだけどな)



先ほどから飛行機が何着も何着も到着しているみたいで、 トランクを引き摺って帰国する日本人をたくさん見かけたし多分そろそろだと 思うんだけどなぁ。

キョロキョロと空港内を見回していた、そのときだった。




「一体どこ見てんだ、バーカ」

「!!!景吾!」



後ろから頭をパシッと軽く叩かれたと思ったら・・・!
そこには待ちわびていた人、跡部景吾の姿があった。

手にはトランクや手荷物をたくさん持っている。



「けっ、景吾おかえり・・・!!」

「何緊張してんだよ」

「うわわわ!!」



景吾は私の事を抱き寄せ、おでこにキスをした。
なっ・・・!!!何よこの海外の挨拶のノリ・・・!!!



「・・・ドイツかぶれ!」

「ああん?面白ぇ事言うじゃねーか」

「だって帰国早々キスって!日本っぽくただいまくらい言ってもいいんじゃない?」

「フッ。・・・ただいま」



ただいまと言って笑う景吾はめちゃくちゃかっこよかった。
ほんっと何やっても決まるよね、景吾は!



「お前にしちゃ気が利くな。迎えにくるとは」

「そっ、そりゃ半年ぶりに彼氏が帰国してくるんだもん!嬉しくて来るでしょ」

「嬉しい、ねぇ」



すぐ揚げ足を取るところは半年前、いや、出会った頃から変わらない。
景吾と私は空港を出るために歩きながら会話を続けた。



「ドイツどうだった?楽しかった?」

「ああ。楽しかったぜ。行ってよかった」

「そっか!でも景吾がドイツに行ってる間、私は物足りなかったよ。 やっぱ景吾いないと学校が締まらないっていうか・・・。 しっくりこないの」

「寂しかったか」

「・・・そりゃあもう」

「俺も同じくお前がいねぇとつまらなかったな。 まぁ安心しろ、明日から俺も普通に学校に復帰するし」

「・・・うん。ほんと、景吾・・・おかえり」

「ああ」



私は景吾にグッと引き寄せられた。だから私も景吾の肩に頭を寄せた。
景吾が私がいなくてつまらない、なんて言うとは思わなかった。
ふふふっ、どうしよう。嬉しいな・・・☆



「ところで

「ん?」

「・・・お前、胸が少しでかくなってねぇか?生理中か」

「!!!!!」



私の胸を何の躊躇もなしに掴む景吾。
・・・くっ、コイツは人が乙女みたいに喜んでたら・・・!!
私は「最低!!」と景吾に言い放ち、手をペチッと叩いてやった。



「うっうるさいわね!それが帰国直後に言う事!?このエロ男!」

「いいだろそれくらい。それと・・・少し太ったみてぇだな。

「なっ!!!太っ・・・!!!」

「俺様がいねぇから、運動不足か?アン?」

「ちっ違うもん!!」



ニヤリと笑う景吾。景吾のインサイトは健在だった。



「それと」

「ちょっと、まだあるの??」

「女らしさが消えたな。お前」

「なっ!!!」

「どうせ俺がいねぇからって油断してたんだろ」

(それに関しては何も言えない・・・!!)

「本当にお前は、俺がいねぇとダメなようだな」



自信満々に言い誇る景吾。この男はなんでこんなにも偉そうで、 自信たっぷりに物を申すことが出来るのか、庶民の私には到底分からないし 分かったところでどうしようもないことだ。

・・・でも。



「そう思うんだったらずっと傍にいてよ」



私が寂しげに呟くと、景吾はわしゃっと私の頭を撫でた。
そして「言われなくてもそのつもりだ」と嬉しそうな声で言った。

景吾はドイツから帰ってきても景吾だ。
・・・かっこいいのには変わりないし、優しいのも一緒。





「ん?」

「俺がいねぇときの話をしろ」

「え?(命令形?)」

「お前の生活が知りてぇ」

「知りてぇ、って・・・。むしろこっちがドイツでの暮らしを聞きたいくらいなんだけど」

「バカか。俺には俺のいねぇ半年間のお前を知る権利があんだよ」

「景吾、ドイツ生活が長くて日本語忘れちゃったの?」

「あ?俺には"を知らない期間"があっちゃいけねぇんだよ。 出会った時からずっと、を知ってるからな」

「!」

「・・・だから話せよ。お前が知りたい」



週に一度は国際電話してたし、さほど話すこともないと思うんだけど・・・
でもこれは景吾なりの「嫉妬」みたいなものなんだろうな。
ふふふっ、独占欲が強いとこも・・・結構可愛いじゃん。



「何笑ってんだよ」

「あははっ、景吾かわいいなーって思って」

「うっせぇよ。お前の方が可愛いぜ」

「・・・!!!」

「・・・少し見ねぇ間に、可愛くなったじゃねーか。

「そういう景吾も少し見ない間にかっこよくなったよ」




ゴロゴロというキャリーケースの音が止まる。



「会いたかったぜ、

「私も景吾に会いたかった」



私は景吾の首に手を回して思いっきり抱き締めてやった。
そして私と景吾は空港という人の多い場所でキスを交わした。

久しぶりの景吾とのキスは、懐かしいような新鮮なような不思議な気分だった。



「・・・さて。帰国したは良いが、色々やることが溜まってんな。面倒くせぇ」

「学校に留学のレポート出さなくちゃいけないんだっけ?」

「生徒会のことや部活のこともあるしな」

「私でできる事なら手伝うよ。何でも言って♪」

「何でも、か?」

「うん!何々?何か手伝えることあるの?」



すると景吾は手を顎に当て、何かを考え始めた。
そして名案が浮かんだのか口角をあげて笑う。



「ならとりあえず、俺の部屋に来い」

「は?」

「こっちもいろいろ溜まってんだよ。とりあえず来い」

「ちょっ!あんた本当にバカじゃないの!?」

「名案だろ?半年間のお前を知る効率的なアイディアだしな」

「調子に乗るな!(ペチッ)」






跡部に必要とされたら嬉しいですよね。 やたらボディタッチの多い跡部。会えて、舞い上がっちゃってます(10.3.28)