カラン――――

グラスの中で氷が鳴った。
琥珀色に輝くその飲み物は、大人だけが飲むことを許された飲み物。


グラスを持ち上げゴクリと一口。
カウンター席で1人座ってお酒を嗜んでいる跡部は無言でカウンター奥にあるお酒のボトルを 眺めた。一息ついてまた一口。




「カッコイイ男は1人でもお酒が似合うのね」


「・・・・・・きたか」




跡部は視線を彼女に向けるような事はしなかった。
お店に入ってくるなり、カウンターに座る跡部の隣に座る女。
上着を脱ぐとその下はノースリーブ。「私も彼と同じものを」と注文を済ました。




「で、。例のものは?」

「今回は大変だった。さすがは跡部の女、スムーズにいかない」

「ご苦労だった」



はそう言うとバッグから3枚写真を取り出し、表はテーブルに伏せたまま跡部にスッと渡した。 跡部も無言でそれを受け取るとジャケットの内側ポケットに大事そうに隠した。




「じゃあお仕事終了のカンパーイ!」

「ああ」



グラスを交わす音が軽やかに鳴る。



「忍足もそうだけどねぇ・・・。私はあんたたちの女問題を解決するためにこの仕事についたわけじゃないの! わかる?テニス部のマネージャーやってたあの時のノリでコキ使うんだから」

「楽しいだろ?」

「・・・・ま、いい男とお酒飲めるのは唯一のいい事かもね」

「・・・あれから13年か。時が経つのは早いもんだ」

「いつも跡部は私にだけこういう極秘ミッションを与えてきたよね。無理難題をね」

「懐かしいな」

「懐かしいと思いつつも当時から変わってないよねぇ・・・。この関係」




はぁ、と呆れたように笑いため息をつく
どうやら跡部とは切っても切れない関係らしい。

「高校の時だっけ、当時の彼女から乗り換えたい女がいるけど 彼女が感づいてるらしく行動できないから私にどうにかしろって言ってきたの」と がお酒を飲みながら言うと、「忍足の方がひどかっただろ? ヤリ捨てした女がメンヘラだったからどうにかしろってやつ」と跡部が言った。
「だから構ってちゃんはやめとけって言ったのに!アイツ、それが可愛えねんって 言って・・・あー思い出しただけで腹が立ってきた」とも懐かしそうに答えた。



「あんたたちロクな事しないわねぇ・・・、いつまで経っても」



カウンターテーブルの上でおもむろには手を組んだ。
その瞬間を跡部は見逃さなかった。の指にはめてある指輪が減っていたからだ。




「・・・・・・お前、彼氏と別れたのかよ」

「・・・・・目敏いなぁ」

「アーン?」

「誰かさんに頼まれてた用事をこなしている最中に、誤解されてね。
色々あった末にフラれたの。ほんと、誰とは言わないけど誰かさんのせ・い・で・!」

「フン・・・責任とってやろうか?」

「ぷっ、ばか言わないで」



は笑いながらそう言った。
「あんたは今の女と別れるのが先でしょーが!」と言ってお酒を一口飲んだ。



「そんなこというな。お前は口が堅いし俺の不利になることはしねぇ・・・。
なかなかいないんだぜ、そういうヤツ」

「ハイハイ」

「・・・・・・・来るか?」



跡部はホテルのカードキーをテーブルの上を滑らせての前に置いた。
それに気づいたはさすがに跡部の方に視線を向けた。

そして頬杖をつきながら視線を戻し、お酒を一口飲んだ。



「・・・・・・口説いてんの?跡部様が?」

「お互いフリーなんだしいいだろ?」

「いやあんたはフリーじゃないでしょうが!これ以上私を修羅場に巻き込まないで」

「俺が嫌か?」

「・・・・酔ってるの?跡部」

「お前にな」

「あんたが酔うのはいつも自分でしょ」




跡部の足がカウンターの下での足に当たる。
それに気づいたが跡部の顔を見る。跡部も無言でを見つめる。




「私はね、酔った勢いでヤるほど軽くないの」

「本気だぜ?」

「ワンナイトもお断り。」

「今夜だけとは言わせない」

「帰るわ。ばいばい、また用事あるとき呼んで」

「・・・待て」



跡部が立ち上がろうとしたの腕を掴む。




「俺の女になりな」




13年越しに一体何を言っているのだろうか、この男は。
そりゃイケメンだし少し惹かれた時期もあった。しかし跡部は自分に 絶対に興味がないと思っていたし、その証拠に跡部は彼女を絶やさなかった。
好きまでは行かなかったが「ハイハイ、そういう事ね」とは一線を引いていた。

それが13年越しに何を言ってるのだろう。
女関係が上手くいかないから、最後の切り札として誘っているんだろうか。
いや、跡部ほどの人ならもっと選択肢はあるハズだ。もしかして本気・・・?

もしかして私に妬いて欲しくて今までいろんな女に手を出してたのかしら。
そうだとしたら忍足が引っかかった女以上に構ってちゃんだ。


たくさん困らせてきたのももしかして・・・・・・・私の気を引きたかった・・・とか?



いやいやいや。考えすぎだ。今目の前にいるのはただの酔っ払い。
まともに相手にするだけ無駄、が正解だ。
は「ないない」と言い席を立った。



「しょーがない」



これ以上絡まれたくないと思い、は跡部の部屋についていくフリして 部屋まで行った。跡部は結構飲んでいる様子だったし(彼女とのことが跡部なりにショックだった?) このままベッドに放り投げて去って行こうと思ったからだ。

バーは跡部の財布を勝手に拝借してお金を払い、酔った跡部をつれて出た。
エレベーターで抱き寄せられたついでにお尻を触られたがその手を叩いて何とか無事、 プラン通り跡部の部屋までたどり着くことができた。
ベッドに向かって跡部を突き飛ばしは「おやすみ酔っ払い、ばいばーい」と去ろうとした。

は部屋を出る準備をしながら片手で電話をかけた。



「あ、もしもし忍足?・・・うん、うん。そう。跡部との用事終わったから迎えに来て。
どうせまだ飲んでないから車出せるでしょ?・・・うん。そう。」

「・・・・・ったくあんたたちねー、女性関係はしっかりしなさい!
次私を呼ぶときは倍額だからね倍額!説教してやるから早く迎えに―――」



がそう言いかけたその時だった。




「・・・・・っん・・・・・・・・・!!!!!」




突然後ろから抱きしめられてキスをされた。
誰に?そんなの決まっている。




「・・・・んぅ・・・・・・・・・あ、とべ・・・・・!」




跡部はの電話の通話ボタンをオフにし、携帯をその辺に投げた。




「酔ってる!?」

「アーン?そんなの、お前をここにおびきだすための演技だ演技」

「は・・・!?」

が面倒見いいのは昔から知ってるからな」



跡部は得意気に笑いながら壁に肘をついた。



「・・・・サイッテー!!!ふざけないで!あんた本当にばか!?今日の跡部嫌い!」

「忍足が迎えに来んのか?」

「そーよ。その後忍足に説教・・・じゃなかった一緒に飲むんだから離して」

「妬くじゃねーか・・・。そのまま忍足と夜も過ごすのかよ」

「ハァア!?・・・・誰があんな眼鏡と」



壁に両手をつかれ閉じ込められてしまい、逃げ場がない。
のスラリと伸びる足の間に跡部は足を入れて、逃げれないようにする。
跡部のキスは巧い。反抗して胸を押していたも次第に力が抜けてしまう。




「・・・・・あとべ、寂しいの?」

「・・・・・・・もう一度だけいう。俺の女になりな」




細い腰に手を回されて、そのまま服の中に手を滑らせた跡部に何も反抗できなかったのは お酒ではなく彼に酔ったからだろうか。








(17.11.24)